手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

WBCに思う

WBCに思う

 

 チェコ戦にしてもイタリア戦にしても、大きく点数の差を作って、日本チームは快勝しています。冷静に見て、今の侍ジャパンは、世界最強のチームだと思います。この先、アメリカに渡って、メキシコ、アメリカ、オランダなどと対戦したとしても、今迄よりは強いチームを相手にするわけですから、ハードルは上がると思いますが、それでも今の侍ジャパンは結束力も強く、個々の技量も相当に高いため、確実に勝利してゆくと思います。

 日本のチームがこの先、問題が発生するとしたら、一つは、時差ボケで、体のバランスを崩すこと。もう一つは怪我。もう一つはメンタルの弱さだと思います。侍ジャパンの皆様にマジシャンがえらそうなことは言えませんが、あえて三点申し上げます。

 時差ボケに関しては、ちょうど、イタリアやチェコのチームが、東京で試合をした時と同じ状況を侍ジャパンアメリカで体験するわけです。日頃寝ている時間に、体を起こして激しいスポーツをしなければなりません。これは少なからず勝負に影響すると思います。但し、私の経験で言うなら、日本から東に行く旅行は、飛行機の中でひたすら酒を飲んで寝てしまえば、さほどの時差ボケも起きないはずです。

 苦しいのは西へ行く時です。寝ようとしても寝られず、寝なければいけない時間になっても眠くない日が何日も続きます。今回は、東へ行くたびですので、飛行機の中で上手く寝てしまえば何とか乗り切れるのではないかと思います。但しこれは私の経験であって、科学的な根拠はありません。

 二つ目の怪我に関しては何とも言えません。プロスポーツには怪我が付き物ですから。気を付けて、と言うほかはありません。但し、イタリア戦を見たときに、みんなが気持ちを入れ過ぎている姿を見て、少し心配になりました。余りに気合を入れ過ぎると、結果は逆方向に進みがちになります。場合によっては思わぬ怪我などもあります。怪我をすれば老全体力は弱まり、チーム全体にも悪影響になりますので。余り向きにならずにいつものペースを保って試合をすることが一番大切だと思います。

 3っ目の、メンタルの問題ですが、例えば、村上選手などは、一つことを思い詰めてしまって、気持ちが空回りしてしまい、力が発揮できなかったように見えました。表情は常に思い詰めているように見えました。考えは悪い方向へと進み、負のスパイラルに嵌って行きます。

 きっと村上選手はあの時、WBCのプレッシャーに押しつぶされそうになっていたのだと思います。三冠王まで取った人がどうしてそんなに雑念に惑わされるのか、よくわかりません。もっとも、大谷選手のすぐ後に出て、「さぁ、撃って見ろ」。と言われることは、これほど辛いことはないのでしょう。

 ましてや、大谷選手や、ダルビッシュ選手のように、WBCをそっくり背負っている選手になると、 期待が大き過ぎて、これは辛いものがあります。両人とも、表情には出さないようにはしていますが、一回一回の試合が終わると、ホテルに戻って、いきなりベッドに飛び込んで何もせずにグースか寝てしまいたいほど疲労すると思います。

 それでもすぐに寝られるならまだましですが、ベッドの仰向けになって、寝ようと思っても、その日の試合のまずい点が走馬灯のように巡って来たなら、とても寝ていられません。あの一瞬、この一瞬、何でもっとうまく試合が出来なかったのか。と、自分を責めたなら、とても寝ている場合ではありません。マウンドでも疲れ、寝ていても疲れ。疲れを癒す場すらないのでは一層疲れます。

 私は今まで、超有名な、タレントや政治家を間近く見て来て思うのですが、 有名になると分かりますが、人の注目を集めると言うことは、歩くだけでも、人に見られているだけでも疲れます。人に期待をされればなおさら疲れます。人に自分が緊張している姿を見せまいとして、平常の気持ちでいるように振舞おうとするあまり、ついつい自分を作ってしまいます。すると、それだけで、自分自身の演技に疲れてしまいます。メンタルを維持すると言うのは激しい運動をするよりも疲れるのです。

 大谷選手もダルビッシュ選手も、毎日そうした緊張の中で野球をしているのです。緊張しない方法、疲れない方法、上がらない方法はあります。私の経験でお話しすると、自分を突き放してみることです。自分はそれほど期待されている人間ではないんだ。自分にはできることしかできないんだ。特別なことは出来ないんだ。と、半ばあきらめることです。

 私自身もこれまで物凄い緊張した舞台を経験したことは何度もありましたが、その都度、「諦めよう」、と、思うと不思議に緊張が解けました。ところが、多くの人は、人に期待されたり、そのために緊張すると、「もうひと頑張りしよう」。と思ってしまいます。これが無理なところに自分を持って行ってしまい、結局うまく行かなくなります。

 「無理に期待に答えようとしない」。「今までやって来たことしかできない」。そう思って気持ちの高ぶりを押さえるのです。そうする以外に平常の自分を維持することは出来ないのです。

 と、偉そうなことを言ってしまいましたが、私の申し上げたことで何か心当たりがあるなら、参考になさってください。むきになって何とかしようと思っているときは大概うまく行かないときなのです。どんな時でもゆとりを持って、自分自身を安定したところに持って行かなければ成功はないように思います。

 来週からのWBCのアメリカでの戦いに期待します。

続く