手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

納涼マジックショウin松野

納涼マジックショウin松野

 

 実は先週木曜日から、大阪、奈良、名古屋、富士と、4日間の指導に出かける予定だったのですが、コロナの感染が広がり、大阪、奈良、名古屋の三か所が中止になりました。すると21日の晩に、富士の佐野玉枝さんからから連絡がありました。

 「先生の指導(24日)の前日に、マジックの発表会(23日)を予定しているんですけど、トリを取っていただく予定の小林拓馬さんがコロナに罹って来れなくなってしまったんです。どなたか若い方で土曜日に富士に来てくれるマジシャンはいませんか」。

 電話で依頼が21日です。23日のショウに、スライハンドのできる若いマジシャンです。残念ながら日にちがなさ過ぎます。そこで、「私が行きましょうか?」。と申し上げました。「先生では謝礼がお支払いできません」。「いいですよ、空いていますから私が前日に伺います」。人生なんて明日に何が起きるかもわかりません。

 と言うわけで、23日、24日と富士でショウと指導をすることになりました。ところが、ここからいろいろ問題が発生しました。問題の原因は私にあります。

 

 23日の朝10時03分に、新富士駅に到着しました。いつものように駅前に加藤弘さんが迎えに来てくれています。私はショウと指導の両方をするために、今回は両手に荷物です。車に乗って、富士川の会場に向かおうとしたときに、いつも持ち歩いている和風の手提げバッグがありません。

 中には財布、財布の中には現金、カードが入っています。再度、新富士駅に戻って、忘れ物を伝えましたら、すぐに新幹線に連絡をしてくれて、私の座っていた指定席にバッグは無事ありました。

 然し、ここからが大変です。私の乗っていた新幹線は、荷物と共に12時30分に名古屋に着きます。名古屋駅に取りに行くか、または、着払いで自宅にバッグを送ってもらうかどちらにするかと聞かれました。無論送ってもらうしかありません。

 ついては、12時30分以降に名古屋駅の遺失物預り所に電話をしなければなりません。まぁ、最悪の事態は免れました。一安心して、ステージ富士川と言う会場に向かいます。会場では富士クローバーズの会員の皆さんが既に衣装をつけて集まっています。お客様も少しずつですが集まって来ています。

 出演社の皆さんと一緒に昼食をして、私の出演は3時30分頃ですから、かなり時間があります。富士の皆さんのショウを拝見しつつ休憩することにしました。指導の時はいつもそうですが、深夜から指導内容の稽古をします。古い作品だったりすると、私自身が忘れていたりしますので、全部お浚いします。

 その上で今日の舞台の演技を稽古します。内容は、お札の増加、サムタイ、12本リングです。この三作は50年近く、何千回と演じて来た内容ですから、忘れることはありませんし、失敗もありません。然し、この20年はタキシードを着てマジックをする機会がほとんどありません。私の舞台は和服ばかりです。そのため勘を取り戻すために稽古をしました。

 演技は丁寧に演じるように心がけます。そうするとどうしてもテンポが出なくなります。スピードを上げて演じなければいけません。すると演技が雑になります。繰り返し繰り返し稽古をしたら、ゆっくり見せる部分とスピードアップする部分のメリハリがついてきました。そうです、これが私の若い頃の演技でした。と思い出したら朝の7時になっていました。

 全く睡眠がとれませんでした。そのまま朝食を済ませ、8時には前田が来たので、車に乗って中野駅まで出ました。そして東京駅から新幹線です。ずっと22日から生活が続いています。それが結果として忘れものにつながりました。と言い訳をうだうだ言っていますが、私の不注意の忘れ物です。なにより財布も現金もないのです。そしてよく考えたら明日の新幹線チケットもバッグに入れっぱなしです。

 演技の初手にお札が増えるマジックをしますが、その肝心の札がないため、お客様で来ていた望月由紀子さんにお金を借りて、お札の増加をしました。情けないマジシャンです。

 クローバーズの発表会は15本の出演者です、食事付きで2000円の企画です。近藤路子さんのシルクはすっかり手慣れて好い演技になっていました。龍登志子さんは浪曲奇術ですが、個性的な演技で拍手喝さいでした。時田準平さんは飛び込みで入ったにもかかわらずいいカードマニュピレーションを演じました。妹の夏那(なな)さんはいつの間にか小学6年生になっていました。背が高く、押出がいいためシルクのアクトがうまく見えました。佐野玉枝さんはお椀と玉。高級感が漂いいい演技です。磯部利光さんは四つだかやピラミッドのアクト。巧い出来です。

 そのあと私が出て、借りたお札でお札を増やし、サムタイリングを演じて、長い公演は終わりました。

 

 夜は駅前のホテルに入り、駅の向かいの海鮮料理屋に一人で行きました。鰺のたたきが新鮮で満足です。そこで次々に料理を頼んでみました。黒はんぺんは、鰯のはんぺんで、静岡の地元の名物です。素朴ないい味です。浜松餃子は多分冷凍ものと思いますが、それでも。独特の肉汁の味わいはいい味です。ハイボールを二杯飲んで、仕上げに富士宮焼そばを頼みました。富士宮焼そばは、普通のソース焼きそばなのですが、麺がもっちりとしていて、一度食べると病みつきになる触感です。結局どれもおいしかったので一日の締めくくりとしては満足しました。

ホテルに戻ると、 二杯のハイボールで少し疲れが出ました。まだ9時ですが、シャワーを浴びて、書き物などせずにすぐに寝てしまいました。

 

 翌朝は4時半に起きました。古谷敏郎さんの力作、「宮田輝」を集中して読みました。なんせ分厚い本ですので、簡単には読めません。

 そのあと朝食を済ませ、駅に行き、切符の払い戻しの手続きと、切符の買い直しをしました。何かと面倒ですが、全てスムーズで最悪の中ではうまく行きました。11時に加藤さんが迎えに来てくれて、指導の会場へ、それから夕方5時まで指導。新幹線で東京へ、夜8時に帰宅。長い長い二日間でした。

続く