手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

基礎指導

基礎指導

 

 私のところに習いに来る生徒さんは、東京が15人ほど、富士、名古屋、大阪を加えると、更に15人くらい、合計30人に毎月指導をしています。

 教える内容は、ステージマジックばかりです。そして基本となるマジックが主流で、言って見ればごく普通のマジックです。初手にマジックを覚えようとした人が、本を読んだり、DVDをちらっと見て通過してしまうようなものばかりです。

 ところが、基礎を簡単に通過してしまった人が私のところに習いに来ると、一つ一つの作品は、「あ、それ知っている」。と言うのばかリですが「じゃぁ、一つやって見せて下さい」。と言うと、これが出来ません。

 かつて映像で見ただけで、勝手に良し悪しを判断してしまい、一切手に持って演技をしてこなかったものばかりです。そして、「何となく古臭そう」。とか、「今どきこんなマジックをしても、何もならない」。と決めつけて、基礎マジックの価値を否定してしまったものなのです。

 どんなマジシャンがいても結構ですし、興味は様々です。優れた人はどんな学び方をしても、きっとどこからか学ぶべきものを見つけ出して、それを身に着けて行くはずですから、その人に何をしなさいとか、これだけは覚えておきなさいとは言えません。

 遅かれ早かれ必要なものであれば、どこかで学ぶことになりますし、それに気づいたときに、マジシャンは確実に巧くなるのです。長く、いろいろな人の行動を見ていると、どんな人でも、それぞれが違った道からスタートして行ったとしても、何十年かすると、全然違うマジシャンに成長して行くかと思いきや、大体同じようなところに結論を見つけ出して生きています。

 確かにマジシャンはそれぞれ違ったマジックをしていますが、長く生き残って、成功した人と言うのは、必ずベースとなる部分に、黄金律のようなものを見つけ出して、同じような考え方を持って生きて行きているのです。

 そうなら、あまり心配しなくても、誰でも大体同じような所に行き着くだろう。と予測できます。然し、然しです。ある程度の基礎が分かっていい演技をするようになる時期が、30代なのか、40代なのか、70代なのか、それによって、人生の幸せな時期が随分変わって来ます。20代や30代の早い時期にしっかり基礎を学んで、その基礎の上に独自の演技を作り上げて行ったなら、相当優秀なマジシャンになるでしょう。

 これが40代なら、やっと何とかなるかなと言うレベルでしょう。50代60代となると、プロとしての成功は無理です。まぁ、アマチュアなら、しっかりとした演技が出来るためにご近所では、大切にされ、人気のあるマジシャンに成れますが、そこからプロになろうとするには、もう時間がありません。

 つまり、将来的にプロとして活躍したいと言う希望のある人は、早くに基礎を学んでおかなければ、いい具合に伸びて行くことは出来なくなります。かつて、昭和の時代に、「マジックはオリジナリティこそが重要だ」、などと唱える人がいて、オリジナルの重要性をマチュアに訴える指導家が何人もいました。

 実はこのことが日本のアマチュアの発展を大きく妨げる結果になったと思います。昭和の時代のアマチュアは多くは、デパートやマジックショップで道具を買いまくって、その道具を羅列して演じることでマジックをしていた人ばかりでした。そうした人に、いくらオリジナルの重要性を訴えたところで、満足なオリジナルが生まれるわけはないのです。

 学生の発表会を見ても、社会人の発表会を見ても、奇妙奇天烈なマジックを考え出して、わがままで、見るに堪えないような、マジックがどんどん出て来ました。そもそも、こうした人達にオリジナルを求めることが無理なのです。

 ピアノでもバイオリンでも、基礎となる音楽は、モーツァルトや、ベートヴェンが作った音楽を基礎として練習するのに、それを基礎も出来ていないアマチュアにオリジナルを求めて、モーツァルトを超える作品が出来ますか。何をどうしろと言うのですか。

 

 基礎をしっかり学んで、まず自分の演技の形を整えることです。おかしなアレンジは避けて、しっかりとした筋の通ったマジックを演じることこそ第一なのです。それが出来た上でのアレンジや、オリジナルならば、価値が出て来ます。

 オリジナル云々を言うのは言うのはまず10年マジックをして、たくさんのマジックを学んだ上で考えることです。

 と言うわけで、私の指導は基礎指導を専門に行っています。そうは言っても、中にはかなり難しい作品もあります。私の所でなければ学べない作品もあります。例えば、金輪の曲や、12本リングなどは、いきなり12本を習いたいと言っても指導は致しません。まず基本となるのは、6本リングです。6本リングと言うのは、マジックショップの片隅に置いてある、素人向けのマジックです。

 「いや、藤山さん、私が知りたいのは12本リングであって、6本じゃないんだ」。と否定する人がありますが、まず6本が出来なければ12本は出来ません。「それじゃぁ、6本をやって見せて下さい」。と言って、演技を見せてもらうと、これが全くできないのです。リングの改めも、演技中の繋げ外しも荒っぽいのです。その技術で12本を演じると、本数が多い分、演技は雑になり、種はボロボロ見えてしまいます。

 これが金輪の曲になると、舞踊の要素を求められますし、口上が、しっかり芝居口調にならなければ見ていられませんので、一層難しくなります。いきなり上級クラスには進めません。こうした基礎からしっかり教え込んで、一つ一つ先に進む指導が、今の日本ではできていません。それゆえに優れたマジシャンが育たないのです。

 マジックをすることがことさら難しいことではありません。ピアノでも習字でも、習い事はすべて基礎が分からなければ何も進まないのです。アマチュアであれば急いで前に進む必要はありません。ゆっくり、今やっているマジックから面白さを見つけ出して、それを楽しんで練習することに生きがいを求めて頂きたいのです。ちゃんと学べば確実に上手くなります。そして、巧くなると言うことは、人に見えない面白さが分かることなのです。そこが分かって初めてマジックの旨味が分かるのです。どうぞそこに至るまでマジックを見つめてみてください。一作一作があなたの財産になって行きます。

 続く