手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

評伝宮田輝

評伝宮田輝

 

 宮田輝さんはNHKのアナウンサーで、昭和を代表する国民的人気を誇った名司会者でした。なぜ突然、この人の話をするのかと言うと、NHKのアナウンサーの古谷敏郎さんが、この度、「評伝宮田輝文芸春秋社)2200円」を出されました。

 この本を頂いたのは一か月ほど前のことですが、本の厚みと言い、書かれている内容の密度の濃さと言い。そうそう簡単に読める本ではないと直感し、今日まで読んでいなかったのです。昨日(22日)ようやく時間が出来ましたので、読み始めると、これは単なる宮田輝さんの話にとどまらず、戦前から今日に至るまでのラジオ、テレビの世界のアナウンサーの歴史が事細かに書かれていて、一大歴史書に仕上がっています。

 アナウンサーと言う職業が、当初は、ただ事物を正確に伝えればよいと言う、言葉のテクニックの実を重視されたものだったものが、時代とともに、独自の発展をするようになって行き、語り口が、名優や、名人芸のように格調高いものになって行ったり、人柄の親しみやすさなどから想像もつかないくらいの人気を集めたり、知的なセンスや養子の良さが評判になって行ったり、笑いのセンスが認められ、アドリブの才能が認められたりと、多方面の才能を求められ、それにに答えるべく、陰で必死に努力をしてきた人たちのことが細かく書かれています。

 宮田輝さんと同期の高橋圭三さん、後輩の山川静雄さん、鈴木健二さん、と、昭和のテレビを知る人にとっては懐かしい、おなじみのアナウンサーが次々と出て来ます。

 そうした中で、人柄の良さ、親しみやすさ、などから抜群の人気を誇ったのが宮田輝さんでした。晩年は参議院議員の全国区に立候補し、空前の250万票を集め、トップ当選をし、テレビの影響力の大きさを知らしめました。

 実際この時期にタレント候補と呼ばれる人たちが数多く選挙に出るようになり、落語の立川談志さんや、講釈師の一龍齋貞鳳さん、漫才のコロムビアトップさんなどタレントが続々議員になって行きましたが、そうした中で、アナウンサーの存在が、とてつもなく大きな影響を与えるものだと言うことを知らしめたのが、宮田輝さんだったと思います。

 実際、その後、続々と有名司会者が選挙に出馬して、高い得票数で当選しています。今も活躍している小池百合子さんなども司会者として知名度を上げて、政治家になっています。

 

 肝心の宮田輝さんの政治の手腕の方は、自民党大平派に所属をして、三期目の途中で亡くなっています。自民党のパーティーの中で、何度か司会をしていた姿をニュースなどで記憶しています。そうした姿を、「政治家としての手腕は未知数、組織に入ると司会者として便利に使われてしまっている」。と悪口を言う評論家もいました。

 そんな評価の中で宮田輝さんを見ると、アナウンサーとして絶大な人気を誇り、250万票もの得票数を得ていながら、政治の世界では重きを置かれていない姿は気の毒に思いました。大きな組織の中に入ってしまうとなかなか自身の個性が発揮できないのでしょう。然し、そうした世間の批判をものともせず、ご当人は、至って陽気で、テレビ時代と変わらず、でっぷりと太っていて、実に愛想のいい顔をしていて、いかにもNHK向きとも言える、穏やかな会社の重役顔をしていました。

 私も「紅白歌合戦」や「ふるさとの歌まつり」などと言う人気番組で、頻繁に拝見していましたし、実際何度かお会いしたこともありました。いつでも機嫌のいい人で、持論を述べることはほとんどなく、常に人の話を聞く立場に回って、相手に話をさせることがうまい人なんだと思いました。

 素人に質問すると、素人は、話をまとめて要領よく話せる人はわずかです、おかしな話方をしたり、つじつまが合わない話をしたりすることが多々ありますが、そんな時でも宮田輝さんは、自分が相手の話をもぎ取ってまとめて話すようなことはせず、辛抱強く聴いて、ほんの少し、補足をしたり、小さな訂正をしたりして、相手の話を壊さないよう、尊重して、あくまで聞き役に回っている人でした。

 晩年、参議院議員の途中で亡くなっていますが、亡くなった時が68歳だったと知って、まさに今の私の歳だったのかと改めて知りました。私の感覚ではもっと歳を取られて亡くなったのかと思っていました。私と同じ年ですべての活動を終えたと知ると、私の人生は怠けているなと思います。宮田輝さんは随分休みなく働いた一生だったんだなと思いました。

 

 文章は読みやすく、内容はぐんぐんと引っ張られて行きます。昨日は50ページほど読みましたが、すべて読み終わったらまた感想を書きます。芸能の世界にあって、アナウンサーと言うのは特殊な職業ですので、興味の方も大勢あるかと思います。

 宮田輝をご存じなくても、戦前からのラジオ放送時代のアナウンサーの活動や、戦後のテレビの出現からのアナウンサーの苦労話など、事細かに書かれていますので、是非芸能史にご興味ある方は、一度お読みになってはいかがでしょう。

続く

 

 アゴラカフェ7月公演

7月は、3日、藤山新太郎。前田将太、穂積みゆき、小林拓馬、堀内大助、10日、ヤングマジシャンズショウ。ザッキー、前田将太、菰原裕、黒川智紀、17日、カズカタヤマショウ。24日、ヤングマジックショウ。

 入場料、食事、ドリンク付き付き、5000円。12時から、日本橋マンダリンホテル二階、アゴラカフェ。

 

 猿ヶ京、夏合宿

群馬県猿ヶ京で7月30日31日、夏合宿を行います。藤山の稽古場で、大きなステージを使って、連日稽古をします。初日は1時から、夜6時まで、その後町営温泉に入ります。

そのあと食事、以後、寝るまで飲食です。寝る所は、稽古場の畳座敷で寝ますが、古い建物ですので、奇麗とは言えません。抵抗のある人は、近所のホテルを紹介します。

 翌日は、朝、利根川上流を散歩。その後朝食。10時から稽古、昼食をとって、3時まで稽古。そのあと車にて東京に戻ります。車でお越しになるなら、乗り合いで行くように工夫して、新幹線なら上越新幹線上毛高原駅から連絡をくださればお迎えに上がります。参加費、指導料1万円(二日分)食事代(30日、昼、夜、31日、朝、昼)3000円。交通費実費負担。同伴者でマジックを習わない方は食事代のみで結構です。

 事前に覚えたいマジックをお知らせください。道具は各自ご持参ください。テーブル、音響装置などはあります。詳細は東京イリュージョンまで。03-5378-2882