手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

武器見本市

武器見本市

 

 ウクライナ情勢は二転三転。何が勝利で、何が正義なのかわからなくなってきました。当初の三か月は、ウクライナ側の自国を防衛する士気によって、NATOが積極支援にまわり、武器の供与が行われ、首都キエフ周辺やハリコフを防衛しました。そもそもがあまりにお粗末なロシア軍の数々の失敗が幸いしたことも事実です。

 ウクライナは短期にロシアをはねのけたまでは良かったのですが、その後、裏で、ロシアとウクライナの戦争終結の交渉が始まります。ロシアは、ひとまず、東側の占領地域と、南側のクリミア半島とその沿岸地域まではロシア領と認めるなら、軍を引いて、休戦しようと持ち掛けたようです。

 ところが、ゼレンスキーさんが、「ロシアが侵略したすべてのウクライナ領土を奪回するまで戦いは終わらない」。と宣言したことで、交渉は暗礁に乗り上げます。妥当な線で考えれば、ロシアが言うように、3か月前までの勢力図にのっとって、軍を引けばロシアとしてもそうそう不名誉な結果にはならないので、休戦の名目は立ちます。

 然し、ゼレンスキーさんとすれば、そもそもがクリミア半島にロシアが食指を伸ばしてきたことから今回の問題が発展してきたと見ています。ウクライナにすれば、東側の工業地帯と、南側、黒海に面した港湾都市群はウクライナの最も発展した地域です。ここをそっくり取られてしまうと言うことは、日本に置き換えてみると、関東地方と静岡県、愛知県まで外国に取られてしまうようなことです。そこまで取られてしまったら国家の経済の半分を取られたことと同じでしょう。

 それで休戦をしてもよいと言われても「はいそうですか」。と了解は出来ないでしょう。そこで、「今まで奪った地域すべてを奪還するまでは戦いをやめない」。という宣言になったわけです。その心意気は立派です。

 但し、よく考えて見ると、当初は、足らない武器を駆使して、半ばゲリラ戦術によってロシアと戦っていたウクライナ軍が、ここまで戦えて来れたのは、NATOの協力があったからこそです。いわば他国の武器支援、経済支援があってここまでこれたわけです。

 飽くまでNATO諸国の善意があればこそなされたわけで、この先も、全土奪回するまで、旧倍のご贔屓をお願いしたい、などと言って、支援を仰いで内戦を長引かせ、戦費や武器を借りて、ロシアと戦い続けられるか、となると、今度は欧州諸国の懐具合の相談が始まります。単なる善意では済まなくなって来るのではないかと思います。

 

 恐らく、欧州諸国とすれば、ここまでウクライナを支援はしたものの、この先ウクライナが欧州から借りた武器代金を支払えるのかどうか、多少焦りを感じているのではないかと思います。戦争が長引けば、ウクライナの持っている財力が不安になります。

 更に、戦いが長引けば、半年後には冬が来ます。欧州各国は厳しい冬には大量の石油が必要になります。石油の大部分はロシアから買わなければなりません。あまりロシアににらまれるようなことをしたなら、石油を売ってくれなくなる可能性もあります。そうなる前に、ウクライナとロシアの仲裁を買って出て、ロシアの苦境を救ってやることの方が欧州にとってはメリットでしょう。

 多分、ゼレンスキーさんが、全土を奪還するまで戦いをやめないと、宣言した裏では、欧州各国が、しきりに停戦を呼び掛けているはずです。「ここまで戦っただけでも大成功なのだから、ひとまずここは休戦したほうがいい」。と、お為ごかしのアドバイスをします。「この先ロシアはきっと崩壊するから、崩壊してから残りの領地を取り返しても遅くはない。ひとまずは和平だ」。と、なだめすかすはずです。こうして欧州各国はどちらにもいい顔をして、この場をまとめようとするはずです。かくして、ウクライナの休戦は案外早く来るのではないかと思います。但しこれは私の推測です。

 

 その上、今回の戦いは、戦争の仕方を大きく変えました。世界の人々は、戦車よりもドローンや迫撃砲の方がはるかに有効であることを知りました。これまでロシア製の戦車は世界中でもトップクラスによく売れていた武器ですが、一台何百億円もする戦車よりも、一機数百万円で、爆弾を積んだドローンの方が攻撃力が高く、いとも簡単に戦車が壊されてしまうのです。こんな映像が流されてしまうと、これからはロシアの武器の売り上げは大きく落ち込むでしょう。ウクライナの侵攻は、世界中から武器が持ち込まれ、毎日戦車を何台破壊したかがニュースになっています。

 このニュースに一喜一憂しているのは、アフリカや中東の内戦国でしょう。その都度、アフリカや中東の内戦国は、自国がロシアから買った戦車は大丈夫か、いや、いっそドローンを買おうなどと、武器のメーカーに注文が行っているはずです。

 ウクライナの侵攻は、武器の国際見本市のようになっています。ウクライナの市民がどれほど苦しんでいるかなどと言うことはほったらかしで、映像を見ながら、「うん、あの武器は効果的だ」。などと言って、メーカーに100セット200セット注文する国があるはずです。残念なことにウクライナ侵攻は、先端技術の武器のショーケースです。

 つい最近、ドイツの最新ミサイル砲をウクライナに提供すると言うニュースがありました。これは明らかにショーケースとなった戦いに、ドイツの武器メーカーが商売を持ちかけているように見えます。いいか悪いかと言えば、ウクライナにとってはいいことです。然し、純粋にウクライナの平和を支援していたものにとっては、この先の長引く侵攻に不安を感じます。一体何のための戦いなのか。出口が見えず、目的もわからないカオスの戦いになってきています。

続く