手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ロシアの焦燥

ロシアの焦燥

 

 どうもロシアはやることなすこと裏目裏目に出ています。ロシアは、クリミア半島を守るために、ウクライナ軍の大規模な反攻を避けようとして、ドニプロ川一帯を、広大な沼地に変えて、ウクライナの戦車軍団を遮ろうと考え、ヘルソン州南部の、ドニプロ川のカフトウカダムを破壊して、流域の町を水没させました。

 この辺りは元々が低湿地帯で、世界有数の穀倉地帯です。家も畑も水没したため、多くの住民が避難を余儀なくされています。この事態に対して、ロシアもウクライナも、ダムの破壊を相手がやったことだと言って騒いでいますが、どう考えても、ウクライナが自国民の土地を水没させる理由がありません。

 第一、ドニプル側一帯を水没させたのでは、ドイツ製の戦車を使っての大規模な反攻は不可能になります。

 誰が見ても、戦車による攻勢を恐れたロシアの行為であることは明白です。やることなすこと無謀で、後先が見えない行為をすることで、ロシアは世界から非難されています。こうなってはロシアを支援して、紛争解決に乗り出す国など出てくるわけはありません。

 ウクライナには、NATOの支援が広がり、武器弾薬も集まっていますが、ロシアを支援する国はほとんど出て来ていません。中国と、インドは、ロシア寄りの発言をしていますが、今の状況では、ロシアを支援しても負け戦を繰り返すばかりですから、あからさまな支援は不可能でしょう。

 それにしても、なぜロシア軍がこうも弱いのかと考えると、それは、ウクライナで戦っているロシア軍兵士の多くが、何のためにウクライナで戦わなければならないのかがよくわかっていないからなのでしょう。

 徴兵を受けて、ウクライナに来たまではよかったのですが、どう考えてもウクライナで歓迎されているようには見えないし、そもそも、自国軍の装備が余りにお粗末で、この現状でウクライナ軍と戦わなければならないと言うのは、ロシア人のプライドを大きく傷つけています。ロシアの若い兵士の命が次々と失われて行く状況で何のために戦うのか、さっぱりわからないのでしょう。

 対するウクライナ軍が、ロシアよりも優れた兵器を持っていて、ロシアの旧式な戦車を次々と破壊している状況を見ると、バフムトなり、ヘルソンなりの塹壕にへばりついて、死守してまでウクライナ兵と戦う意味があるのかどうか疑問なのでしょう。

 その姿勢は、ロシアの国防軍自体も、この戦いには始めから懐疑的で、いまだに本格的な大攻勢をかけられずに、ズルズル後退しているのが現状です。それを見てプリゴジンさんが怒るわけですが、いくら苦情を言われても、ロシア軍はうっかり攻勢をかければ徹底的に叩かれるのは分かっていますので、いかんともしがたいのでしょう。

 カフトウカダムの破壊工作は、ウクライナ軍の大規模な攻勢を避けるための有効手段として計画されたのだと思います。但し、どうも、ダム破壊はロシアの前線の兵士に伝わっていなかったようで、前線のロシア兵が、ダム破壊による洪水で1000名以上亡くなったと言われています。ロシア兵は気の毒です。

 恐らく、前線が混乱している中でのダム破壊だったのでしょう。ロシアはロシア兵を犠牲にしてまでもヘルソン州を泥沼にしたかったのでしょう。

 

 ドニプロ川と言うのは、ウクライナの大動脈で、いわば関東平野利根川に匹敵するものです、然しその川の規模は利根川の10倍はあるでしょう。ここのダムを破壊すると言うことは、関東平野全域を沼地に変える結果になります。これでヘルソン州と、クリミア半島は分断されて、ウクライナ軍がクリミア半島の奪還を図ることは不可能になります。

 ロシアにとっては、めでたいことですが、今回のことは世界的な規模で穀物の価格高騰を生む結果になります。関東全域に匹敵する広大な土地で、麦や、トウモロコシが作れなくなるのですから、ウクライナにとっては主要な穀物輸出が出来なくなります。それは同時に、ウクライナ穀物で生活していた、多くの国にとっても死活問題になります。

 今も、日本のニュースでは、小麦の価格が上がって、パンの値段に跳ね返って来ているとか、カップ麺の価格が値上がりするとか、牛や豚の飼料が輸入できなくなって、牛肉の価格が上がっただとか、ありとあらゆる面で値上げの話が出ています。

 それでも日本はまだ、生活がストップしてしまうほどの値上げにはなっていませんので、何とか工夫して生きて行くことも可能でしょう。ところが国によっては、小麦やトウモロコシが輸入できなくなると、いきなり餓死者が出る国々もあるのです。

 慢性的に食料不足に悩まされている国では、年間に輸入できる食料の量が限られています。小麦一割の値上げは、そのまま国民一割の人口を失う結果につながるのです。

 

 そうした中、ロシア国内では、反プーチン派の活動が盛んになって来ていて、誰だかわからない組織が、ロシア国内にある軍事施設などを破壊する工作が続いています。ロシア政府はそれを、ウクライナによる破壊工作だと批判していますが、ウクライナから、何千キロも離れたモスクワにドローンやミサイルを飛ばすことをウクライナがするとは考えられません。これは明らかにロシア国内のプーチンさんの反対勢力の仕業でしょう。

 頼みの綱のプリゴジンさんも、このところ、プーチン批判が盛んで、毎日のようにネットにメッセージを出して、ロシア軍や、プーチンを批判しています。

 プーチンさんと言い、プリゴジンさんと言い、どうもロシア人はどこに本心があるのかわからない人が多いように思います。嘘を平気で押し通しますし、自分のしたことを省みようとしません。言っていることのどこまでが本当なのかが分かりません。本気になって話を聞いていては馬鹿を見てしまいます。

 但し、彼らが焦っていることだけは分かります。経済が疲弊して、ロシア兵が次々に死んでいます。それに対して、ウクライナの侵攻を続けるしかないと言うプーチンさんのやり方では、もうロシア人の気持ちをつなぎとめることはできないでしょう。

 恐らく、今月末から、本格的なウクライナ軍の反攻が始まるでしょう。そうなってロシアは一体どういう対抗手段に出るのか。ひょっとして核兵器を持ち出すのか、

どうも、この先、全く人類が経験したことのないような時代に進みそうです。

 それにしても、プーチンさんは、絶頂期から、一気に奈落に突き落とされて行きました。8年前にクリミア半島に手を出さなければ、いや、クリミア半島で侵攻を止めておけば、ロシア史に残る偉大な政治家で終われたのに、自己過信が過ぎたようです。恐らくこの人は遠くない将来、誰かに射殺されるでしょう。偉大な政治家も、射殺も紙一重なのです。

続く