手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

いい武器を持った兵が勝ち

いい武器を持った兵が勝ち

 

 私が20代のころ、新宿末広亭の楽屋などでよく春風亭柳昇師匠から戦争の話を伺いました。それによると、師匠は、中国の北支(北部支那)から中支(中部支那)と戦い、大陸を進軍して行ったそうです。私が「日本の方が装備が良くって、中国兵と戦えば必ず勝てたのではないですか」。と言うと、

 「いや、そんなことはない、南の方に行くと、アメリカの援助があったのか、中国兵も機関銃でも、大砲でもやけにいい武器を持っていて、戦うととんでもなく強かったよ。日本の士官は精神だの、根性だのと言っていたけども、戦争は武器が全てだよ。いい武器を持った兵士にはかなわない。いい機関銃をずらり並べられて、四六時中弾を打ち続けられたら、日本軍がどんな勇敢な兵だったとしても身動きできないもの。出た傍から撃たれるんだからね。全然叶わないよ」。と言っていました。

 

 四月の末に、私は、ウクライナの戦いについて、余りに欧州軍の支援が散漫で、武器も滞りがちな話を聞いて、「そんな戦い方なら勝ち目はないから、さっさとロシアと休戦協定を結んだらどうか」。と書きました。如何にウクライナに戦う意思があったとしても、武器や弾薬の支援がなければ勝ち目はありません。

 欧州も、アメリカもウクライナに武器を渋っているなら、もう戦うことは出来ないのだから、休戦すべきなのです。当然ウクライナ側から休戦を申し入れれば立場は悪くなります。東部の四州も、クリミア半島もそっくりロシア領になるでしょう。つまり、ロシアの侵攻が始まった二年半前の地図をそっくりウクライナが認める以外ないのです。明らかに不利ではあります。

 それでも、当初ロシアはキーウやハルキウを占領して、ウクライナ全土を手に入れようとしていたのですから、ウクライナの国自体は守れたことになります。今はそうした条件を呑む以外ないのではないか。と書きました。

 ところが、そのすぐ後、次々にアメリカやドイツの武器が到着しました。これによって一辺にウクライナ軍は息を吹き返し、ロシアの拠点を破壊し始めました。戦争は実に単純なものです。より破壊力のある武器を大量に持っている方が勝利するのです。

 お陰で、5月6月のウクライナ軍の戦いは各地で勝利を繰り返しています。慌てたのはロシアです。二の足を踏んで支援をためらっている欧州を眺めて、これなら有利な状況で休戦に持ち込めると踏んでいた矢先に、前線が各地で敗北をし始めたのです。

 クリミア半島では、軍艦がことごとく沈められ、半島にある基地も破壊され、反撃能力もほとんどないところまで追いつめられて来て、各地でロシアは兵力が不足しています。

 その上、ウクライナ軍が、ロシアの各都市にまでドローンやミサイルを撃ち込んでくるようになりました。ロシア国民にもウクライナの戦いは危ない状況になっていることがばれ始めています。ロシアの都市部の物価も高騰し、品物も、欧米の経済制裁が効いてきて、生活は苦しくなって来ているそうです。

 こうなると、ロシア国民も不安になります。ウクライナに勝つどころか、ロシア自体が国として維持できるのかどうか。怪しくなってきています。

 一方ポーランドや、リトアニア、フランスなどから、直接ウクライナに兵を送って、ウクライナを支援しようと言う声が出て来ています。無論、NATOは派兵には躊躇しています。兵まで出せば、明らかにNATO対ロシアとの戦いになってしまいます。これでは第三次世界大戦と同じことです。

 当然NATOの本部は派兵に反対します。然し、ポーランドや、リトアニアからすれば、ウクライナが敗北すれば、次は必ず自国にロシアがやって来ることは見えています。かつて東側陣営に所属していた国々が、NATOに所属を移したと言うのは、ロシアから見たなら裏切り行為なのです。ロシアはそれを絶対に許さないのです。

 そうなら、まだウクライナが有利に戦っているうちに、リトアニアや、ポーランドチェコなどが軍隊を出して、支援した方が戦いを有利に進めることができるはずです。そうであるなら、今ロシアに遠慮することは、後々後悔の種になります。今こそ戦いに踏み切った方が勝利できるのではないか、と考えたわけです。

 ポーランドや、リトアニアが派兵を考えるのは分かりますが、なぜフランスがその気になって一緒に派兵を言い出すのかがはわかりません。ただ、フランスの発言は、NATOに強い影響を与えます。しかもロシアにとっても恐ろしい一言です。

 思えばわずか一月半でロシアとウクライナの立場が逆転してしまいました。武器が揃い、NATO軍から、数カ国の派兵がされたなら、ウクライナは連合軍とともにロシアと戦うことになり、一気に優勢になります。

 

 今、ゼレンスキーさんは先進首脳サミットに出席しています。ゼレンスキーさんの希望はただ一つ。NATO軍の参戦でしょう。「NATO軍はウクライナに参戦する」。とサミットで宣言しただけで、ロシア国内は大騒ぎになるでしょう。然し、アメリカドイツは慎重です。フランスはなぜか賛成です。ただいずれにしろ、派兵はなされるでしょう。ロシアはなし崩しに敗戦に追い込まれることになります。

 こうなったときに、ロシアには強力な同盟国がありません。北朝鮮ではあまりに非力です。中国は、表向きは協力をするでしょうが、一緒になって戦うことなどできません。経済状況が悪すぎて、他国の戦いに助っ人するだけの余力がありません。となるとロシアが頼る相手はいないのです。

 当初4日でウクライナの首都キーウを占領できると宣言していたプーチンさんは、飛んでもない誤算をしたことになります。このままではロシアも、当人も滅んでしまいます。どこかで早く手を打たないとロシアは危険な状態です。柳昇師匠が言っていた、「いい武器を持っている兵が勝ちだ」。と言うのは真実なのです。

続く