手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

お浚い会、アゴラ、峯ゼミ

お浚い会、アゴラ、峯ゼミ

 

 一昨日(16日)は午後から日本舞踊の「お浚い(さらい)会」でした。お浚い会と言うのは、本衣装を付けず、化粧もしないで、浴衣(ゆかた)で素踊りをする会のことで、ほんの内々の仲間を集めて日ごろの稽古の成果を見てもらうというものです。

 藤間章吾先生もコロナの問題などあって、もう何年も、国立劇場での発表会をしていません。国立劇場となると、一人の生徒が一番踊るためには何百万円もの費用がかかります。簡単な会ではありません。それでも、いい劇場で、演奏家を揃え、本衣装を着て踊る舞踊は、贅沢の極致です。舞踊をする人なら一度は経験してみたい世界です。そこへ行くとお浚い会は至って気軽です。

 

 場所は毎年開催している、根津のふれあいホール。今年は出演者も少なく、15番くらいの内容です。幕開きは前田将太による「七福神」。なかなか登場人物が多く、役を仕分けるのは難しい踊りです。10月30日の改名披露に踊るものです。まじめな男ですからよく稽古をしていて、きっちり踊れています。披露の際には、前田ファンにはきっと受けるでしょう。

 私の舞踊は、「日吉さん」と言う、日吉神社の祭礼を描写した短い踊り、短いのが救いです。どうも私は長い舞踊の振りは覚えられなくなりました。10分を超えるものは、踊っていて、ところどころ振りを忘れるため、何度か舞台で創作してしまいます。そうなると、なんだかぐにゃぐにゃした踊りになって、まとまりが付きません。毎回私の踊りは変です。

 今回はそれがなかったため私としては上出来でした。さて、踊りを終えて、本来なら、皆さんお踊りを拝見して、打ち上げに参加するところですが、この後指導があって、すぐに自宅に戻らなければなりません。と言うわけでゆっくり舞踊に浸っているわけにもゆかず、浴衣のまま、急ぎ家に戻りました。

 

 翌日(17日)12時40分にアゴラカフェに向かいました。今日はカズカタヤマさんとミーナさんのショウ。ちょうどクロースアップが始まる所で、私は一番後ろのに席に着きました。客席は10名ほど。

 内容は先月とほぼ同じ、パラソルチェンジに始まり、カードマニュピレーションとロープのアクト、舞台上でのカード当て。ミーナによる傘手順。三本リング。ミーナの6枚ハンカチ。後半はシルク手順から大きな旗出しまで。更に、小さくなるカードを演じてお終い。内容は前回と同じでしたが、細かく整理されていて、コンパクトにまとまった60分手順でした。

 私は、カタヤマさんと少し話したかったのですが、終わってすぐに峯ゼミに向かいました。峯ゼミは今回で第二期の終了。シルクアクトも今回で終わりです。ここではシルクアクトの基礎技法は勿論。ところどころに出て来るワイングラス、ボトルの効果的なスチールの解説をしてくれました。これらの技法はプロが学ぶべき技法です。ここで学べば必ず役立つことばかりです。

 これは峯村さんが長年研究して来た、メイン手順の種を公開しているわけで、一つ一つの細かな工夫は参加者にとって大きな収穫だったと思います。これで一年の指導が終わり、来月からはシンブルと、カードマニュピレーションの指導が始まります。

 シンブル三回、カード三回の指導ですが、シンブルが、シェルを使ったハンドリングで、個性的な手順で素晴らしいものです。

 良く工夫されていて、従来のアマチュア的なハンドリングとは一線を画します。スライハンドファンならぜひ覚えていただきたい手順です。申し込みは既に8名になりました。12名で締め切り、お早めにお申し込みください。

 

 この日は、最終日ですので、有志が残って、近くの飲み屋さんで打ち上げをしました。参加者は峯村さんを含めて7名。アルコールが入って、くだらない話が続出して、和気あいあいの打ち上げでした。

 

 一見、峯ゼミとアゴラカフェでのマジックショウは、別々の催しに思えますが、そうではありません。優れたマジシャンを育てるための一貫した活動なのです。日本でなぜ優れたマジシャンが育たないのか。その答えは、誰一人ちゃんとマジックを習っていないからです。

 DVDなどで五月雨式にマジックを覚え、それを寄せ集めて、何となく組んだ手順が、それで本当にいい手順なのかどうか。全く確証を得ないまま、人に見せて行き、それがそのまま収入を得る手段になって、プロの道に至ってしまう。どこにもプロの資格もなく、誰も認めていないうちにプロが生まれて行きます。コンテストに出て技量を試そうとするマジシャンはまだいい方ですが、大きな世界に出て活動する気もなく、狭いテリトリーの中だけで活動しているプロがたくさん育ってもそれがプロと言えるかどうか。どんなマジシャンがいてもいいのですが、こうしたな現状で日本のマジシャンが育つかどうか。

 先ずしっかりとした指導があって、そこに仲間が大勢集まって、何が優れたマジックなのか、互いの話の中からディスカッションがされて、次第次第に自分の頭の中に、マジックがどういうものなのかが構成されて行きます。こうした環境の中からマジシャンが育って行きます。考えには技法が裏打ちされなければいけません。技術があって、考えが育って、それで初めてマジシャンのなすべき道が分かります。

 多くのプロマジシャンが、仮にマジックの技術が未熟ではあったとしても、何とかマジシャンとして生きて行けるのは、実践のノウハウを多く積んで、「何が受けるかを知っている」からです。たくさんのマジックを知っているマジシャンよりも、レパートリーは少なくても、数多くの実践の場を経験して、「受けをわかっているマジシャン」の方が手っ取り早くお客様の受けはいいのです。

 実際の舞台を経験してみれば、舞台は理屈通りに行かないことばかりです。うまく行かない舞台を如何に面白く、楽しげに見せるかは、場慣れしない人にはできません。そうなら、舞台をたくさん作って、技術と実践経験を併せ持ったマジシャンを育てなければ、よいマジシャンは育たない、ということになります。そのために、アゴラカフェを作り、峯ゼミを作ったのです。さぁ、何とかシステムは出来て来ました。ここからどんなマジシャンが育って行くか、3年後が楽しみです。

続く