手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

チャレンジャーズライブ2024春 

チャレンジャーズライブ2024春

 

 昨日(2月11日)JCMA・NMF共催によるクロースアップコンテストが催されました。場所は、浜松町から徒歩10分くらいにある電巧社と言う会社の二階にある劇場で行いました。この会社の社長さんは、中島乃武也さんと仰って、慶応のマジックラブ出身者で、以前私が主催していたSAMにも所属していたマジック愛好家です。

 何十年もお会いしていなくて、どうしていたかと思ったら、立派なビルを建てられて、しかもまだマジックを捨てていないと言うところが有り難く、この場所はこの先マジックライブに生かされる機会が頻繁に増えるでしょう。

 

 さて、チャレンジャーは18人。随分ボリュームのある内容です。私は全部見ました。レベルは雑多でした、多くはマジックの世界にどっぷりはまっていて、まだ個性を作り出せない人が殆どでしたが、巧い人もいましたし、個性的な人もいました。全員詳細を語ることは出来ませんが、幾つか印象に残った人の感想を申し上げます。

 一本目、翔波。ポーカーチップとカード当て、この辺りが今の日本のアマチュアのアベレージでしょうか。二本目、YUKIYA。ニューハーフっぽい恰好で出て来て、コスメを語りつつ銀貨を金貨に変えるアクト。面白いです。見るからに変なところが最高です。この人は将来テレビで売り出すかもしれません。三本目は松川陽亮。驚きのアクトです。初めは改める必要のないテーブルを開けて見せ、テーブル板まで改めて、あらかじめお客様に預けておいたカードを貰い、テーブルに広げます。ここでこのカードが一枚足らないと言い出します。観客は何が起こったのかわかりません。やむなく自分が懐に持っていたカードを出して、カード当てを始めるのですが、どうもうまく行かず、「今日はこれでやめます」。と言って終わってしまいます。これは凄い、ここまで観客の期待を外しまくって、何一つマジックをしなかった人を初めて見ました。

 もしこれを狙ってやっていたなら天才的な芸人です。後で当人は自分を恥じていましたが、これは恥じることではなく、人生に大きなチャンスを掴んだことになります。このどうしようもない状況こそ、自分の成功が秘められています。当人が自分の才能に気付けば大成功します。私はピープルズチョイスに選びました。

 四本目はせがわーるど 。ゲームを応用したカード当て、陽気な演技でした。五本目はもろやまだ。カードをズボンのチャックを開けて、中から出していました。そのデックを観客に切らせていました。六本目はNori。カードマジックでしたが、記憶に残りません。七本目はRYU.からの手から水を出しました。まだ演技全体がこなれていないのか、印象が薄かったです。ここで休憩。

 八本目masato.。どこかで拝見しています。素材を造り替えて、独自の不思議を作っています。いいセンスです。オープニングの、赤デック青デックを突き刺して、デックをクロスにしてしまうところから独創的です。これでオーラが備わってきたらプロになれます。九本目、宮本涼介。関西の人でしょうか。どこかの店でやっていそうなマジシャン。客あしらいも慣れていますし、やっていることは安定しています。カードが中心でしたが、安定して巧い人でした。十本目、Rei。ジャケットに蝶ネクタイと言う、腹話術の人形みたいな恰好で出て来て、カードマジック。蝶タイが時々消えて、別のところから出てくるのはおなじみのパターン。お終いは、またそれを繰り返すかと思いきや、デックケースからシャツの袖が出てきて。シャツが出て、気が付くと演者がパンツ一枚になると言う落ち。あんな大人しい顔をしてここまでするとは、面白いです。前半の不慣れが残念。十二本目、Baro。金儲けの投資セミナーにいそうな講師役。役柄は面白いのですが、マジックは不慣れでした。13本目、ぺいしゅん。明るい性格で感じの良いカードマジックでした。 ここで二回目の休憩。

 十四本目、エスイー。韓国と日本のハーフだそうです。18歳。特に印象に残ったマジックはなく、これからのマジシャンでしょう。十五本目、HISA。お客様が任意で切ったビニールテープが、32,5センチだったことが話の発端になりますが、この時点で長さが少し合わなかったようで、その後に物差しの前で無理に伸ばしたりして変な演技になりました。頭の中だけで作ったような内容。

 十六本目は、五太子。日蓮宗の住職らしく、座ってカップ&ボールを演じます。和の手法は使いませんが、扱いが独特で、小さなお鈴(りん)を使うのが伏線になっています。既に全体が完成しています。細かなマジックのテクニックがもっとこなれて来たなら、世界中のどこに出しても恥ずかしくない芸になります。私の二人目のピープルチョイスはこの人。

十七本目、キッサー。この人は十年以上前からたびたび見ています。独自の考えでマジックをします。今回はトウモロコシの粒を口の中に入れて、ポップコーンを作る術。ベースは古典手妻の小豆割りですが、マラカスなどを使い、独自に手順を作り上げています。誰の真似でもない世界です。三人目のピープルチョイスにしたかったのですが、松川さんの度はずれた大とちりが忘れられず、選外にしました。残念。

 十七本目、Ibuki。この人は何度か見ています。文句なく巧いし、独創的なマジックです。見た目の印象もよく、舞台人向きです。この人がプロ活動をしたなら、きっと成功するでしょう。ハンカチとボタンを使ったマジック。畳んだハンカチにボタンを挟むと、ボタンがハンカチに縫い込まれてしまいます。ボタンでコインアセンブリーのようなマジックをしますが、どれもボタンが縫い込まれます。不思議さにおいてはこの催しで一番の不思議でしょう。しかも独創的です。ただ、ストーリーが貧弱です。ストーリーにこだわるあまり、今目の前にいる手伝っている観客がただの使用人になってしまいます。それでも内容が良かったので、三人目のピープルチョイスに選びました。

 十八番目、市原冬真。カードの枚数当て、引いたカードが何枚目に出てくると言う当て物。上手くて不思議です。パーソナリティが備わってくれば巨匠になるでしょう。

 

 以上ここまで見て5時20分。なんと5時間以上のコンテスト。疲れました。すぐに帰ることにしました。ひところを思えばクロースアップもバラエティな内容になって来ましたし、アマチュアのマジックでも見て楽しいものがたくさんありました。気になったのは、司会者の言葉のセレクトが出来ていないことと、夢のある話がありませんでした。司会者はつなぎではありません。もっと自身のパーソナリティを磨かなければだめです。幾つかの不満は感じつつも、楽しい半日を過ごしました。

続く