手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ターンテーブル

ターンテーブル

 

 昨日、若手指導の日に、ザッキーさんと、古林一誠さんと、早稲田康平さんの3人が共同で私にレコードのターンテーブルをプレゼントしてくれました。

 もう誕生日プレゼントなどと言うものは、長いこと頂いたこともなく。ときどき娘からシャツをもらうことはあっても、もらってももらわなくても全く期待もせず、誕生日と言っても、家族でケーキを食べるくらいのもので、なんら特別なことはやっておりませんでした。

 たまたま12月1日のブログに誕生日であることを書きましたが、返って周囲の皆様に入らぬ心配をかけてしまったのかも知れません。

 秋田の小野学さんから徳利を頂き、昨日はまたターンテーブルを頂きましたが、今年は稀の稀の出来事です。どうぞこの先も何かを送られることのないように、私をそっと静かに67歳にさせて下さい。普通にお付き合い下さればそれだけで幸せです。

 

 ただ、ターンテーブルは正直有難く思いました。実は、私の家のオーディオはかなり古物になってしまいました。当然買い替えを考えてはいましたが、このコロナ禍の中、オーディオセットの買い替えもままならず、コロナが収まって、舞台の仕事が来るようになったら、一式買い直そうと考えていました。

 そうした中、2年前からターンテーブルが動かなくなり、ささやかな楽しみであった、レコード鑑賞が出来なくなっていました。

 幸い、youtubeで、様々な名盤を紹介してくれる投稿者さんがいて、今まで買う機会を逃していた過去の名盤を聴くことが出来て、新たな楽しみを覚えました。

 それはそれで楽しいのですが、10代から買い続けてきたレコードもたまには聞きたいと言う思いが募っていました。

 

 それが思いがけなくも、若手三人のお陰でかなうことになりました。実は、先日福井に行った折、こども歴史文化館に出演した際、子ども歴史文化館には、昔の蓄音機が何十台も保管されていて、しかもそのほとんどが現役で聴けます。

 先日はそこでボレロを聴かせていただきました。ボレロと言う小品ですら、レコード一枚の裏表を使います。曲が少し高揚してきたところで一面が終わり、蓄音機のぜんまいを巻きなおして、レコードをひっくり返して裏面を聴きます。昔は面倒な作業をして、音楽を聴いていたわけです。

 まるでコンパスの針のようなしっかりとしたレコード針をレコード盤に乗せます。すると、シャーと言う独特の音がして、やおら音楽が出て来ます。針がレコードの溝に触れ、反応し、それが拡声板で拡幅されて音は再生されます。一切電気を使わずに、いわばからくりによって音が出ます。

 今から見たなら原始的な装置ですが、音は意外にもしっかりしていて、十分録音当初の音が奇麗に再現されています。

 蓄音機時代のレコードは78回転というスピードで回転し、25㎝くらいのレコードが片面4分くらいしか入りません。

 そうなると交響曲のように、各楽章が5分以上あるものは、裏と表で一つの楽章になり、全曲を聴くためにはレコード4枚セットを買う必要がありました。当時のレコードは今の価値にすると、一枚1万円くらいでしょうか。4枚セットとなると、4万円です。よほどの金持ちでなければレコード鑑賞などできなかったのです。

 応接間で紅茶を入れて、蓄音機をかけて、オーケストラやバイオリン曲などを聴くと、昭和初年のアッパークラスの生活をしのぶことが出来ます。

 無論、私の家には蓄音機はありません。SPレコードを焼き直したモノラール盤はレコードも、CDもたくさんあります。それを応接間ではなく、アトリエで聴きます。アトリエと言えば聞こえはいいですが、マジックの道具でごちゃごちゃしています。いわば作業場です。

 コーヒーを入れて、ロールケーキをつまみつつ、ほんのひと時1940年代のメンゲルベルクフルトヴェングラー指揮の、アムステルダムコンセルトヘボウやベルリンフィルハーモニーを聞きます。

 時には、ベートーベンの、3番や7番、ブラームスの1番などを二人の演奏で聴き比べたりもします。そうしたことはこの50年間、何百回もしてきたことですが、聞き比べてみると、その都度新たな発見があって面白いのです。

 私のレコードやCDは、古い物ばかりです。最近の指揮者はあまりあありません。1940年代から、90年代までの指揮者がほとんどです。それがいいのです。

 特にSPレコードを聴いていると、私が知らないはずの昭和初年の風景が忽然と現れてきます。そこに浸っていると、充実感を感じます。

 

 さて、私の家のターンテーブルが故障をしていることをなぜ若手の彼らが知っていたのか。私が福井で蓄音機を聴いているときに、ついうっかり「今はSPレコードを聴くことは出来ないんだ」。と言ったのです。何気に言った一言を気にかけてくれて、贈ってくれたのです。

 有難く善意をいただきます。今日は前田は休みですので、明日、彼が来たなら、オーディオセットに接続して、早速古いレコードを聴いてみます。

 何を聴こうかな、ムラビンスキーのチャイコフスキー5番にしようか、ウィーンで録音した5番の演奏は大迫力で、何度聞いても感動します。

 いやいや、感動と言えば、メンゲルベルクのマタイでしょう。永久に忘れられない名演です。然し、全体を聴くには相当に長い。もう少し短めで感動する音楽はないか。

 心に響く演奏ではフルトヴェングラーブラームスの4番でしょうか、いやいや、これは暗すぎます。出だしから陰陰滅滅としています。もう少し明るい希望のある音楽にしましょう。

 ここは陽気に、メンデルスゾーンのバイオリンコンチェルトをクライスラーの演奏で聴こう。これはいい。これだ。と言うわけで、明日はクライスラーをかけて見ます。あぁ、明日が楽しみだ。

続く