手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

アゴラカフェ ヤングマジシャンズショウ

アゴラカフェ ヤングマジシャンズショウ

 

 昨日(6月12日)は、午前中に高橋さん、穂積さん、 朗磨君、の三人をアトリエで指導して、その後、三人と一緒に車で、日本橋、マンダリンホテルのアゴラカフェに向かいました。季節は春。過ごしやすい一日です。日曜日ですので車もすいていました。日本銀行を横切り、三越本店を曲がり、コレド室町の車庫に車を入れて、マンダリンホテルに入りました。アゴラカフェに着いたのは12時20分。

 この日は、ベテランを交えない、全く若手マジシャンだけの公演です。出演は、ザッキー、早稲田康平、チャブル、諭吉、前田将太の5組。

 お客様は30人程度、子供さんもいて、親子連れののどかな雰囲気。なかなか都心のマジックショウでこの雰囲気は珍しいと思います。私は始めにこの企画を考えたときに、「まだこのメンバーで、若手だけに任せるのは早いかなあ」。と少し悩みました。

でも、仮にうまく行かない場合は、ベテランを交えて、テコ入れをすればいいか、と思っていました。ところが、実際見ると、どうしてどうして、なかなか面白いショウに仕上がっていました。以下はその感想。

 

 総体の仕切りはザッキーさんがやっています。ところどころで司会をしたり、裏方とのコンタクトも上手く気配りが出来ています。12時30分からクロースアップのテーブルホップが始まりました。演者は早稲田康平、ザッキー、

 二人とも背が高く、タキシードがよく似合います。見た様、押し出しもよく、アゴラカフェの雰囲気にうまく嵌っています。若い女性には結構受けているように見えました。

 私は、この二人のテーブルホップを見て、「あぁ、アゴラカフェに若手のマジックは 

マッチしているなぁ」。と強く感じました。私が心配するまでもなく、「この雰囲気をそのまま続けて行くだけで結構人気が出るんじゃないかなぁ」。と予感しました。

 

 13時ショウ開始。ザッキーがテーブルホップから舞台前に居残って司会をして、早稲田康平を紹介します。幕が開くと早稲田康平登場、カードマニュピレーションひとしきりあって、お喋りマジック。子供を上げてジャンボカードのあて物。その後は、シルクにサインをしてもらい、オレンジ、レモン、卵の三段ペネトレーション。更にはゾンビボール

 ボリュームのある演技で、時間的には全体で15分近かったのではないかと思います。かつてのナイトクラブのショウを見るような内容。演技一つ一つは手慣れていますが、見る側は淡々と見続けてしまいます。この人の性格なんだろうと思いますが、演技全体があっさりとしています。願わくば、一つ一つの作品にこだわりが見えて、もう少し輪郭をがっちりと作り上げたなら、巧いマジシャンになると思います。これから一年かけてそうした形に仕上がることを願っています。

 幕前にザッキーが出て、チャブルと諭吉の紹介。

 チャブル。この人はいいセンスをしています。香水とバラの花、ワイングラスをうまく使って手順を作っています。今回は四つ玉が無くなり、ボトルのプロダクションが入りました。できればボトルの後半で一度演技を切って、そのあとスローバージョンを入れて、(例えば浮揚などを入れて)、自身のキャラクターを別の角度から強調したなら、立体的になって、より面白いと思います。

 諭吉。いつも通りの全開の手順。お笑いタレント、ひょっこりはんのような、頼りないキャラクター。それでいて憎めない人です。もっともっといろいろな状況を作り上げて、自分自身を多面に表現しないと面白みが薄く見えます。せっかくお客様が喜んでいるのに、これで終わってしまってはもったいないと思います。学生の中で見せるのとは違い、一般客の前では、少しお客様が覚めた目で見ています。これが普通のお客様です。この人たちを本気にさせないと、受けたことにはなりません。

 

 ここで、ザッキーが登場して、グラスを二つ使って、カードの一致。テーブルが低くて後ろからグラスに入れたカードが見えにくかったのが難。然し、まずまず受けていました。次に前田将太。

 煙管を使った引出し。卵の袋。紙片の曲(紙卵)、引出しの終わりは蛇の目傘を出して煙管を咥え、見得を切ってポーズ。引き続き卵の袋。紙片の曲。紙卵はいつ見ても受けネタです。小さな現象ですが、意外性があります。

 ここで少し喋りを入れましたが、喋りの不慣れが気になります。前田の課題です。これからアゴラカフェで喋りを稽古したらいいと思います。但しセリフを短めに。

 そのあと連理の曲。半紙が繫がり、撒き(蜘蛛の糸)になり、吹雪になります。江戸の手妻の醍醐味です。真面目に演じていますので一日の長を感じさせますが、一年で殻を破って行くかどうか。

 この後にザッキーが出て来て、喋りながら三本ロープを演じました。ザッキーと言う人はあたりの柔らかな、万人に好かれそうなキャラクターをしています。三越デパートの社員にいそうな品のいい人です。気遣いも出来て、こうしたバラエティショウのまとめ役としては適任でしょう。自身の演技では、司会の時の黒のタキシードから、チェックのジャケットに変わって、タレントらしさが出ています。但し、肝心の三本ロープは今一つ整理されていません。

 その後に12本リング。もう彼の手にきっちり収まっています。喋りが少し硬いのが気になりますが、これも一年でこなれて行くでしょう。演技のトリを無事務めました。終演後それとなくお客様から反応を聴きましたが、総体、お客様の評判は良かったようです。

 これからそれぞれの演技が煮詰まって行って、良き手順を作って行くと、ここからスターが生まれて行くでしょう。ようやくマジシャンの出演場所が決まり、マジックショウの足がかりが出来ました。この場所を大切にして行きたいと思います。来月の公演が楽しみです。

続く