手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

田源さんの展示会

田源さんの展示会

 

 今日(10月2日)は、呉服の大問屋、田源さんの本店での呉服の展示会で手妻をします。春にも同じ企画で一度公演を致しましたので、二度目になります。

 このコロナ禍で、私を引き立てて下さることは誠に幸いです。今回、私の会に、せとなさんと、早稲田さんにお声がけをして、前半に出演してもらうことにしました。私の方からささやかな謝礼は出しますが、謝礼よりも出演の場所が一か所でも増えたなら彼らの芸の試演に役立つでしょう。大切なことは、一日でも多く舞台に立つことです。

 特に、喋りの芸は、これが完成だと言うものはありません。喋りは刻一刻と世の中の変わってゆく様を素早く捉えて、お客様との共通の話題を見つけることが大切です。

 いつまでも同じことを喋っていてはいけません。ちょっとした世間の流行をすぐに取り入れて、面白可笑しく話を作って行かなければ人の注目は集まりません。半年も話がずれていてはお客様の興味は離れてしまいます。

 話は常に今が求められます。何十年と同じ話をしていても、ちょっとそこに、今の話題を投入するから人は注目するのです。人の話題を探す能力を身に着けていないと、喋りは成功しません。

 何にしても一日でも出演チャンスを生かすことが大切です。

田源さんは呉服屋さんで、ビルの二階に大きな座敷があります。しばしばそこで琵琶の演奏会や、落語会が開かれています。その中に加えてもらって私が出演しています。

 もしここでマジシャンがマジックショウを定期開催したいと考えるなら、それは可能です。場所は無料で借りられます。田源さんのネットワークで人も集まります。収入を得たければ、自分でチケットを販売すればよいのです。

 つまり個人的に独演会を開きたいなら、いくらでも開催は可能なのです。「コロナで出演場所が減った、人に見せる場所がない」。などと嘆いていてはいけません。やる場所は無限にあるのです。自分から仕事場に近づこうとする努力をしていないだけです。

 仕事がないから、他のアルバイトを探して生きて行こう。あるいはマジックのグッズを作って販売しょう。そう思う前に、もう一度よく考えることです。

 あなたは何になりたいのですか。他のアルバイトをして、マジックは上達しますか。お客様の心はつかめますか。自分が子供の頃や若いころに描いていた、なりたいマジシャン像に近づいていますか。そのための努力をしていますか。常に乗り越えなければならない障害から逃げていませんか。

 私はつい数日前に、ある若手のマジシャンAさんに会いました。Aさんのことは20歳くらいから知っています。マジックが大好きで素直で、よくマジックを稽古します。結構うまいのです。そんな人ですから会うと色々話をしたり、指導したり、情報を提供したりしていました。そしてコロナ禍で8か月会うこともなく、先週久々会いました。

 その時Aさんはやつれて見えました。顔から判断して、相当苦労しているように見えました。目的を見失っているようにも見えました。芸人と言うのはどんなに苦しい生活をしていても、クリっと明るい目をしていて、陽気でつややかなかおをしていなければいけません。いやなことがあっても、人に会うときにはすべてを忘れて、面白そうに生きて見せなければいけません。

 世間のお客様は芸人から生きる苦労を聞きたいとは思いません。何か面白い話があると思うから寄ってくるのです。

 芸人と言うのは百に一つの可能性があれば、それを百倍に拡大して世間に語って見せることが芸人の生きる道なのです。それを嘘やはったりだと言う人がいるならそれは芸能芸術を知らない人です。音楽でも、絵画でも演劇でも、ありもしないことを何百倍にも膨らませて、さも現実を語っているかのような虚構の世界を作って生業(なりわい)にしているではありませんか。

 マジックなどは特に虚構そのものです。それはマジシャンが一番よく知っていることでしょう。マジシャンの顔に希望が見えなくなったら、もうそこには何もないのです。

 芸能で生きるなら、常に現実を突きつけられます。私は子供のころから、天真爛漫な親父の生活を見て、その呆気羅漢とした人生に唖然としました。然し親父は、芸人人生を全うするために常に、母親との夫婦喧嘩を繰り返していました。いつもわずかな金がないことで夫婦喧嘩です。毎日毎日芸人人生を全うするために現実と向かい合わなければいけなかったのです。

 それを全く悩まずに芸人人生を続けて行けた人は何万といる芸人の中で本の数十人しかいなかったでしょう。そのことは今も同じなのです。

 大切なことは自分の考えを変えることです。若いくせに生活感の漂う顔をしていては幸せは来なくなります。何とか生きる道はあるはずだ、と信じて、寄り道せず、芸人人生を全うするのです。

 私は、そうした人に収入の道を教えることはできません。然し、仕事が来る方法、人が寄ってくる方法は知っています。生活の匂いのするようになった若いマジシャンに私はその秘策を伝授しました。

 

 1、人前に出る2時間前から生活の苦労話は頭の中から消し去る。苦労の心配をしていると顔に出ます。また、ついつい話の中に泣き言が出てしまいます。それが人の興味をそぎます。苦労の話はしまい込んで、どうしたら楽しくなるか面白い楽しいの話ばかり考えるのです。

 

 2,会う人会う人を肯定して認めることです。自分が苦しいと、人を自分と同じような立場に引きずり下ろすようなことをしがちです。要注意です。それは既に負のスポイラルが始まっています。自分は気が付かなくても、成功しない人は嫉妬と他人の非難をし続けます。これは確実に人生を悪くします。

 会う人に常に、「あぁ、あの人と会って得をした、一日が楽しい」。と思えるような人になることです。

 

 3、マジックをすることです。自分の人生を良くする方法は、マジックをする以外に解決の道はないのです。マジックから逃げて余計なことをしていては、結局何の成功ももたらさないのです。コロナ禍ですることがないと言うなら、時間は有り余っているはずです。そうなら今こそ作品作りのチャンスではないですか。さて、この2年間を振り返ってごらんなさい。あなたはいくつ作品を生み出しましたか。もし一点の作品も生み出せなかったとしたなら、それはコロナが悪いのですか、あなたが怠けていたからなのですか。

続く