手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

峯ゼミ シルクアクト

峯ゼミ シルクアクト

 

 昨年7月からスタートした峯ゼミは間もなく1年を迎えようとしています。今年の2月からは大阪峯ゼミもスタートし、東京よりも半年遅れながら四つ玉を指導しています。東京はシルク手順の指導をして既に4回目、あと二回で終了します。

 峯ゼミの目的は、スライハンドのエキスパートを作ることです。日本には100年以上のスライハンドの歴史がありますが、これがなかなかうまく継承されて来たとは言い難く、せっかくの技術も多くの人の目に触れることなく埋もれています。

 基礎を学ぶにしても断片的な手順で作られた商品の解説書しかなく、多くの愛好家は、スライハンドがどう言うものなのかもよくわからないまま、適当につなぎ合わせて手順を作っているのが現状です。

 まず基礎的な技を習得していること、そして無理なく自然な手順が演じられること、さらにそこから発展させた独自の演技を作って行けること。そうしたことが達成できて、初めてプロマジシャンが育ちます。

 そしてその過程で、例えばFISMのコンテストなどで確実に上位入賞するようにして行きたいと言うのが、私の当初の発案です。日本のアマチュアにはそれが出来るだけのマジックの蓄積があるのです。しかし多くにアマチュアはそれを学ぶことなくマジックをしているのです。これを何とかしなければいけません。優れた人材を育てなければいけません。私の考えに共鳴しくくれた峯村健二さんが、実践的な指導を始めたのが「峯ゼミ」です。

 

 今回のシルク手順は、まさにそうした基礎マジックを指導しつつ、大きな素材をスチールするための技法までも指導しています。ここに至ると、峯村さん自身の手順のかなりの部分の秘密を公開することになるので、恐らく当人の心の中では随分思い悩んだだろうと思います。

 然し、毎回のことではありますが、峯村さんの手順作りを見ると、無理なネタ取りと言うものがありません。必ずうまく出来るような解決策が考えられています。ある意味それは当然なことなのですが、多くの人は、知識の上からも技術からもそこに至らないのです。そのためおかしな手順をそのまま演じ続けてしまいます。

 今回の演技は、天海のフォールスノットを発展させて分裂シルクを演じています。シルクが奇麗に二枚に増えるのですが、当初私はスリーブから引いてきたのかと思いましたが、これが、糸を対角線に張ったシルク(結び解けの現象に使います)、を引きネタに応用したもので、この作品はエンサイクロペディアオブシルクマジックなどにも載っており、私もかつて指導に使ったことがあります。

 この糸張りしたシルクを引きネタで持ってくると、実に奇麗にシルクが分裂、増加します。さらにそこから発展させて、糸張りシルクによる、シルクの結び解き、フォールスノット、二枚のシルクの貫通などの基礎指導にまで発展させます。

 そして、峯村さん得意に迷宮シルクにつなげて行き、ラストはボトルを取り出します。

 この一連の演技を見ると、実際に不思議ですし、無理なく不思議が次々に進行します。無理なく次々に不思議が侵攻すると言うのは、実は簡単なことで難しい演技なのです。ここで峯村さんは、マジシャンが何をどう考えなければいけないか、その重要なポイントをしっかり教えています。「あぁ、これはマジックを愛する人ならみんな学んでもらいたいなぁ」。と思いました。

 話は前後しますが、毎回指導の開始に生徒さんによるおさらいの演技がありますが、今回はザッキーさん、日向さんの二人が演じました。二人ともよく練習して来ていて、マジックが出来る人なのです。それでも見ているとタイミングや、パーム等の問題点が見えて来ます。出来るつもりで覚えても、実践の中で繰り返し繰り返し人に見てもらわなければうまくはならないと言うことです。

 

 こうして1時から5時までみっちり指導があり、終了後には私と峯村さん前田の3人は、銀座に出て、維新號(いしんごう)の中華料理店に入りました。ここは銀座でも老舗の中華料理店で、かなり昔の味を残している店です。

 今の時代とは違い、昭和初年の中華料理は決してスパイシーではありませんし、味も強烈さはありません。全体がさらっとしていて、昔の日本人が好んだ中華の味です。然し、薄味であるがゆえに素材のうまみが味わえて、どれも絶品です。

 定番の中華饅頭と、海老ワンタン、それに黄にらの炒めを頼みました。どれもさっぱりとした味わいです。中華饅頭は昔と変わらない味で、ひき肉に出汁がしっかり練り込まれていてそれを甘いパンが包み込み、昔ながらの味です。

 海老ワンタンは、なにより海老のプリっとした触感が売りです。大きなエビがワンタンの衣を付けて、うす味のスープにたくさん浮かんでいるさまは、それだけで食欲をそそります。

 毎回峯村さんをどこへ連れて行こうかとあれこれ考えます。私の行きたいところは多くは日曜日が定休日の所が多く、なかなかうまく行きません。それでも、今回の維新號などは、年に一回は行きたい店ですし、特別高級な店というわけでもありません。銀座の中の普通の店なのです。しばらくのんびり銀座を味わいました。

 

 さて、来月には、アゴラカフェで、毎週マジックショウが開催されます。その第一回が私の担当で、6月5日、12時から始まります。食事付きで5000円です。日曜日の昼、日本橋マンダリンホテルのアゴラカフェで、ゆっくりくつろいで、マジックショウを見る、こんな日があってもいいではないですか。

 何にしても一度、マンダリンホテルを見て下さい、日本橋の本通りに面した玄関口、千疋屋さんの隣から中に入ると、びっくりするほど広い吹き抜けがあって、大きなエスカレーターが迎えてくれます。これを見ただけでもその雰囲気が他では味わえないものです。

 先ずはここで1年公演して見て、夏以降から海外のお客様が入って来るようになれば、人もおのずと増えて行くと思います。

 私の手妻も、ネットの口コミなどで、海外の観光客に自然に噂が伝わって行き、お客様が増えることを期待しています。6月は新しい活動が始まりますので、気合を入れて臨みたいと思います。

 

 6月末には、久々、猿ヶ京の泊まり込みのレッスンも考えています。コロナで随分スケジュールが狂って、今年初の猿ヶ京です。コロナも退散し始めたので、そろそろいいかと思います。この件はまたご案内いたします。

続く