手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

泥沼の戦場

泥沼の戦場

 

 ロシアによるウクライナ侵攻は、今、どうなっているのでしょう。どっちが勝っているのでしょうか。ニュースに出てくる、ウクライナの地図を見る限り、互いが譲り合わずに、最前線はほとんど動いてはいないように見えます。

 但し、ウクライナ軍は、今月から、アメリカやドイツの支援の武器が届いて、相当に活気づいているようです。そうなら、ウクライナ軍が有利かと言うと、地図の上では一進一退で、劇的な変化は見られません。

 ロシア軍は、ひたすら、今守っている陣地を維持することに懸命で。毎週のように、トラックに乗せた新兵が各陣地に送り込まれて来るそうです。兵士は死んでも死んでも、次の兵士が送り込まれて来るのです。

 その兵士がロシア人の時もあれば、中東やシベリアから来た兵士もあるそうです。まず彼らは、全くと言っていいほど訓練を受けていないため、銃を渡されても戦うすべを知りません。それでも上官は、このまま塹壕に隠れているだけでは、ウクライナ軍のドローンの標的になってしまいますので、塹壕から出て、少しでも前進することを命令します。

 ところが、塹壕から前に出れば、そこは全く身を隠す場所がなく、しかもウクライナが仕掛けた地雷や迫撃砲、ドローンに狙い撃ちされ、何も知らない新兵はあっという間に命を失います。

 特に、ウクライナのドローン攻撃がものすごく、小さなドローンに爆弾が積まれ、それが蚊の大群のように、空を覆いつくすほどに押し寄せて来ます。平地で、身を守るものが何もないところでドローン攻撃を受けると、全く何一つ攻撃できず、次々と爆弾を落とされて兵士が死んでゆきます。

 更に、遠くのウクライナの陣地から迫撃砲が来ます。迫撃砲はかなりの制度でロシア兵の集まっている場所に狙い撃ちをしてきますし、また、戦車などをめがけて飛んできます。戦車の周りに寄り添って前進している10人くらいの兵士が、一瞬で戦車と共に死んでしまいます。

 更にはクラスター弾が飛んできます。クラスター弾と言うのは、弾が飛んでいる上空で、分裂して、仕掛け花火のように細かく散って、あたり一面に何百発もの小さな爆弾となって降り注ぎます。クラスター弾が一発空中で爆発しただけで、10人20人の前進する兵士が一度に戦死します。

 クラスター弾がどこに飛んで来るかもわからず。いざ空中で分裂すると、まるで殺虫剤をスプレーで、あたり一面吹きかけたのと同じ効果で、害虫を一度に駆除するのです。当然兵士は全員死亡します。クラスター弾から身を守るものは何もないのです。全く戦場での兵士は害虫と同じなのです。

 ロシア軍はしゃにむに前進して、攻撃を繰り返していますが、とにかく兵士の消耗が激しく、50人100人と言った部隊がたった一週間で、いとも簡単に全滅してしまいます。そうなるとまたトラックがやって来て、新たな兵士が送り込まれるのです。

 

 こうした戦いがロシアにとって有利であるようには見えませんが、それでもロシア軍の陣地は、少しも後退せず、維持しています。ウクライナ軍は、いつ終わるとも知れない戦いを繰り返しているのです。

 戦死者の数を言えば圧倒的にロシアの兵士の方が負けています。武器も、装備も、ロシア軍は古く、効率の悪い戦いを繰り返しています。ウクライナ軍は、ドローン攻撃が主流で、毎日とんでもない数のドローンを飛ばして、ロシア兵を攻撃しています。然し、こうした戦いを繰り返すだけではロシア軍に勝利することは出来ません。

 

 私は、先月ウクライナのことを書いたときに、「今のままNATOが消極的な支援しかできないのなら、ウクライナは戦いに勝利することは出来ない。どこかで和平工作をしたほうがいい」。と書きました。それは今の戦いでは展望が見えないからです。

 そもそもNATOが本気にウクライナを支援する気があるのなら、初戦から半年くらいの間にNATO軍が大兵力を出して、一気にロシアの陣地を攻めるべきだったのです。戦争の鉄則で、如何に大軍を擁していても、戦力を小出しに出していたら、勝利はありません。いたずらに戦争を長引かせるだけなのです。今回のウクライナ侵攻こそその好例です。こんな戦い方をしてウクライナに勝利はないのです。

 と書いた途端に、先月末、アメリカが急に支援策を国会で通過させて、強力な支援が始まりました。でも、これでウクライナは戦いに勝利するかと言えば、そうはなりません。多少今より有利にはなるでしょうが、対ロシア戦に勝利するのは相当に難しくなってきています。

 ロシアはウクライナの三倍の国民がいて、さらには石油、天然ガスなどの資源も豊富にあります。つまり、全面戦争をした場合、ウクライナに負ける相手ではないのです。ウクライナNATOや、アメリカの支援があるからここまで戦えたのです。

 このままではいくら戦っても勝利はありません。どこかで和平の道を探らなければならないでしょう。アメリカ、NATOはどう考えているのでしょうか。矢張り、どこかで休戦する以外ないと考えているのではないかと思います。

 ウクライナには戦闘意欲があります。然し、NATOアメリカも、ロシアと正面から戦うことに対しては始めから及び腰です。ロシアはいざとなれば全面戦争も辞さないでしょう。そうなら、どうやってもロシアには勝てないと言うことになります。

 ロシアは、かつての第二次世界大戦で、ドイツと戦って、2000万人の命を失っているのです。戦争の当事者のドイツ、イタリア、日本の全ての戦死者よりも多い、2000万人です。そこまでの犠牲を払ってでも戦い抜いたのです。

 今度のウクライナ侵攻でも、多くの犠牲を払うことに躊躇はしないでしょう。結局、多くの人口と、豊かな資源を持ったロシアには勝てないのです。ウクライナにすれば相手が悪いのです。そうなると、どこかで停戦をするしか可能性はないわけです。

 ウクライナは世界中で最も豊かな国土を持つ農業国なのです。然しその豊かさを謳歌できないのは、北にロシアがいるからです。ウクライナと言う国は、肥沃な大地を持ちながら、ロシア人にそっくり養分を抜き取られて来たことが最大の不幸なのです。その不幸はこの先100年経っても変わらないのです。

続く