手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

上昇気流に乗っている日本

上昇気流に乗っている日本

 

 オリンピックを見ていると、今の日本は、長い日本の歴史の中で、最も恵まれた、最も安定した時代にあるのかなぁ。と思います。それは選手の活躍とか、メダルの数が多いと言うことももちろんではありますがその発展の仕方が素晴らしい伸びを示していると感じます。

 例えば柔道は、日本の長い歴史の中から生まれててきた武道です。それが、世界中から支持されて、今やフランスでも、イギリスでも、ブラジルでも、世界各国で柔道を習いたいとする人たちがたくさんいます。

 そして、海外で柔道を習っている人たちは、喧嘩に勝つための拳法を学ぼうとするのではなく、柔道が昔から唱えている、相手を尊重する姿勢、勝っても負けても謙虚である姿勢、礼に始まって礼に終わる考え方が、同時に指導されます。勝つからいい、強いからいいのではなく、強ければ強いなりに弱い人を守らなければならないことを自然自然に学ぶのです。いかにも先進国である国民が学ぶべき、崇高な哲学であることを知るわけです。

 それは同様に、日本の武道、剣道や、合気道、などと同様で、いずれも、強くなることを学ぶと同時に、むやみに使用しないことを教えています。こうした哲学を世界中に普及していることが、日本の国が一段も二段も格の高い国として尊敬を受けている理由なのだと思います。

 柔道がオリンピック種目にも早くから選ばれているのは、そうした理由でしょう。柔道の衣装は、木綿の刺し子と呼ばれるもので、丈夫で温かい布地です。見た目は質素で、所謂野良着だったものが基になってます。

 世界のスポーツが貴族の趣味から発展して行ったのに対し、日本のそれは、働く人たちの余技だったのです。初めは自己鍛錬であり、何も持っていない人でも、すぐにできる至って手軽な修行だったのです。

 今も野良着のような衣装をそのまま使い、足は裸足。帯は下帯。何一つ余計なものを身に付けず、段位が高い人も初心者も全く同じものを着ます。名人と言えども服は同じです。これほど平等な競技は他にはありません。日本が生んだ優れたスポーツであり、最も優れた哲学です。

 そうした柔道を、今も日本の若い人たち(子供も女性も)がたくさん学んでいます。特に海外の選手と比べると、やはり日本人は礼の仕方がいい姿勢で頭を下げます。きっちり頭を下げて相手を敬っています。何気ない動作ですが、恐らく海外の人が見たときに、その礼を見ただけで、「この人は出来る人だ」。と思うでしょう。頭一つ下げるだけでもうまい人は既にうまいのです。芸能の世界も同じで、語らず、教えず、分からせることが一番大事なのです。

 何が言いたいのかと言うと、柔道が世界中で流行しているのは、その技の力だけでなく、人としてどう生きるか、何をしなければいけないか。という哲学が一緒になって学べることが大きいのです。そこに日本が大きく評価されている理由があるのでしょう。

 とここまで話して、一つ心配になることは、最近の柔道の競技を見ていると、一旦絡みだすと、まるでレスリングのような力業になってしまい、柔道が持っていたしなやかな技が薄れているように見えます。

 しなやかさだの美しさだの、見た目を気にしていては勝てないのでしょうが、そうは言っても柔道には独特の美意識があります。世界中の人が集まって来て、いろいろな技が研究されて行くのですから、柔道も変わってしまうのはやむを得ないことかもしれません。でも少し残念です。

 そんな中で、阿部一二三さんは、一本の技にこだわっていますし、女性で金メダルを取った角田夏美さんは大技の巴投げにこだわり、毎回相手を高々と反転させて、観客を喝采させています。こうした勝ち方をする人はすがすがしく思います。これが柔道と言う試合を見せてくれました。いいですねぇ。すばらしいです。こうしたスターが続々出て来ることが日本柔道の厚みになっているのでしょう。

 

 と、同時に、スケートボードです。新しい種目にもたくさんの日本の若者がいます。若者と言っても若過ぎます。14歳15歳です。こんなに幼くして世界ランクに数えられ、オリンピックでメダルを取るのですから大したものです。

 スケートボードそのものが、単なる路上パフォーマンスだったものが、今や人気のオリンピック競技です。そうした中に日本の若い人たちが活躍していると言うところが素晴らしいと思います。

 この世界は柔道などと違って、伝統がありません。今活躍している人の工夫や努力がこの先の伝統になって行きます。路上パフォーマンスをしていた人たちだから、チャラい人たちなのかと思っていると、インタビューを聴くと実に良い受け答えをしています。ここにも日本人の素質の良さを感じます。

 依然として、職業として成り立っていない世界でしょうから、大会が過ぎてしまえばまた収入の無い生活が続くのでしょう。そんな中で創作活動や、練習をすることは大変に苦しいことだと思います。その苦労は私にもよくわかります。

 苦しい中で自分の夢をどうやって開花させるのか。そこが常に悩みなのだと思います。そうした点はマジックも同じです。自分を信じ生きると言うことは苦しいことの連続です。

 

 これまでも定番の体操も金メダルを取りましたし、サッカーも、バレーボールも水泳も、大活躍です。女子サッカーなどは、準々決勝でブラジルに押されっぱなしで、もう駄目だとみんなが思ってチャンネルを変えようかと思っていた時に、PKで一点取り、その上、ラストの数分で更に一点。たちまち逆転して勝利。まさか強豪のブラジルにこんな形で勝利するとは誰も予想していませんでした。何だか世の中が日本に向いてきて、いい風が吹いているのではないかと思います。

 巧く行っているときは何をしても巧く行きます。今の日本はちょうどそんな時代なのかもしれません。そうした時代に日本人として生きている我々は、世界の中でも相当に幸せ者なのかもしれません。そうであるならもっと我々は努力をしなければいけません。

 続く