手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

リサイタルの練習 1

リサイタルの練習 1

 

 毎日、25日のリサイタル公演、「摩訶不思議」のための練習の日々です。一昨日(12日)と昨日(13日)は、峰の桜の振り付けを藤間章吾先生にお願いして、前田と一緒に先生のお宅に伺い、舞踊の練習をしました。

 峰の桜の中に、1分30秒だけ、長唄の吉原雀と言う曲で舞踊が入ります。無論、手妻の演技ですから、手妻をしながらの舞踊です。1分30秒なんてわずかな時間です。が、私に取ってはとんでもなく大きなハードルです。

 私はこの数年、セリフや、舞踊の振り付けの記憶が悪くなって、どうにも覚えられなくなりました。今やったことをあっさり忘れてしまいます。以前は、頭の中にハンガー掛けがあって、記憶を順に掛けておけたのですが、年齢が進むにしたがって、記憶は全く残らなくなってしまいました。頭の中のハンガー掛けがどこかに行ってしまい、今は頭の中はつるつるで、どこにも記憶をかけておく場所がありません。まったく自分のしたことが当てにならなくなっています。

 然し、できないとは言ってられません。私のリサイタルですから。何とかやりこなさなければいけません。ただやるだけでなく、上手くなければいけません。いや、上手くやろうなどと、欲をかいてはいけません。とにかく数こなしてできるようにならなければいけません。

 今日(14日)早朝から、昨日の振りを一人で稽古して見ます。前田は、何とか一日で振りを覚えてしまいました。若い者にはかないません。しかも、前田は踊りの中に手妻はありませんから、かなり楽です。

 私は、覚えの悪い上に振りに手妻を入れなければいけないので、えらく苦労します。昨日の記憶をたどり、手妻を加え、踊りを頭に入れなければいけません。えらいことになってしまいました。

 今日(14日)は、夜から、邦楽の生演奏の方々との音の打ち合わせです。生演奏は、これ一回きりで、あとは本番です。生演奏の方は、いつもやっている曲を演奏してもらうので、大きな変化はありません。

 やはり、問題は、初演の峰の桜です。デモテープはいただいていますので、毎日それに合わせて稽古をしていますが、曲の寸法と演技の長さが微妙に違っています。そこを演奏家に説明しつつ、手妻に合わせてもらわなければいけません。今日中に正確な演技時間を出さなければ、この演技は永久に合いません。そのため、振り付けの稽古を終えた後、夕方までに全体の稽古をして、それを演奏家に伝えなければいけません。

 演技全体は8分あります。道具と衣装は揃いました。しかし実際やってみると、微妙なところでスムーズにはできません。少しずつ余計な時間がかかっています。そんなことではいけません。もっと魔法がかからなければいけません。手妻をしているのでなくて、夢の世界でふわりと不思議なことが次々に起こらなければいけません。何十年やっても少しも巧くならないですねぇ。

 17日には猿ヶ京に行って、猿ヶ京の舞台で、実際に道具を組み立てて、章吾先生に東京から群馬まで来ていただいて、私の稽古場で手妻と、音楽と、振り付けまでそっくり通してやってみようと思います。そのためには、17日までにすべてがクリアになっていなければいけません。まったく時間との勝負です。そこがクリアされればあとは本番までひたすら練習するだけです。

 私の予定ではそのように進むのですが、そのためには相当幾つもハードルがありそうです。それを目的に向かって果敢に対処して行く。などと言えば聞こえはいいのですが、曖昧な記憶を頼り、つっかえひっかえ、何とかして稽古をしています。

 それでも、一つ一つが上達の道の一歩ですから、躊躇しないで前に進まなければいけません。

 結局、40年以上リサイタル公演活動を続けて来ましたが、いくつになっても、何十回公演しても、次の一回はまた一つ一つ初めからやって行かなければなりません。会場を借りて、チラシを印刷して、お客様にご案内をして、集まっていただいて、公演をします。

 同時に、新しい道具を考えて、製作して、ハンドリングを考え、演出をし、人を集めて練習し、すべて手仕事、全て初めてのことばかりです。苦労と言ったらどれも苦労ですが、それでもそれが面白いのです。

 どうぞ、ご興味の方は25日の高円寺のリサイタルにお越しください。

 

 藤山新太郎リサイタル「摩訶不思議」18時開場、18時30分開演。入場料4000円、当日4500円。

https://t.livepocket.jp/e/makahushigi

 

 16日(土)玉ひで公演。若手出演、早稲田康平、前田将太。

名物の親子丼を楽しみながらじっくり手妻を見物、江戸情緒にたっぷり浸って下さい。