手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

話せばわかる

話せばわかる

 

 世の中には、話せば必ずわかる、と考えている人が大勢います。しかし現実には話てもわからないことだらけです。いや、話す前から相手は充分わかっているはずですが、分かっていながら決して分かろうとしない人がいるのです。

 

 まだ私が20代だったころ、アメリカに行って、ショウやレクチュアーをして回っていた時に、空港のロビーで電話をかけていました。相手の話をメモに書きとり、一旦ボールペンを置いて、受話器を戻しました。その時、隣にいた男が、私が電話機の脇に置いたボールペンを持って行こうとします。

 私が慌てて「イッツマイン」と言うと、相手は「ノー イッツマイン」と言って私の顔をにらみながら、ペンを自分の胸のポケットに挟みます。このとき相手が私をにらんだ時間は2秒くらいでしょうか。そして、私は一体どう対処してよいのかと、ぽかんとしている間に、泥棒は去って行きました。

 たかがボールペンと思わないで下さい。このボールペンはパーカー製で1万円以上するゴールドのボールペンです。

 当然、食い下がって自己主張すればよいのですが、相手の顔を見た瞬間に気付きました。相手は取る気なのです。勘違いなどではありません。自分のものであるかどうかなどは問題ではないのです。いいボールペンがある。見つけた。これは俺のもの。そう思ったのでしょう。

 ここでボールペンを取り返す方法はただ一つ、相手と喧嘩をして騒ぎを大きくして、警察を呼び、取られたことを説明する以外ないのです。然し、喧嘩が面倒です。怪我でもして病院に行けば、アメリカは保険がききませんから、とんでもない治療費を取られます。いや治療費よりも、マジックが出来なくなったらどうしようもありません。泥棒相手に怪我をするぐらいばかばかしいことはありません。

 更に、パーカーのボールペンが自分のものである証拠がないのです。私のネームでも入っていたなら何とかなるでしょう。でも普通、ボールペンに名前は入れません。

 つまり、取られたら、その時点で所有者は変わるのです。取ったもの勝ちです。アメリカの警察官に頼んでも、そんなことをいちいち取り合わないでしょう。

 この時、アメリカと言う国がどういう国なのか、いや、欧米と言う国がどう言う国々なのか、その一端を知った気がしました。

 

 昨日のウクライナとロシアの和平交渉のニュースで、ロシアの外務大臣が、「ロシアは侵略をしていない。病院も一般市民の家も破壊していない。すべてはウクライナがでっち上げている。これはアメリカの謀略だ」。と言いました。

 世界中の誰が見ても、ウクライナの戦いは、ロシアが一方的に侵略をしたもので、ロシアの武器によってこども病院や、市民の家が破壊されています。

 誰が見ても明白なことをロシアの外務大臣はやっていないと否定をします。いや、とっくの昔に彼らは自分たちのしていることぐらい知っているはずです。知っていながら嘘を押し通します。

 こうした声明を出す国を信じる国があるでしょうか。そもそもウクライナはこんな国と交渉をすることの無意味を思い知ったでしょう。いや、とっくの昔に知っているはずです。知っているからロシアからの軛(くびき)から逃れたかったのです。

 昨日の外務大臣の発言を聴くと、「ロシアと言う国は友達のできない国なんだなぁ」。とつくづく思います。自分にとって必要なものは自分のもの。自分のものなら奪い取る。嫌がるなら戦争を仕掛ける。全く野生の王国なのです。

 翻って、そんな国と70年以上も領土問題を話し合ってきた日本はお人よしを通り越してバカです。話せばわかる、は相手に寄りけりです。話してわかるような人は始めから他人のものは取らないのです。ぬらりくらりと言葉を濁して、70年も日本の領土に居座っている人たちなど話し合う相手ではないのです。彼らは泥棒なのですから、泥棒とひざを交えて、何を話すのですか。

 

 ウクライナは気の毒です。ロシアにとってウクライナは自分のものなのです。相手の独立など評価していないのです。ウクライナは弱いから取られる。弱いから属国になるのです。属国が立場を超えて行動すればたちまち戦車が入り込んでくるのです。

 このままでは来週にもロシア軍によってウクライナは占領されるでしょう。ゼレンスキーさんは国外脱出を図って、フランスか、イギリスあたりに臨時政府を持つ以外なくなるでしょう。残った兵士は、ロンドンから発信されるゼレンスキーさんの言葉を信じて地下に籠って戦う以外なくなるでしょう。

 そうなればロシアはウクライナの地下組織との戦いを続けることになります。かつてのバルカン半島での戦いと同じことが起こります。5年、10年と言った長い戦いになるかも知れません。ウクライナ側の完全勝利は望めないかもしれません。然し、ロシアは必ず疲弊して行きます。ロシアの国内の変化に期待する以外ないのでしょう。

 

 それにしても、EUNATOアメリカもだらしがないです。ウクライナはこれまで、充分EUアメリカと下話をしていたはずです。彼らはウクライナに対しての支援を約束していたはずです。にもかかわらずいざロシアが侵攻して来たなら、全く及び腰です。ウクライナは二階に上がって梯子を引かれたようなものです。打つ手なし。言ってみれば見殺しです。

 昨日の時点でロシア軍はキエフの中心街から15㎞のところに進軍して来ていると聞きます。東京で考えるなら、川口や川崎あたりまで戦車が来ているのです。そうなら荒川や多摩川を超えるのは訳はないことです。今日にでも市街戦が始まるでしょう。こんな時に日ごろ「話し合えばわかる」と言っている日本のマスコミはどう対処しろと言うのでしょう。初めから領土を取る気で、ウクライナの話など全く聞こうとしないロシアと何を話しますか。

 ウクライナはどうしますか。徹底抗戦しますか、降伏しますか。いずれにしても自国のことは自国で決めなければなりません。見方はいないのです。確実なことは言葉は通用しないと言うことです。

続く