手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ナチズム 1

ナチズム 1

 

 ロシアのプーチンさんは、ゼレンスキーさんに対して、「ゼレンスキーのしていることはナチズムである。ロシアはウクライナ国民をナチズムから守るために戦っている」。と言っていますが、世界の人々は、プーチンさんの発言を聞いて、首をかしげてしまいます。

 先ずゼレンスキーさんはウクライナ国民から選挙で選ばれて大統領になった人であり、私設の軍隊を駆使して独裁政治を敷いている人ではありません。しかも、ゼレンスキーさんはユダヤ系のウクライナ人であって、当然、ユダヤ人に対しての差別をしたナチスとは全く相いれません。

 つまりどこから見てもナチズムに該当する人ではないのです。あえて言うなら、ロシアに対して反旗を翻した政治家であって、ロシアに対抗する政治家であるから、ロシア人から見たなら、敵であり、敵とはナチズムだと結び付けたのでしょう。然し、今では通用しません。

 

 ナチスとは、1910年代末期、アドルフヒトラーと言う若者が、当時第一次大戦に一兵士として戦い、負傷し、ウイーンに戻って貧乏画家として生活していました。然し、敗戦国であるオーストリアで、多くの市民が日々の食事にも困る状況を見て、「ここで絵を描いていても売れるわけがない」。と気付き、芸術家の道を捨てて、政治活動を始めます。

 当時、ドイツ、オーストリアの枢軸国は、第一次大戦に敗れ、連合国から法外な賠償金を求められ、敗戦の苦しさと、賠償金の負担の重さで押しつぶされんばかりの重税に苦しんでいたのです。ヒトラーはそうした状況に素直に反発します。

 「なぜ有能で、誇り高きドイツ人が、たった一度の敗戦でここまで苦しまなければならないのか」。彼は街頭で演説をしつつ、ドイツ人の優位性を訴えて行きます。ところが、オーストリアは、それまではハプスブルグ家が皇帝となって、広く中欧各国を支配していたために、ハンガリー人や、ルーマニア、ユーゴ、などと言った、他民族の暮らす社会でした。いくらアーリア人であるドイツ人の優位を語っても、聴衆の共鳴を得られにくかったのです。

 早くから人種差別に目覚めていたヒトラーは、活動拠点をミュンヘンに移し、そこで思いっきりアーリア人の優位を語りつつ、ユダヤ人を排斥して行きます。ここでヒトラーが、ユダヤ人を非難するのは、ヒトラーの独自の考え方ではありません。

 伝統的に、ヨーロッパ人は心の内で、ユダヤ人を嫌っています。ユダヤ人は2000年近く国家を持たず、世界各地に散らばって生活しています。国家を持たないために頼るべきは金や、自身の持つ技術です。多くのユダヤ人は、金融業や、宝石商をしたり、実業で当てたりして、資金を作って、各国、各地で金を持って地域の優位に立ちます。

 これがヨーロッパ人にとっては批判の対象になります。戦争をすれば、弱小国には金を貸さず、強い方に金を貸してぼろ儲けをし、敗戦国に対しては、生活苦にあえいでいる市民に小銭を貸して利息を取ります。金融とは本来そうしたものなのですが、どんな状況でも金によって付き合う相手を変え、常に勝者の側に立とうとするユダヤ人は、自国愛を持って戦い、財産を失い、命を落とした市民からすれば怨嗟の的です。

 ヒトラーの生きた時代はまさにそれで、弱い者から利息を取り、多くの人が飢えているにもかかわらず、豊かな生活をしているユダヤ人は多くの人から恨みを買っていたのです。

 若かったヒトラーは、見た様の社会状況に素直に反発して、自国民の優位を語り、同時にユダヤ人の排斥を訴えたのです。

 

 ヒトラーは政党を組織します。ウイーンやミュンヘンにいた食い詰め者のごろつきばかりを集めて、政治に参加しようと試みます。素人政治家であるヒトラーの言うことを聞く者はそんな連中しかいなかったのです。とにかくヒトラーは結党します。それが、ナチス、略称NSDAPです。

 ナチスとは略称で、正式名称は、National、ナチオナル(英語で言う、ナショナル=国粋、または国家)Sozialistische、ソシアリティック(ソシアリズム=社会主義)Deutsche、ドイッチェ(ドイツ)Arbeier、アルバイター(アルバイト=ドイツ語で労働のこと)partei、パルタイ(英語でパーティー=政党のこと)。つまり、国粋社会主義ドイツ労働者党。ということになります。

 ナチス国粋主義であることはわかりますが、社会主義とか、労働者党、などと言う文言が入ると、不思議な感覚がします。実際、ナチスが政権を取ると、社会主義者や、共産主義者に弾圧を加えるようになりますので、ナチス自体がどこまで社会主義を広めて行こうと考えていたのか怪しいものです。

 むしろ天から社会主義などなかったのかも知れません。要するに、当時ロシアで帝政に変わって、社会主義国が生まれた状況から、政治の流行が社会主義であったわけで、ヒトラーは多くに人の共感を得たいがために、人が求めているメニューを並べ立てて人の興味を引こうとしたのでしょう。ヒトラーが一貫して主題としたものは、社会主義でも、労働者党でもなく、国粋主義ただ一つです。

 

そのヒトラーにもお手本があります。イタリアのムッソリーニです。後世、歴史の中で、ヒトラームッソリーニを比較して、ムッソリーニを三流扱いする人がありますが、飛んでもありません。ムッソリーニは当時の政治家の中でも抜きんでて有能な政治家で、生前は絶大な人気とそれを裏付ける政治力で、イタリアを牽引してきました。

 ムッソリーニは、ヒトラーのようなごろつき俄政治家とは違います。神学校を卒業し、教師となり、その後新聞社を立ち上げ、経営手腕を発揮したエリートなのです。

 やがて政界に打って出て、およそまとまりのないイタリア社会を一つにまとめ上げ、わずか10年以内で驚異的な農業、工業生産力を達成し、イタリアを欧州屈指の大国に押し上げた偉大な政治家なのです。

 ヒトラームッソリーニに憧れます。そしてムッソリーニの政策を詳細に研究します。失業者対策のためにアウトバーン(高速道路)を作ると言う考え方は実は、ムッソリーニが先にしたことで、ヒトラーはそっくり真似をしたのです。執務室には、大きなムッソリーニ肖像画が飾られていて、ヒトラーは朝に晩にムッソリーニの顔を拝み、崇拝していたのです。

続く

 

 アゴラカフェマジック公演

 6月5日、日曜日、12時から、日本橋マンダリンホテル二階。アゴラカフェで、手妻の公演があります。これから毎月日曜日ごとにマジックショウを開催します。第1週は藤山新太郎と若手マジシャンによるマジックショウです。出演は、藤山新太郎。前田将太、穂積みゆき、小林拓馬。食事付き入場料5000円。ご予約は東京イリュージョンまで。03-5378-2882