手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

牡丹雪

牡丹雪

 

 昨日(5日)の午後から東京では雪が降り始めました。霙(みぞれ)のように、水分が多く、窓越しに見ても雪が大粒でよくわかります。これは牡丹雪(ぼたんゆき)でしょう。牡丹の花のように分厚く大きな花弁(はなびら)が空から次々に舞い降りて来ます。無論、雪の結晶です。

 この雪では、降ってもすぐに溶けてしまうだろう。と思っていると、次から次と大粒の白い花弁が降り注ぎ、夜に及んでかなり積もりました。向かいの家の二階を見ると、10センチくらい積もっています。東京では十分大雪です。

 東京は毎年、二回か三回雪が降ります。大概は数時間降って、大して積もらずに終わります。そもそも東京の12月は、あまり寒くなく、乾燥していますので、雪はほとんど降りません。降っても積もることは珍しいです。一月も同様に快晴が多く、雨がほとんど降りません。たまに雪が降っても翌日には消えている場合が多く、なかなか雪景色と言うほどには積もりません。

 積もる可能性のある雪は二月です。二月の寒い日に、雪が降ると、確実に積もります。それが10センチも積もると、転倒する人、自動車の玉つき事故や、タイヤが夏タイヤの儘で走行した車が、立体交差が上がれなくなり、渋滞を招いたり、追突をしてあちこちで事故が多発します。

 私の家は環七と言う幹線道路に近く、しかも消防署がすぐそばにありましたので(今は数百メートル駅寄りに新しい消防署が出来て移動しています)、これまでは、雪の日は早朝から救急車が発動して賑やかでした。

 さすがに以前のようにひっきりなしの救急車の音は聞こえませんが。それでもこうしてブログを書いていると、時折、救急車のサイレンが聞こえて来ます。多くは歩いていて転倒して救急車のお世話になります。

 誰でも雪を見れば、「ここは気を付けて歩かなければいけない」。とは思うのですが、厚着をして動きが鈍かったり、重い荷物を持っていたり、傘をさしていたりして手が使えなかったりして、そこへ信号の変わり目で、急いで横断歩道を渡ろうとすると、いきなり滑って転倒します。みんなわかっちゃいるけど転倒するのです。

 然し、転ぶと言うことを簡単に考えていると、それが大事件につながります。ちょっと転んだだけなのに、骨折していたり、頭を強く打ったりして、起き上がれなくなる時があります。特に歳を取って来ると危険です。普通に歩いていてもフラフラするのに、雪の中で両手に荷物を持って転ぶと、防御が出来ませんから、思いっきり体を打ちます。転んだくらいなんともない、と思っていても、何気ない転倒が入院につながったりします。外出の折は重ねてご注意ください。

 

 和装は、履物に、雨下駄とか、雪下駄があります。雨でも雪でも草履や雪駄(せった)では上手く歩けません。雪駄とは文字の通りならば雪用の履物のはずですが、棕櫚(しゅろ)と言う植物繊維を鏝(こて)を使って熱しながら編み込んであるのですが、水にぬらすと覿面に形が崩れてしまいます。

 雪駄そのものはかなり高価なものなので、一回、雪道を歩いただけで棕櫚が惨めにほぐれてしまうと、実に残念です。雪駄は、表は畳のように、棕櫚を丁寧に編み込んであって、裏は鹿革を厚く張ってあります。鹿革は水を吸い込まないため、丈夫ですが、実際、1㎝程度の鹿革が貼ってあっても、雨や雪ではほとんど役に立ちませんし、雪の際には鹿革はつるつる滑るためにとても危険です。とても雪用の履物とは言えません。

 

  「初雪や、二の字二の字の下駄の跡」。情景が浮かんで実に風流です。

 実際、江戸時代などは、雪用の履物は、高足駄と言う、歯の長い高下駄を履いたようです。今でも応援団が履いているあの下駄です。あれなら雪に沈み込むようなことはないでしょうが、実際雪道を高下駄で歩いてみると分かりますが、高下駄はとても危険です。

 なんせ足の親指と人差し指のみで重い足駄の鼻緒を挟んで歩くのですから、慣れないと簡単に足から離れてしまい、雪に足駄を取られてしまいます。一足ごとに下駄を雪の中に置いて来るような歩き方では、前に進みません。

 しかも、昔の人とは違って草履や下駄を履く習慣がない現代の人は、親指の周りの皮膚が弱く、鼻緒が指に食い込んで指の間が擦り切れます。

 夏に浴衣を着て、雪駄履きで花火大会などに行こうとしゃれこんで行くと、帰りには、足の親指の付け根が擦り切れて、血が出て来て歩くのも困難になります。慣れなければ足袋を履いて雪駄を履けばよいのですが、そんなことは初めて浴衣を着る人には分かりません。何となく裸足雪駄は粋に見えますから、みんな真似をするのですが、いざと言う時のために懐に紺足袋を一足用意しておくとよいでしょう。

 

 女性の和服は、雨用のコートを着て、雨下駄(あまげた=下駄の先に爪皮と言う雨除けが付いています)を履き、蛇の目傘(じゃのめがさ=番傘より細く色も派手めな傘)を差して外出します。たぶん今日もそうした女性を銀座や浅草で見ることがあるかと思います。

 雨着は、泥の跳ねを後で拭いたり、傘も下駄も翌日には日陰に干して、乾かさなければなりませんので手入れも大変ですし、どれも高価です。一式揃えて、雨、雪の日に歩くのは大変な贅沢です。ところが、和服の好きな人は、それが楽しいのです。何とも風情があって、蛇の目を目深に差して、雪の中を歩く女性の姿は竹久夢二の世界か、広重の浮世絵の姿そのものです。

 和服は不便この上ないものですが、その美意識は極上の贅沢なのです。さて、今日も銀座当たりで、極上の世界が見られるでしょうか。せめて「二の字、二の字の下駄の跡」だけでも見られるといいのですが。

続く