手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

攻守交替

攻守交替

 

 二月にロシアがウクライナ侵攻をした時に、誰が今の状況を予測したでしょうか。初めはロシアの一方的な侵略に対して、ウクライナの、自国を守ろうとする悲壮な思いから、やむに已まれず防戦を始めたものが、あれから8か月経ってみると、全く攻守が入れ替わってしまいました。

 当初ロシアは、ウクライナ全土を手に入れる勢いで侵攻を開始しました。ところが、思いのほかウクライナの抵抗が大きく、簡単には目的を達成できないことを知り、やむなく戦略を改め、現状では、プーチンは、既に占領した4州をロシアに組み込んだことで、勝利宣言をして、ひとまず休戦に持ち込もうと考えました。

 しかし、現実には4州の占領が完全に収束しておらず、南部のヘルソン地域では奪還作戦が成功し、徐々にロシアの境界線が狭められています。それに対して、ロシアは攻勢を掛けるどころか、一部では撤退が始まっています。

 今回のロシアによる侵攻がはかどらない理由は、ロシアの国内事情に問題がありそうです。かつてのソ連時代のような、アメリカと世界を二分して対峙していたような強大な力は今のロシアにはなく、国力自体が、石油やガスと言った資源以外で世界を圧倒するような産業がなく、国の規模が遥かに小さくなっています。

 経済は低迷し、国内の不景気は払拭できず、国自体がこの先どうして行っていいのかもわからなくなってきています。それを、世界中の人々も、ロシア人自身も、ロシアが小さくなっていることに気付いていないのです。

 本来、ロシア一国で、ウクライナに全面戦争が出来るだけの国力など初めからなかったのです。貧弱な経済力、長引く不況で、何でロシア人がウクライナで戦いを起こして命を失わなければならないか、ロシア人自身が戸惑いを持っているのです。

 一説によるとこの8か月でロシア兵は8万人が亡くなったと言われています(ウクライナの発表。ロシアの発表は8000人)。

 軍隊と言うのは、実際に戦える兵士は半分しかいません。残りの半分は、兵士が生活するためにサポートする人たちです。すなわち、医者であるとか、事務員であるとか、料理人であるとか、電気電話線を引くための作業員、郵便配達員、生活物資を運ぶ兵站の作業員であるとかです。つまり20万人の軍隊のうち8万人が失われたなら、もうウクライナにいるロシア軍は成り立たないのです。

 そこまでの敗北をしたのだったら、当然ロシアは休戦をする以外ないはずです。無論プーチンも休戦を望んでいます。ところが、ウクライナが、休戦を求めていません。休戦しない理由は明らかで、このまま戦い続ければ、4州のほとんどを奪還できるからです。

 今、ロシアでは戦争継続するだけの武器がなくなりつつあります。それは当然なことで、どこの国でもそうですが、武器も弾の数も一国がそんなに大量にストックしているわけではありません。当初ロシアが考えていたウクライナ侵攻は、いわば局地戦の範囲の戦いで、それなら在庫の武器で十分間に合うと考えていたのでしょう。戦争のための増産体制など考えてもいなかったのです。

 それが8か月に及ぶ戦争となると、戦争の仕方は全く変わります。国民の理解を求めて武器の増産をしなければならなくなります。然し、プーチンは、この戦いの失敗を国民に知らせたくはないのでしょう。ちょっと火遊びをした程度の認識で終息させようと考えています。そうだとすると、全面戦争をして、増産体制を訴えることなど到底無理なのです。

 出来ることなら今のままでプーチンは幕を引きたいのです。然し、ウクライナは休戦をしません。

 

 ウクライナの地図を見るとわかりますが、ウクライナで最も豊かな地域は、ハルキウなどに代表される東側の工業地域です。ここらは昔から石炭が採れるため、石炭を利用して工業製品を作っていましたので、この地域は豊かなのです。そして、工業製品と、ウクライナ全土で取れる農産物を輸出する港を持つ南部の黒海沿いの港湾地域も豊かな地域です。つまり今回占領された4州は工業地域から港湾地域までのウクライナで最も豊かな地域に属します。

 

 この4州がどんな位置づけなのかと考えると、日本で言うなら、関東地方の東京都、神奈川県、静岡県と愛知県の4県をロシアに取られたことと仮定して見たらわかります。東京港、横浜港、清水港、名古屋港それらの港と、その周辺のたくさんの工場群をそっくり取られたら、日本は間違いなく大打撃を被ります。それと同じことをウクライナはロシアにされたのです。

 そんな状況でロシアに休戦をしようと言い出されても、ウクライナが簡単に承諾するわけはないのです。東部と南部を取られてしまうと、ウクライナは完全に農業国になってしまい。地理的に見ても海を持たない内陸国になってしまいます。そうなると、ウクライナは自国で作った小麦やトウモロコシをロシア領の港まで運ばなければならず、そこでロシアに関税を掛けられることになります。そうなっては、今でも豊かとはいえないウクライナが一層貧しい国になってしまいます。

 この先ウクライナが国として維持できるようになるには、クリミア半島を含めた4州すべてを奪還することしかありません。しかしロシアはメンツを保つために4州を奪い取ろうとしています。

 4州がだめでも3州、いや2州と、水面下で交渉が続けられているはずです。対するウクライナは全く妥協を示さないでしょう。これから続々とアメリカやドイツの兵器が届きます。今やめる理由がないのです。

 ロシアは今年の冬が早く来て、寒さが増すことを期待しています。そうなれば、欧州は石油が枯渇して、ロシアから石油を求めることになります。そうなると、ウクライナへの大っぴらな武器供与も出来なくなるでしょう。欧州からの武器供与が止まればロシアにとってウクライナは脅威ではありません。

 プーチンにとって、今をしのげば必ず勝機が来ると信じています。然し今現実、ロシアには戦うための武器がありません。しかも不景気で国民の不満は高まっています。ここで交渉が始まって、4州ロシア領で妥結したならプーチン勝利者となって生き延びるでしょう。妥結が出来ないとなるとそこから先は天気次第でしょう。寒ければプーチンの勝ち、暖冬ならプーチンの敗北です。大国の存亡も天気次第です。

続く