手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ロシア国内の変化

ロシア国内の変化

 

 ウクライナ侵攻から半年がたって、ようやくロシア国内でプーチン批判が始まりました。ウクライナの戦いで、兵士が不足し始め、それを補うために徴兵を始めたところ、ロシア人や、ロシアを形成する連邦国の中で戦争反対のデモが始まり、大きな広がりとなっているようです。このまま行くとロシア連邦が崩壊するかもしれません。そうなると、ロシアは全く違う国の形になってしまいます。

 ロシアは自国内では、ウクライナでのロシア軍の敗北ニュースは流さないため、今も多くのロシア人は、ウクライナに対して自国が不利な戦争状態にあることを知りません。 

 ところが、生活は日に日に厳しくなってきていますし、世界中から非難されていて、生活物資も不足して来ています。そこへもって来て、徴兵の復活となれば、如何に情報の足らないロシア人であっても、このままでは国が危なくなることは分かります。そのためにデモや、政府批判が頻発しているのです。

 実際のウクライナ侵攻は、武器不足、兵士不足、食糧不足で、戦える状況ではないようです。対するウクライナは、アメリカの支援を取り付けていますし、イギリス、ドイツ、ポーランドなどの支援もあって、武器が充実していて、どの地域での戦闘でもロシア軍に対して圧倒的に優位な立場にあります。

 開戦当初は、ウクライナは悲壮な決意で、まるでゲリラ戦でロシア軍に挑む覚悟でいたものが、いつの間にか、世界有数の軍事国家に変貌しています。ロシアとすれば意外だったでしょう。

 

 私が20代の頃、新宿末広亭の楽屋で、春風亭柳昇師匠が、若いころ中国に行って戦争をした話を聞かせてくれました。その時私は、「日本軍と中国軍を比べたら、圧倒的に日本軍が強かったのでしょう?」。と尋ねると、「いや、中国兵も強かったよ。大概は日本軍を見るとさっさと逃げちゃうんだけども、たまにアメリカから送ってもらった機関銃なんかが届くと、中国兵はものすごく強くなったよ。戦争はね、強い武器を持っているものが勝つんだよ。精神力だのなんだのと言ってもね、戦車や長距離砲や、機関銃があれば戦争は負けないよ」。

 意外でした。日本軍と見るや持ち場を離れて逃げ出してしまう中国兵に対して、忠実に作戦に従って戦いを進める日本軍が必ず勝利すると思っていましたが、現実はまるで違っていたようです。武器さえあれば中国軍も日本軍と互角の戦いをしたそうです。

 「日本軍が中国のかなり奥まで攻めて行くとね、食料も弾もだんだん足らなくなってくるんだ。そうなると日本軍も劣勢に立たされるんだ。だんだん戦いを進めて行くうちに、いよいよこの先は危ないなぁ。と思った時にね、兵士は、手を上げたり、足を上げたりして、わざと中国兵に撃たれるようにするんだよ」。

「戦っている最中に足を上げたりするんですか」。「そう。するとね、中国兵の中でも性能のいい銃を持っている兵士がいて、足を巧いこと打ち抜くんだな。俺なんか手を上げたんだ、そしたら中指を吹き飛ばされたよ」。「えぇっ、中指を飛ばされたんですか。そりゃぁ不便でしょう」。「不便だよ。その後ずっと不便。でもねぇ、俺は手品師になるわけじゃないから、中指一本で命が助かるなら、指の一本くらいいいや、と思ったんだ」。実際柳昇師匠は、右手の中指と人差し指?(多分二本)がありませんでした。

 「指一本だって負傷すれば、出血で命を落とすこともあるからね、すぐに救護班のところに連れて行かれて応急処置をしてもらって、その後は、指がないと銃の引き金が引けなくなったからって、負傷兵になって日本に帰国をしたんだ」。

 「それで助かったんですか」。「そう、生きるか死ぬかの瀬戸際になったら、指や、足の怪我なんか何でもないんだよ。うっかりしていると、中国兵に囲まれて、連隊が全滅することもあるからね」。

 最前線で戦った人たちの生々しい話を聞くと、戦争の大変さが分かります。つまりかつて日本軍が強かったのは、中国兵と比べていい武器を持っていたからです。その後にアメリカと戦うと、アメリカの方がいい武器を持っていたために、日本は負けたのです。戦争は案外簡単な理由で勝敗が決まるのです。

 今、ウクライナとの戦いの中で、ロシア軍が置かれている状況は、まさに柳昇師匠の立場なのでしょう。武器もなく、食料もない状況の中で戦えと言われても戦えるものではありません。

 ロシア兵は、ウクライナに侵攻するときに、始めはウクライナの中のナチ的な指導者がいて、ウクライナ市民は抑圧されている。そうした市民をロシア軍が助けてやるためにウクライナに行くんだ、と聞かされていました。

 然し、実際ウクライナに入ると、市民の目は冷たく、ウクライナ人を抑圧しているのは、ロシア軍であることが分かりました。そうなると何のためにロシア兵がウクライナに行かなければならないのか。意味が分かりません。

 ウクライナ兵は民間人の有志で成り立っていて、組織立っての活動は出来ない。戦車で攻めて行けば全く敵にはならない。と、聞かされていたのに、実際行ってみると、戦車も迫撃砲も持っていて、ロシアの戦車を次々に撃退します。ジェット機までも撃ち落とします。これでは話が違います。こんな相手では勝ち目はありません。

 そこでロシア兵は次々に投降したり、逃亡したりして、戦場を離れて行きます。柳昇師匠と同じです。いい武器を持っている軍には勝てないのです。ここでもう勝負はついたようなものです。この先、補充兵を増やしたとしても、結果は同じです。装備の古い軍隊に、不慣れな兵士をいくら送り込んでも、勝ち目はないのです。

 こうして自国民を犠牲にし、ウクライナ人を虐待しているプーチンがこの先も 安泰に政権を維持できるはずはありません。ロシア国内が騒然として来ている今。そう遠くない将来に政変が起こり、ウクライナは休戦するのではないでしょう。案外この戦いは年内に決着するかもしれません。

続く