手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

オズマンド ウルトラマジックフェス 2022

オズマンド ウルトラマジックフェス 2022

 

 昨日と今日、(9月20日、21日)、六本木のEXシアターで、18時30分から、オズマンド主催による、ウルトラマジックフェスが開催されました。内容は、マジックコンベンションのガラショウのような贅沢さで、長らくマジックショウの質のいいものを見ていなかったマジックファンにとっては垂涎の催しとなりました。

 台風の余波で、一日中、降ったりやんだりする冴えない天気でしたが、それでもマジック愛好家の期待の高まりは大きく、18時くらいには会場内に、多くのマジックファンが詰めかけました。

 その会場となったEXシアターは、十年近く前に六本木に本格的にできた演劇、音楽のための劇場で、設備も内装も素晴らしく、観客数は1200人くらいでしょうか、マジックのスライハンドをするには、サイズが大きすぎる建物ですが、今回は映像を駆使するなどして、巧く見せていました。

 

 出演者は全員で13組、随分ボリュームたっぷりの上、二回出てくる人もあって、ショウは伸びに伸びました。更に公演開始が30分もオーバーし、ショウの開始が7時を過ぎました。全体を見終わったときに、「あぁ、このメンバーをすべて半日で打ち合わせをしようとすれば、リハーサルが押すのは当然だな」。と納得。

 何にしても終演が10時30分、何と3時間半に及ぶショウとなりました。平日と言うこともあり、日本でこの時間までショウを楽しんでいられる人には限りがあります。私の並びに座っていた、小野坂東さんは88歳の高齢なため、後半を少し見ただけで帰宅をしました。老人にとっては体に悪いショウでした。以下順に出演者の感想。

 

 一本目はMASAYO。福井在住でFISMで三位入賞のロープマジック。女性でロープアクトは珍しく、しかも、全てロープだけの手順。基本的な手順をうまく組み合わせてまとめています。

 

 二本目はリオ高山さんのイリュージョン。この会のオーナーです。本業は眼科医、とても費用の掛かった大道具でした。リオさんはそのまま残ってYUKOさんと共に全体の司会。

  

 三本目は才藤大芽。もう5年以上前から何度か彼の演技を見ていますが、手順のまとめ方と言い、個々の技は一番いい出来でした。和のテイストのスライハンドで、独自の世界を作っています。

    

 四本目はアキット。この人が出るとガラッと世界が変わります。言ってしまえば予言のマジックなのですが、マジックに形態模写を交えて、人の一生を語って行きます。その発想が独自で、自分の世界を作るために自身の持ちうる芸能を集約して行きます。

 見た後に不思議な温かさを感じる演技で、多くの女性ファンがいることも納得。技術の高いマジシャンが並ぶ中、見劣りしない演技でした。

 

 五本目にHANNAH。ダンシングケーンのアクト。舞台いっぱいにダンスを取り入れてケーンを演じます。去年大阪のマジックセッションに出てもらい、拝見しました。いいセンスです。お終いに舞台の天井からたくさんの飛行機が飛びます。何を意味しているのかは分かりませんが、彼女のメルヘンの世界なのでしょう。一瞬一瞬を必死に生きている姿に好感を感じました。

 

 六本目はジャグリングの天平。センスと言い、巧さと言い文句のない演技です。棒を使ったアクトですが、鮮やかに決めて、居並ぶマジシャンの人気をかっさらって行きました。

 

 七本目は高橋匠。4A を出して、セカンドディールなどの技法を駆使して手順を作って行きます。師匠のレナートグリーンの得意芸をアレンジしています。サイドの観客に前田知洋さんを指名したのは会場内唖然。前田さんは匠さんを邪魔しないようにうまく乗せて行き、その力量は大したものでした。

 

 八本目は岩根佑樹。今まで何度か見ましたが、今回が一番シンプルで無理なく見ることが出来ました。三日月から、半月、満月と変わると言うのが、彼のテーマのようです。ところどころ演技のアクセントに月が出て来ます。更にところどころにライト(電球)が現れます。そのつながりはよく理解できませんが、彼の世界なのでしょう。演技としては四つ玉が一つ一つ増えて行き、それがすべてふわっと消えてしまったところが素晴らしくいい演技でした。独自の考え方があり、巧さを感じました。

 ただ、演技全体のイメージがユ・ホジンに似通っています。日本の若いマジシャンはユ・ホジンの影響を受けるのは致し方ないとしても、ユ・ホジン自身が出て来るステージに出演する場合マイナスです。

 

 九本目がユ・ホジン。枠だけの額縁の中で羽根が出たり消えたり、増えたり。額縁を使う意味があるのかどうか、よくわかりません。チャンピオンになったマジシャンがその先に悩んでいるように見えました。

 

 十本目は、ヘクター・マンチャ。FUSMのチャンピオン。帽子一つを床において、ひたすらカードが出ます。不思議ですし、独自の世界を持っています。ただ、私の好みとして、汚れっぽい演技は好きになれません。特にカードは奇麗に演じてほしいのです。それでも不思議であればいいと言う人にはいいアクトでしょう。

 

 十一本目はミゲル・ムニョス。やはりFISMチャンピオン。この人も汚れっぽいのが難点。天井から常に水が流れています。水を片手で掬うと水晶の大きな玉になります。次々と玉が増え、又、ひとつづつ消えて行きます。独自の世界であり、不思議です。

 

 ここで休憩。あのひたすら流れる水をスタッフ一同で掃除をしているのでしょう。休憩をせざるを得ない芸です。私も水芸をするため人の事は言えません。ご同業相哀れむ態です。

 

 十二本目は新矢皐月さんのタップダンス。タップの音なのか、音楽の音なのか、違いが分かりにくかったように思います。

 

 十三本目は天平。得意のディアボロを演じましたが、ここへ来て二度目の出演は食傷気味です。ステーキの後に天ぷらが出て、寿司が出て、ラーメンが出たようなものです。もう結構となります。天平さんにはお気の毒でした。

 

 十四本目、ユ・ホジン。ここで彼のFISMチャンピオンアクトを演じましたが、二度の出演はいかがでしょう、もうすでに4本ものカードアクトを見ています。せっかくのご馳走が、満腹です。洗練されたいい芸でしたが、ユ・ホジンにはお気の毒でした。

 

 十五本目は緒川集人。今年のFISMクロースアップ一位。演技は安定しています。コインとスプーンのアクト。面白い展開でしたが、やはりこの手の演技は30人程度のサロンで見たなら、贅沢なひと時です。1200人の会場では演者も観客もストレスが溜まります。せっかくの彼の極上の演技も生かされません。

 

 十六本目はケビン・ジェームス。さすがに演技に老齢な巧さを感じさせます。恐らくこの出演者の中で一番一般のイベントで受けるマジシャンでしょう。恐らく稼ぎもいいはずです。初めに客席で少女と遊びながら、ティッシュで作った花の浮揚の演技をして、子供を上げててコイン消し。カードの予言の黒板。胴体切のイリュージョン。ラストはスノウ。どれも受けのいい演技でした。彼は観客が何を求めているかを熟知しています。

 

 さて全部が終わって3時間半に及ぶマジックショウでした。一人一人のマジシャンのレベルは高かったのですが、カードが4人も出て来て、互いが食い合いをしたり。同じ人が二度出て来てショウを長引かせたり、司会のもたつきが目立ったりと。いろいろ問題はありました。それでも客席ではめったに会えない人たちが集まったおかげで和気あいあいとして楽しいひと時でした。マジックに感謝。

続く