手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

大阪の帰路

大阪の帰路

 

 昨日大阪から戻りました。三か所も指導をすると、道具の量が相当に多くて、スーツケースプラス、バッグ一つで、両手に荷物を持つことになります。あまりに重いときには半分宅急便で戻します。然し、道具は、宅急便で輸送すると、どうも調子が悪くなります。木製のものなどはなるべく自分で持って行かなければ心配です。

 それでなくても今私が使っている道具は少しずつ経年劣化が始まって、使うたびに調子が悪くなっています。手提げの引き出しなどはどうも問題が出て来ました。やはり安易に人に任せてはいけないのでしょう。と、言うわけで、少し体に負担はかかりますが、終わった道具を自分で持ち帰るようにしています。

 

 両手に荷物を持っていると、もうこれ以上何も荷物は増やしたくはないのですが、家族に頼まれるとついつい土産を買います。ある時は、551の豚まんだったり、マダムシンコバウムクーヘンだったり、でもさすがに昨日は荷物が重かったので何も買いませんでした。

 但し、私が新幹線の車中で食べる晩飯は必ず何か買うようにはしています。昨日は、鯖寿司を買いました。飲み物はトリスのハイボールです。本当はサッポロの黒ラベルのビールが好きなのですが、ビールは糖尿によくないと言われていますので、ハイボールにしています。それでもどうしても飲みたいときがあります。その時はビールを買います。いけないと知りつつ飲むビールは格別です。

 大概指導を終え、18時くらいの新幹線に乗ります。シートに座って休むまもなく、アルコールが飲みたくなり、鯖寿司をつまみたくなります。鯖寿司は、安いものは800円くらいから、高いものは1300円くらいまでありますが、値段は正直で、100円違うと鯖の身の厚さがはっきり違います。飯の上にぷっくり太った鯖が乗っていて、その実が脂でキラキラ輝いているような鯖はやはり1300円くらい出さないと手に入りません。

 私はまず東京にいて鯖の押しずしを食べることがありません。私が鯖寿司を食べる時と言うのは、福井からの帰りか、大阪の帰りです。滅多に食べない寿司ですので、ここは値段をケチらずに高いものを買います。

 福井の鯖寿司は別格にうまいと思います。ここの帰りは必ず鯖寿司です。大阪のそれは、いいものを手に入れれば福井並みですが、外れると後悔します。身の厚い、うまみの詰まった鯖が、薄いこぶにくるまって、しっかりした味の付いたものを一口頬張ると、「あぁ、関西に来てよかった」。と、関西の文化を体で知ります。

 

 時に太巻き寿しを買うこともあります。巻き寿司も、東京で食べることはありません。子供のころ、母親が遠足や、運動会の時に作ってくれた思い出があります。おいしいとは思いましたが、その後あまり食べる機会もありませんでした。

 ところが、大阪に通うようになって、特大の太巻きを見つけました。八十島太巻きと書いてあります。直径12センチくらいあります。まるでバウムクーヘンほどもあります。中のおかずは卵焼き、かんぴょう、穴子、シイタケ、臀部(でんぶ=ピンクで鯛の身を細く削った甘いもの)など、たくさん詰まっていて、しかも横からはみ出しています。この手のものは子供向けにべた甘いものが多いのですが、八十島太巻きは甘味は押さえてあります。

 食欲をそそられて買いました。初めてこれを食べたときには巻きずしの考えがはっきり変わりました。しっかり中身の素材が自己主張をしていて、食べていて楽しいのです。これはいい。と思って、大阪の帰りは良く太巻きを買うようになりました。

 但し、新幹線に乗ってすぐには食べません。新大阪を出ると、15分ほどで京都に着きます。京都では少なからず人が乗ります。通路を大勢の人が移動するため、埃が立ちます。

そのため、鯖にしろ、太巻きにしろ、すぐには開けません。まず初めはハイボールの缶を開け、少しずつ飲み始めます。何しろ、3時間弱で小さな缶一本しか飲めません。時間配分を考えて飲まないとすぐに無くなってしまいます。

 単行本を開いて、本を読みながら、ちびりちびりとハイボールを楽しみます。そして京都を過ぎたところで鯖寿司なり、太巻きなり、551を開けます。

 但し、551の豚まんは注意しなければなりません。開けた途端、ニンニクの香りが周囲に伝わります。嫌いな人には嫌な顔をされますので、周囲に人がいないのを見計らって食べなければいけません。たまに大阪からずっと混雑したままで、ついぞ豚まんを食べられないときもあります。そんな時には新横浜を過ぎると、乗客はかなり少なくなります。それでもいっぱいの時には品川を過ぎると、乗客は約半分になります。

 然し、品川からではあと5分しかありません。それでも空腹のときには、551の箱を開けて豚まんをぱくつきます。あの下味のしっかりついた肉の塊と。ほのかに甘みのある饅頭の生地が混ざると、独特な旨味を感じます。私はこんな時につくずく「大阪の人は粉ものを扱わせたら日本一だなぁ」。と感心します。決して過剰な味付けをせずに、それでいながら、それとなく味を伝える才能は、なかなか関東の飲食店ではまねできません。いや、関東でもうまい仕事をする店はたくさんありますが、わずか一個、百数十円の豚まんでそこまでこだわったレベルのものはなかなかお目にかかれません。大したものだと感心します。

 

 太巻きを食べるときは、先ずスライスされた太巻きを一つ、端から飯の部分を少しかじると太巻きはバラバラになります。それを一度容器に戻して、次に箸を使って、中のおかずを一つ一つ摘まんで、それを肴にビールを飲みます。こうするとまるで小鉢に並んだおかずを一つ一つチョイスしながら、小料理屋で酒を飲んでいる気持になります。一つ食べたらまたスライスした太巻きをかじって、中身を食べます。こうして4つに切り分けた太巻きをすべて食べ終わると、もう他に何も食べられません。

 そもそも飯の量が多くて、茶わん二膳分くらいあります。それをビールや、ハイボールと一緒に食べるわけですから、これだけでもう満足です。一仕事を終えて、車窓から夕方の近江平野や関ヶ原の景色を眺めながら、のんびり酒が飲めるのは幸せです。

続く