手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

プーチンさん

プーチンさん

 

 プーチンさんの今までしてきたことをずっと見てみると、この人は恐ろしく古いタイプの政治家なのだなぁ。と思わざるを得ません。

 底辺にあるのは覇権主義であり、彼が思い描く世界は、戦後すぐに立ち上げたワルシャワ条約下のソビエト連邦の版図です。すなわち東ドイツ以東が全てソ連の衛星国、という図式です。それは私が小学生、中学生の頃に習った地理に描かれていたヨーロッパ地図に他なりません。

 すなわち、ソビエト時代の最大の版図を持った時代の地図です。プーチンさんは、この地図こそが自国の領土だと主張したいのでしょう。そして、その領土内で起こることはすべて自国の問題であって、西側諸国の介入する話ではないと信じて疑わないのです。

 こうした考えを持った政治家が現れると、周辺諸国は極めて危険な状態に陥ります。東ドイツ以東は全てソ連と言う考え方は、いわば、東ローマ帝国の版図に近い国土を持つことになります。

 大体、欧州の政治家で、自分自身をローマ帝国の子孫だと言い出すと危険信号です。自身がローマ帝国の子孫であるなら、欧州全体を支配してよいと言うことになってしまいます。

 

 それはかつてのムッソリーニがそうでした。彼はイタリアの政治家で、全体主義を推し進めるうちに、自分がローマ帝国の子孫であると信じるようになり、敬礼の仕方をローマ式に取り入れたりしました。

 我々がナチスドイツに見る、右手を斜め上に挙げて、「ハイルヒトラー」と叫んで敬礼する姿は、全くローマ式のあいさつを取り入れたものであり、それを復活させたのはムッソリーニでした。

 まだ若かったヒトラームッソリーニのように一国を自由に操る政治家の姿が羨ましく、自分の理想の姿をムッソリーニに見つけました。そしてムッソリーニの手法、思想をそっくり受け継ぎナチスドイツを作りました。

 ムッソリーニローマ帝国に憧れたように、ヒトラーローマ帝国に憧れました。そして、第三帝国と言うスローガンを立ち上げます。第三帝国とは何か、第三帝国とはナチスドイツのこと、第二帝国とは、第一次大戦前のドイツ帝国のことです。第一帝国とは、神聖ローマ帝国のことです。ローマ帝国が衰退し、最終的に小さな領主が集まって寄せ集めでできた帝国が、ちょうど現在のドイツの領内に長く存在し、持ち回りで皇帝を決めていた時代があったのです。

 つまり、神聖ローマ帝国ドイツ帝国、そしてナチス、これが第三帝国であり、この三つの帝国に住んでいた国民こそが欧州全体を支配する資格を持つ国民であると宣言したのです。

 欧州内でローマ帝国を持ち出す政治家が出て来ると、危険信号がともります。「自分こそがローマ帝国の子孫だ」。と宣言すれば、侵略は肯定され、かつてのローマの領土の奪回が始まるからです。

 本当に当人に王位の継承権があるかどうかなどと言う話は関係ないのです。元々妄想から始まった話ですから、自分に都合のいいように話をつなげてしまい。侵略を正当化する材料に使ってしまうのです。

 現代では、ドイツや、フランス、イタリヤ、からローマ帝国を語りだす人が出なくなったと思ったら、どうやらプーチンさんは東ローマ帝国を自国の理想に思い描いていたのかも知れません。

 そうなると、EU諸国が、ウクライナの侵略を攻めることなど全く料簡違いなのでしょう。プーチンさんにすれば、EUの言っていること自体が全くの言いがかりに聞こえるのです。

 然し彼は、同時にベルリンの壁の崩壊を目の当たりに見ているのです。社会主義が崩壊して、多くの衛星国が去って行った現状をどう考えているのでしょうか。

 そもそも、東西ヨーロッパに境界線を作って、バリケードやコンクリートで封鎖したのはソ連です。そして、そのバリケードから命がけで逃げ出そうとしたのはほとんどが東ヨーロッパの人々です。

 ドイツ人やフランス人で、ロシアやポーランドに亡命したいと望んだ人はほとんどいないのです。東ヨーロッパの国々の人にバリケード封鎖をして、西側に行くことを禁止し、戦車とミサイルで威嚇し続けたのはソ連だったのです。

 衛星国と言えば聞こえはいいのですが、弾圧と脅迫で制圧した国家だったわけです。それが理想の国だとは誰も思わないでしょう。ほとんどの東側の国がベルリンの壁が崩れたときに、自由主義陣営に戻って行き、今ではベラルーシウクライナジョージアと言った数国を残すのみとなっています。

 そのウクライナは今、EUに加盟したがっています。それをプーチンさんは徹底して弾圧しています。このやり方はうまく行くのでしょうか。

 

 私が一国の政策をとやかく言ってもどうなるものではありませんが、この先、社会主義が生き残ることはあり得ないでしょう。そもそも1989年にベルリンの壁が崩壊した時点で既に社会主義は崩壊したのですから。

 社会主義が、資本主義の先を行くイデオロギーではなく、全く見当違いな考え方だと言うことは既にばれてしまっているのです。ロシア革命が起こっておよそ100年、社会主義国家の壮大な実験は失敗に終わったのです。

 その中にあって、覇権主義を唱え、東ローマ帝国の版図に憧れているプーチンさんは、マンモスの化石を見る如くで、今に生きて活躍していること自体、まるでジェラシックパークを見ているようなものなのです。

 

 そんな人がなぜロシアのリーダーとして生きていられるのかと考えるなら、恐らくロシア人は、社会主義が崩壊した後も、社会主義に代わって世界をリードできるイデオロギーを見つけ出していないからなのでしょう。今更資本主義に戻っても、ロシアが資本主義国の中の先進国にはなれない現実が寂しいのです。

 ロシアこそが世界最強の国家、先進国中の先進国と信じていたものが、気付いてみれば、先進国にはとても入れず、所得もアジアやラテンアメリカ並み、軍事費ばかりが突出した貧しい国家だったことがばれたときに、ロシア人のプライドは大きく崩れてしまいます。

 そうならないために、たとえジェラシックパークの恐竜のような時代錯誤な大統領でも、夢を見せてくれる政治家ならすがりつきたいのでしょう。プーチンさんも、多くのロシア人の夢をかなえるべく、ウクライナを侵攻したのです。が然し、実際のところは、どうもロシアはウクライナ一国を制するほどにも国力がなく、このまま進駐が続けばいよいよ国内の革命が起きる可能性すらあります。

 プーチンさんと言う人は、人事権を掌握する手法は天才的な人のようですが、一国の将来を決定するような大きなビジョンの描けない人なのではないかと思います。彼は能吏ではあっても歴史に残る政治家ではないように思えます。

 テレビで閣僚を集めて、ウクライナ侵攻をどう思うかと、イエス、ノーを言わせていた映像を見ましたが、プーチンさんを前にして、ノーと言う閣僚など存在するはずがありません。

 それをあえてテレビで言わせる理由は何かと言えば、彼の周りに本当の支持者がいないからなのでしょう。常に力で抑え、イエスとだけ言わせているプーチンさんは組織の中の役人であり、彼が慕われている人ではないことの証でしょう。寒々としたクレムリン宮殿の中で閣僚にイエスを言わせているプーチンさんを見ると、寂しい人なのだなぁ、と思いました。

 社会主義がこの先どうなるかはまた明日お話ししましょう。

続く