手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

令和5年、2023年

令和5年、2023年

 

 令和5年が始まりました。令和と言う年号に全く馴染みがないまま、もう5年が経ってしまいました。正直に言うと、平成と言う年号にも実感がありませんでした。私の頭の中ではずっと昭和が続いていました。人との話の中で、平成10年とか、平成15年とか言われると、「あぁ、昭和73年か」、と、年号を置き換えて理解していました。

 それが令和となると一層複雑です。もう昭和を起点に時間を考えることは出来ません。さりとて、頭の中で計算する基準が見つかりません。漠然と時間が経ってしまったことだけを自分に言い聞かせているだけです。

 私が20代の頃は、老人たちの噺の中で、「こないだの戦争」。と言う話が出て来ると、第二次世界大戦のことでした。第二次世界大戦を老人は、支那事変と呼び、その後を太平洋戦争と呼びました。それら全てがこないだの戦争でした。

 私はそれを聞いて「随分古い話をするなぁ」。と思っていました。然し、昭和40年代に当時の老人が、支那事変の話をすることは、令和5年に平成10年の話をすることと同じです。私にとって平成10年は過去ではありません。平成10年と言う時代はつい昨日の話です。そう気が付いたとき、昭和の老人は過去の話をしていたのではなくて、昨日の話をしていたのだと諒解できました。

 

 令和5年を迎えて、今年はどう活動して行こうか、と考えました。特別今までのことから離れた活動はしません。いくつか主宰しているマジックショウを充実させること、私自身のマジックのグレードを上げること、若い人を指導すること。この三本の柱が主であることは変わりません。特に、私の手順を作ることは大きな目的です。いろいろな点で私のショウは、マイナーチェンジが必要になってきています。

 手妻と言うのは古典奇術のことですが、古典だからと言って、何も変えずに昔の儘に生きて行くことは出来ません。少しずつ今の時代に合わせて行かなければ生き残れません。それは時代が動いていますし、人の興味が移って来ていますので、そこに合わせるのは当然のことなのです。

 古さを守りつつ、新しい考え方を提案して行かなければ、古典は残らないのです。但し、このところ新しいアイディアは余り生まれて来ていません。今年はもっとたくさんアイディアを出そうと考えています。

 

 ところで、旧年末に、パソコンの修理をして、一階のアトリエは電波が通りにくいと分かったため、二階の大成の使っていたデスクにパソコンを移しました。二階は事務所ですが、私は今まで二階に自分のデスクを置いたことがありません。事務所のことは弟子と女房任せです。

 常に一階の奥の小部屋が私の書斎でした。一階は約半分がアトリエで、残りが倉庫で、倉庫の一角の一番奥の部屋が書斎です。広さは3畳ほどでしょうか。書棚がびっしり並んでいますので、私が居住するスペースは畳一畳ほどです。極小の書斎です。然しこれがいいのです。

 何を取るのも座ったままで出来ます。手を伸ばせば、マジックの小物でも、本でも、書類でもすぐ取れます。部屋の奥だから暗いのかと思われますが、実は、ここには南向きの窓が取れていて、かなり長時間日が差します。冬でも暖かいのです。

 書き物をしていても、半日作業に没頭できます。「そもプロ」も、「手妻のはなし」も、「たけちゃん金返せ」も、すべてここで書いたものです。私にとってはここにいる時間が最も充実します。

 それが二階に移ると、隣が女房のデスクですので、時々女房が来て、デスクワークをします。電話がよくかかって来ます。人も訪ねて来ます。集中と言う点ではあまりいい場所ではありません。然し、デスクの右手には水道が通っていますので、コーヒーや、お茶を飲んだりが自由にできます。更に、隣にトイレがありますので、昼のデスクワークには最も適した場所だと今になって知りました。この家に住んで34年、初めて二階の事務所の価値を知りました。

 大晦日、元旦は、二階の事務所で整理をしていました。朝から半日、ずっと静かで、日も差して来て、ここの事務所は快適です。「あぁ、もっとこの部屋を生かして行かなければいけないなぁ」。と実感しました。

 但し、二階にばかりいると一階の仕事がおろそかになります。今日はこれから、一階で道具の修理をしようかと思います。7日の博覧会のショウで使う道具をチェックします。直す部分も結構ありますし、依頼されて作った道具もあります。最終チェックをこれからします。

 多分私が作業しているときに、初音ミケがやって来ると思います。かつて、毎週月曜日の午前11時ころにミケは来ました。ミケはかなり正確に私のアトリエの前に来るのです。ところが、この半年は、隣に家が建つために大工が出入りしてやかましいためか、ミケは来なくなりました。今日は正月で、大工も休みです。久々来るのではないかと思います。そうなら、風を入れるドアの窓を開けて待っていようと思います。

続く