手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

満員御礼アゴラカフェ

満員御礼アゴラカフェ

 

 昨日(3日)は昼からアゴラカフェで手妻とマジックショウ。この日は50名の団体を引き受けたため、既に満席。有難いです。いつもいつも会を主宰するたびに、お客様は何人来てくれるだろうか、と、心配する日々でしたが、まったく客席を心配しないでステージが出来るなんて何て幸せなことか。

 朝9時に事務所を立って、10時10分前に日本橋着。そのままアゴラカフェ入り。高齢者のお客様のため、入場にも食事にも時間がかかるため、通常12時30分の公演が、12時45分スタート。

 一本目は小林拓馬。何度か舞台に出ているうちに、だんだん場慣れがしてきて、場所に溶け込んできたように思えます。

 手に持った白いシルクがカードに変化、そこからファンカード。次に赤いシルクから、またカード出現、片手に一枚出しが、カラフルなカードに変化したところが今回の工夫でしょうか。お終いは連続ファン出し。依然と、カードばかりの手順。ここから徐々にいろいろな素材を足して、演技にボリュームを持たせたいところ。

 

 二本目は堀内大助。喋りで始まり、5本ロープ。今このマジックをする人は彼を置いて他に見たことがありません。でも、掴みの芸としてうまくまとまっています。そのあと7本リング。7本と言うリングの扱いは珍しく、トリプル、ダブル、キー、シングルと言う編成。バーノンの手順のようでもあり、9本リングの影響もある。不思議な手順。

 私は、本数の多いリングは好きなので、この手順は面白いと思います。トリプルとキーの扱いを主体とした手順、同時に観客への改めもしっかりしています。もう少し手馴れて来たなら独自の手順になって行くでしょう。

 

 三人目は穂積みゆき。袖卵。もうすっかりこの手順は自分のものになっています。前回は急ぎ過ぎた感がありましたが、今回は落ち着いて見ることが出来ました。慌てなければうまい演技です。

 

 四人目は前田将太。陰陽水火の術。直火が使えないため、蝋燭を使った焼き継ぎが出来ず、鋏で紐を切ります。蝋燭の炎からシルクが三枚出現するところは、グラスに水を入れて、指ではじくと水滴がシルクになる演出に替えています。いずれも私の流派の演出ではありますが、ここは前田がかなり手慣れていて、本当にグラスに水をはじくことでシルクが生まれたように見えます。前田の工夫が生きています。

 その後の真田紐の焼き継ぎも、焼かずに鋏で切るのですが、違和感はありません。紐がつながって、それにシルクを結び付けて、紐抜け。そしてシルクから帯出し、更には一本傘でおしまい。前田はようやく和の世界を掴んだように思います。

 

 15分休憩の後、私の演技、楽屋が舞台と離れていて、客席奥にあるため、そこから出て来るのがとても出にくく、それならいっそ、雰囲気を出して客席を花道に見立てて、「中の舞(ちゅうのまい)」の囃子に乗せて登場して見ました。舞台に現れてから「双つ引き出し(ふたつひきだし)」。その後、「柱抜き(サムタイ)」、そして「お椀と玉」、高齢者が多いので、お椀と玉のような小さな手妻は集中できないかと思いましたが、喜んで見てくれました。

 その後、「五色の砂」を演じました。これは純粋な古典の手妻です。但し、同作品は中国にも、欧米にもあります。昔の口上を交え、これを演じると、お客様は喜んで見てくれます。これこそ語りを生かした芸です。なかなかこれを巧い喋りで演じ切る人を見ません。タネが単純だからと、作品として軽く扱われているのが残念です。先週、前田に稽古をつけて、この口上を教えました。きっちり口上を語るととても面白い芸になります。マジックはすべてそうですが、演者の気持ち一つで面白くもつまらなくもなります。簡単と思える作品ほど気持ちを入れて演じなければなりません。

 そのあと「蝶のたはむれ」。毎度毎度の演技です。ここまで演じて90分のショウです。終演後お客様と記念写真を撮ったりして終わりました。

 

 老人会の団体のため、70代80代が多く、中には96歳と言う人もいらっしゃいました。マジックの反応はどうかと思いましたが、みなさん結構楽しんでみていらしゃいました。こうした企画を喜んでくださるなら、もっともっと各方面にお声がけをして、客層を広げて行きたいと思います。

 

 さて公演を終えて、かたずけて、事務所に戻ったのが5時でした。

 一昨日からAUの携帯電話の調子が悪く、通話が出来ません。初めは私の機会の不都合かと思いましたが、日本中同様な被害だと気付きました。「さてはロシアの陰謀か」。と、勘繰りましたが、そうではないようです。何が理由かはわかりませんが、この先こうしたことは頻繁に起こりそうです。文明が発展すると逆に不便が発生します。何とか一刻も早い復旧を期待します。それにしても形態が使えないことがこれほど不便であるとは、携帯が、生活の中のかなりのウエートを占めていることに初めて気づきました。

 この先を考えると、きっと、キャッシュカードや電子マネーなどがトラブルを起こすこともあると思います。買い物に現金などいらない。なんて思っていると、とんでもないことが起こる可能性があります。現代では、中国でも、韓国でも、現金を使わずに買い物をすることが普通になっていますが、やはりどんな時でも現金は必要です。パラスチック性のカードに頼り切ることが結果として無一文になる可能性があります。いつでも一定のお金は持っていたほうがいいでしょう。

 同様にパソコンです。パソコンが世界中で全く使えなくなる日が来る可能性があります。そうなったときには大パニックになるでしょう。パソコン、携帯、キャッシュカード、案外現代社会はもろいものだと知りました。

続く