手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

無学者は論に負けず

無学者は論に負けず

 

 落語家が話の枕にときどき使う言葉で、物を知らない人が知ったかぶりをするときとか、間違ったことを言い張って押し通してしまうようなときに、「無学者は論に負けず、無法者は腕ずくで勝つ、などと申しますが」、と言って話に入ります。

 何気に聞いている言葉ですが、よく考えて見ると実に含蓄があります。落語は、とても世の中の役に立ついい話をしつつ、誤った道へ人を誘導します。この人の崩れて行く過程が面白いのです。

 話を戻して、いくら立派な学問を納めた人でも、相手が全く学問のない人では何を言っても理屈は通りません。

 事分けして丁寧に説明しても、相手が「そんなの嫌だ」。と一言言えば全てかけた時間が無駄になります。分かるとか、分り合うと言うことは、相手側にかなりの知識があって初めて成り立つことです。

 「そんなことをしても、互いにいい結果にはならない。やめた方がいい」。と言っても相手は分かろうとしない。今この場の損得だけで動いている人には先々のことを話しても無駄なのです。

 無法がまかり通ると言うのは、もう第二次世界大戦で終わったことだと思っていましたが、どうしてどうして、無法は健在です。今もまだ続いています。

 私が何を話しているのか、意味はお判りでしょう。ロシアによるウクライナの侵攻です。但し、ここで言う無学者と言うのは無知な人と言うことではなく、分かっていながら分かろうとしない人。理屈よりも我儘を優先する人のことを言います。

 ロシアは戦車や飛行機を使って侵略していながら、「侵略はしていない」。と言い、建物を破壊していながら、「軍事演習だ」。と言い張り、子供や市民を殺傷していながら、「市民に危害は加えていない。それはウクライナ人が自作自演でしていることだ」。と言い張ります。

 こんな言い逃れをする人にどんな話をしたら理解されるのでしょう。実は、ロシアは自分たちのしていることを十分に理解しています。理解していながら分かろうとしていないのです。分かったと言えば自分の我が通らなくなります。

 ウクライナはロシアから見たなら、自国の砦の一つです。ウクライナ自治を認めることはロシアの砦を失います。砦を失えばロシアは丸裸です。ロシアにとってウクライナは絶対国防圏なのです。自国を守るためならどんな出まかせを言っても許されると考えています。何が何でもウクライナを配下に置こうとします。

 然し、ロシアの言うことを誰が信用するでしょうか。嘘と知りつつ押し通し、結局は世界からの信用を失っています。

 それでも、ロシア軍はウクライナに進駐をして、ウクライナの各都市を攻めています。攻めるロシア兵も、内心は半信半疑なのではないでしょうか。

 初めロシア軍は、「ウクライナを支配しているナチのような全体主義政権から、ウクライナ市民を開放する」。と言う名目でウクライナに入って来たのです。

 然し、実際ウクライナに来てみれば、ゼレンスキー政権は、ナチでも全体主義者でもなく、国民の支持を得ています。むしろロシア軍の方が、無謀な侵略者で、市民から「出て行け」、という反発の声に押されています。

 ロシア軍にすればこんなはずではなかったと戸惑うことばかりでしょう。そもそも、ロシア軍は、伝統的に、大陣容を整えて、他国に攻め入れば、相手は瞬く間に屈服すると考えて、最新設備の武器をずらりと並べ、大軍を持ってウクライナに大仰な入場を果たしたのです。

 大概はこれで、相手の政府はびっくりして、敗北を認めます。ところが、ウクライナは屈服するどころか、戦いを挑んできたのです。

 しかも、市民やウクライナ軍が一体となって、あちこちから砲弾を浴びせて、多くのロシア兵を倒しています。

 予想以上のウクライナの抵抗に、さすがのロシア軍も疑心暗鬼に陥っていると思います。

 そうなら、ロシアはウクライナから手を引くほかはないはずです。が然し、ロシアは引かないのです。なぜか。それは「無学者は論に負けない」からです。

 誰が見てもロシアの言っていることは間違っている。ロシアは世界を敵にしている。このまま戦争をしても勝ち目はない。そうと分かってもロシアは戦争を辞めないのです。

 

 この結果がどうなるのか、私にはわかりません。プーチンさんかゼレンスキーさんが狙撃されるか、プーチンさんが失脚するか、ゼレンスキーさんが国外から離れるか、ロシアに革命が起きるか、はたまた、この戦いが第3次世界大戦の引き金となるのか。何かしら大きな変化が生まれて解決することになるのでしょう。

 

 その行方がどうなるのかは全く理解の及ばないところです。但し、確実に言えることは、ロシア自体に大きな戦争を継続するだけの国力がないことです。既に国内は疲弊しています。戦争は結果としては国力のあるものが勝利します。

 第二次世界大戦の際も、ドイツや日本が負けたのは、結果として国力が小さかったからです。ドイツも日本も、戦争当初は大きな経済力を持っていたのですが、1年2年と戦いが続くと戦費が賄えません。資源が無くなり、使える金がなくなったときが戦争の負けです。

 ロシアは石油やガスの輸出で相当いい稼ぎをしていたのですが、それでも経済の優等生と言うほどには稼いではいなかったようです。元々不安定な立場の国力でありながら、今回ウクライナ侵攻で虚勢を張った結果、虚勢がまかり通らず、予想以上の弱体化を見せてしまいました。

 案外ロシアはもろいと言う弱さを見せてしまいました。そうであるなら、ロシアもそう長くは戦えないでしょう。案外この戦いの結末は近いのかも知れません。

続く