手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

峯ゼミ終了

峯ゼミ終了

 

 当初、全6回で構成されていた峯ゼミが、追加一回を足して、昨日(30日)全コースを修了しました。この指導はかなり壮大な構成で出来ていて。四つ玉のルーティンを二種類指導しつつ、最終的に八つ玉まで指導し、他にもトリプルシェルの扱い。Wシェルの扱いなど、その沿革まで解説し、スライハンドの技術、手順構成の仕方など、かなり専門的に突っ込んだ指導をしました。

 峯村さんは期待に応えて下さって、素晴らしい指導をして下さいました。彼がいなかったらこの企画は不可能だったでしょう。逆に考えたなら、これだけの蓄積があったからこそ、あのFISMアクトや、一連のスライハンドアクトが出来たのだと思います。やはりFISMの第一位は簡単には取れないのです。改めて彼の情熱と深い研究心に敬意を表します。

 

 私の知る限り、ここまで詳細な指導は初めてだと思います。しかも、ギミックを使わずに純粋な技法のみで構成された手順は、私が長年望んでいた。スライハンド復権を示唆する内容でした。

 こうした考えの指導が出来るのも、ほかのアジアの国では不可能です。アメリカでも今となってはここまでのスライハンドの研究がなされているとは考えられません。

 ヨーロッパなら、ドイツ、イギリス、フランス辺りに住む、わずかな研究家と、熱心な生徒が細々と研究している可能性はありますが、問題はそこから先に、スライハンドがマジック界に発信されて、大きく発展する可能性は薄いと言わざるを得ません。

 つまりヨーロッパと言えども、スライハンドは仕事場も理解者も減っているのです。

 むしろ、日本には、大学のマジッククラブがあり、半世紀以上にわたってスライハンドを演じてきた実績があります。そこから卒業したアマチュアに理解者が少なからずいると言うことが効果が大きく、大学生と、大学のOBを掴んで指導の輪を広げて行けば、マジック界の中でかなりの理解者が得られる点が、日本のマジック界の可能性を感じさせます。

 実際日本には、70代80代で、大学時代にマジックをした人で今日までもマジックを趣味にしている人がたくさんいます。実はそうした人たちが積極的に支持者となって、支援の手が差し伸べられないことが、日本のマジック界を貧相なものにしています。

 その辺りまでも取り込んで、スライハンドの再開発をすれば、かなり大きな力になりますし、スライハンド復権の原動力となります。学生時代にマジックをしていたと言うことが、どれほど誇らしいことか、何とかそれを再認識させる環境を作り上げたいと思います。こうした活動は、韓国、台湾ではやろうとしても人材がいません。70代80代のマジック愛好家の数が思いっきり少ないためです。

 来月から始まる第2弾、シルクの指導も、既に10名以上の参加者が集まっていますので、東京の指導は定着したと言えます。大阪は今のところ3名の参加で、このまま行くと見切り発車で開催されるとは思いますが、何とかあと2~3名、参加者が集まることを願っています。

 いずれにしても新規事業を起こすには、今はあまりに時期が悪すぎます。インバウンドでどんどん観光客が押し掛けていた2年前なら、プロマジシャンも稼ぎが良くて、かなりの参加者が見込まれたと思いますが、今はひっそり鳴りを潜めています。

 但し、勉強するなら、時間を持て余している今こそやっておくべき時なのです。今しっかり力を身に着けておけば、やがてたくさんの観光客が来るようになったときに本当の実力を示せるのです。

 

 13時、指導開始、今回は、いつもの神保町の会議室が使えず、御徒町多慶屋さんの裏にあるレンタルスタジオを使用しました。今までよりも広くて使いやすい場所です。

 今回仕上げと言うこともあり、何人かがこれまでの手順を披露しました。その中で初めに演じた堀内さんの演技が飛び抜けて出来の良いものでした。

 私は当初、おさらいと言うことで、あまり期待をせずに見ていました。然し、堀内さんは、習ったハンドリングで手順構成をし直して、自分なりに指導内容を消化して手順として演じて見せました。まるで彼が演じた手順が、今まで習って来た指導の基本手順であるかの如くに見えました。

 いや、ここまで内容を消化して自分のものとしている生徒さんがいると言うことは驚きでした。彼は大学を卒業して社会人となって、もう7~8年経つと思いますが、こうしたマジック愛好家が存在するところが日本の底力だと改めて感心しました。

 堀内さんの手順を見て、改めて峯ゼミの成果を確信しました。もし堀内さんをご存知の方がありましたら、ぜひ彼に手順を見せてもらってください。新たなスライハンドの価値(決して新しくはないのですが、今の時代には確実に新鮮に見えます)を再認識すると思います。

 その後、Wシェル、トリプルシェルの扱いを解説し、全員で練習をして指導内容をまとめました。

 そして、最後まで指導を受けた受講者のためにDVDの演技ビデオを全員に渡しました。実は今回の指導で、受講者にDVDを差し上げることは、最後まで峯村さんが渋っていましたが、私は公開すべきだと強く主張しました。

 この後、かなり真似され、広まる危険をはらんでいますが、やはり今の時代に模範演技のDVDは欠かすことは出来ないでしょう。ここまで付いてきてくれた参加者の善意を信じて渡すことは間違いではないと思います。指導と言うものは無償の愛情がベースになければ無価値なのです。

 

 それに参加者全員、修了書を差し上げました。簡単なものでしたが、7回の指導の成果です。多くの参加者はこの修了書をもらっても、これが大きなことと捉えてはいないようですが。30年50年後に、この修了者をもらったことは確実にプレミアがつくはずです。

 それは、いわばダイバーノンやカーディーニから直接指導を受けたことの証をもらったことと同じことで、しかも10人程度の修了書であることが後々大きな価値となります。冷静に考えて、日本のスライハンドの再生の第一歩として、記念すべき峯ゼミの第一回受講者の証は大きな価値があります。

 17時終了。そのあと私はやり残しの仕事があったため、急ぎ返りました。このところ事務的な用事が多く、ずっと睡眠不足です。指導時間中もうとうととしてしまい、指導内容がところどころ記憶がありません。何でもかんでもすぐに頭に入っていた20代のころとは違うんですね。

 とにかく峯ゼミの達成は大きな成果です。1月8日9日のヤングマジシャンズセッションと言い、9日のコンテストと言い。その成果は大きなものでした。確実に質の高いショウを提供できたと思います。と同時に、この先マジックをする人たちが何をしなければいけないかをはっきり示せたと思います。

 日本には多くのスライハンドの愛好家がいますが、スライハンドとは何かという、スライハンドの本質が見えたのは、今回が初めてだったのではないでしょうか。

 昨日の峯ゼミの効果はこの先、じわじわ現れて来るでしょう。いい流れになって来たと思います。今年は正月早々暗い影がいまだ晴れずにいて、不安定な日々が続きますが、冷たい雪の下で、確実に次の時代の芽が育っています。楽しみです。

続く