手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

峯ゼミ クリームパン

峯ゼミ クリームパン

 

 15日(土)は、毎月田端で催されている峯ゼミに行きました。13時開始の10分前に到着。この日は、四つ玉のカラーチェンジの技法をいくつか指導されていました。どの技法も、峯村氏独自の方法です。ここに至るまで随分と時間をかけて作り上げてきたことが分かります。

 四つ玉のコースは、既に2回目になります。そのため、今回は受講者も少なく、10名を切っています。然し、全く同じことの指導ではなく、指導した後に、改案したり、新たに作った手順もあったりして、細かく見て見ると、これはこれで作品が深まっています。

 今年は10月まで、四つ玉コースが続き、あくる年から、新たなコースが始まるようです。峯ゼミ会員の皆様また来年。新規加入してください。

 

 さて、私は、買い物をしなければならず、16時に、峯ゼミを抜けて、合羽橋に行きました。漆器屋さん、房紐屋さん。宮本卯之助商店(飾り金具店)などに出かけ、用事を済ませました。

 田原町から地下鉄に乗り、神田駅まで、神田から中央線で中野駅、この日は土曜日のため、中央線が高円寺を飛ばしてしまいますので、中野駅で降りて、中野から総武線に乗り換えて高円寺。浅草に通う時にはもう40年以上も同じコースで同じ駅で乗り換えています。

 中央線から、総武線のホームに乗り換える時に、ふと思い出しました。中野駅の構内に紀伊国屋のパン屋さんがあるのです。私は普段は紀伊国屋に出入りしません。ただ、ここにパン屋さんが出来たことは知っていました。その時、ふと思い出したのです。一週間前に、テレビのサタディプラスと言う番組(TBS毎週土曜日朝8時)で、何種類ものメーカーの食品を食べ比べて、どこの商品がおいしいかを決める番組です。

 そこで、紀伊国屋のクリームパンが一位に選ばれていたのです。然し、高円寺に紀伊国屋はありません。どうしたものかと考えていると、中野駅の構内に店が出ていることに気付きました。機会があれば中野で買おう。と思って言たのを、電車の乗り換えで中野の構内を歩いているときに思い出しました。いい機会です。紀伊国屋に入って見ました。

 入るとすぐに、大きなバスケットの上に、「先週、サタディプラスで紹介されて、一位を獲得したクリームパン」。と書かれた看板がありました。「なるほどこれか」。ところが、もう夕方17時30分です。バスケットに山盛り入っていたであろうクリームパンが、3個しか残っていませんでした。

 この日はよほど売れたのでしょう。それでも残っていたのですから幸いです。2個を買って帰りました。1つ240円だったでしょうか。今どきはパンでもそれぐらいはします。それにしても私はクリームパンを先ず食べません。そもそも菓子パンを食べません。但しアンパンは仕事柄ちょくちょく頂きます。

 最近のパンは高級化して、朝食にも、食パンでありながら、あんこがとじ込んであったり、蜂蜜が混ざっていたり、ブドウがぎっしり混ぜてあったり、クルミやナッツがふんだんに入っているような食パンが時々出て来ます。

 それは見るからに高級で、かつては見たこともなかったものばかりです。但し大概は一回きり薄切りにしたものを食べるだけで、残りのかなりの部分は女房がどこかに持ち去って、仲間同士のおやつになるようです。

 「またあのナッツの食パンが食べたいな」。と言うと、「あれは高いから買えないわ」。と言われてそれでお終いです。未練は残りますが仕方ありません。

 

 さて、その紀伊国屋のクリームパンですが、夜の食後に、コーヒーと共に夫婦で食べてみました。形状は昔懐かしい、グローブのような形をしたものです。端からかぶりつきます。子供のころの経験で、大概は、端をかじってもいきなりクリームに到達しません。一口目はクリームなしです。ところが紀伊国屋はそんな薄情な真似はしません。すぐにクリームに当たります。然し、決して大量のクリームではなく、先ずはあいさつ程度にちょろっとクリームが顔を出しました。

 初めのひと噛みで、先ずパン生地に既に甘みがあり、小麦の旨さを感じました。パンそのものが巧いのです。なるほど、そうでなければ店は維持できませんよね。パン屋が巧いのは中身のクリームやあんこではなく、先ずはパンそのものが巧くなければ長く顧客を引き留めることは出来ません。

 とはいうものの、かすかに感じるクリームを味わってみると、まだそれほど自己主張をしてはいません。

 二噛み目になってたっぷりと口の中にクリームが入って来ます。このクリームはシュークリームのそれとも少し違います。べた甘ではないのです。ほの甘く、しかも香りを感じます。しかもパンいっぱいにクリームが入っていて、クリーム好きを十分満足させます。これはボリューム的にも、味も十分に満足できます。

 生地の中央にスライスしたアーモンドが乗っているのもアクセントとして生きています。甘いだけじゃなくて、焦げて香りのいいアーモンドがわずかに乗っているのが洒落ています。「何と品のあるクリームパンだろう」。ものすごい贅沢感を味わえます。

 私が小学校の頃、近所のパン屋さんで買ったクリームパンとは別物です。恥ずかしながらこの味は、クリームパンを食して初めて感じた世界でした。世間のOLさんたちが、朝の忙しいときに紀伊国屋に寄ってパンを買い、昼に頂くときに、こんな喜びを感じつつ食べていたのか、と思うと、240円で手に入る、数分間の喜びは偉大です。

 マジシャンの演技数分でこんなに贅沢な夢を見せてくれることは、そうはないのではないかと思います。してみると、マジシャンは紀伊国屋の240円のクリームパンに負けているのです。紀伊国屋は偉いと思いました。

続く