手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

アキット公演

アキット公演

 

 昨晩(9月30日)、魔法使いアキットさんの公演を見て来ました。アキットさんはこれまでもずっと独自の公演活動を続けて来ています。今回は中目黒のキンケロ劇場で、9月30日から、10月3日まで、都合4公演を行います。その初日を拝見。客席数は100人程度でしょうか、ほぼ満席の状況です。

 アキットさんのショウは、全くアキットさんの一人舞台で、自ら台本を作り、自ら語り、自らマジックをして、90分、休みなく演じ続けました。

 アキットさんは、長野の人で、今も長野に暮らしています。日本全国で公演をしていて、関東関西名古屋などでもリサイタル公演をしています。

 そして驚くべきことに、どこで公演しても、劇場を満席にします。昨晩も、20代から30代の女性がほとんどでした。通常のマジックショウから考えると、これほど女性客の多い公演は異常です。終演後も写真の撮影会などして、ファンサービスをしています。

 アキットグッズなども販売していて(この日は販売はありませんでした)、ネットで販売をしていて、その宣伝まで舞台でしていました。ある種カルト集団のような気配すら感じます。

 そうしたファンがお客さんですから、客席には、マジックマニアはほとんどいません。(昨晩を見る限りマジックマニアはゼロと考えていいでしょう。奇妙なタイムラグの反応は全くなく、妙なところで感心する訳知りの反応もありませんでした)。それゆえに、マジックを見る目は素直です。

 アキットさんはレコードの色変わりなどを普通に演じますが、観客は、ジャケットの中にレコードを入れて、ハンカチを穴に通しながら色の変化したレコードを出すと、実に不思議そうな反応が返って来ます。

 このマジックがまだ現役で通用すると言うところが私にとっては新鮮でした。観客は新規のマジックを求めていないのです。飽くまでアキットさんの作り出す世界に浸ろうとしているのです。

 昨晩の内容はクロースアップが多かったのですが、それも独自のマジックと言うよりも、オイル&ウォーターなどの定番物のカードマジックを演じています。自身も、オイル&ウォーターの説明をしながら、ベーシックなカードマジックを演じています。

 つまりマジックの部分だけをピックアップしたなら、普通のマジックばかりなのです。マニアが集まらない理由はここにあるのかも知れません。

 一般の観客は新規のマジックを求めて来るのではありません。アキットさんそのものに会いたくて来るのです。そうならアキットさんが何をしても許されます。まるで母親が子供が無心に遊ぶ姿をいとおしんでいるかのように、観客席は暖かくアキットさんの演じるマジックを見つめているのです。

 

 アキットさんは自らストーリーを作り上げ、マジックを見せつつ自身の幼児体験であるとか、独自の夢の世界を再現して、舞台を作っています。

 ストーリーのあるマジックショウによくあることですが、マジックをはめ込んだところが、ストーリーと溶け合わず、ちぐはぐになることが時々あります。実際、昨晩のショウでも無理なこじつけを感じるところがありました。

 見方によっては単なる自己満足に見える部分もあります。然し、全体を通してみると、実に素直なのです。子供の時の体験をそのままに、自分のできる範囲でマジックを加え、言葉足らずながらも確実に世界を語っているのです。

 服装も、子供の衣装はまともでしたが、その後、画家として名を成したときの衣装は、何とも異様でした。まるで恵比寿様や大黒様が着ている衣装のようで、私のような古典奇術を演じる立場の者としては、むしろ影響すら受けます。

 何にしても風変わりな衣装です。その衣装であみだくじのフォースなどをするのですから、変と言えば変です。おかしな点を数え上げたならきりがないのですが、然し、アキットさんのすることはすべてを突き抜けています。アキットさんのファンにすれば、アキットさんのすることは何でも許されるのです。

 むしろ私などは、見ていて、いかに自分が自分を語ることなく、マジックばかりを見せようとしていたか、反省させられます。マジックをしているとついつい忘れがちな、自分自身を伝えていないことに気付かされます。心の奥を語っていない芸術は芸術ではないのです。心の内を語ることこそが芸能芸術の原点であり、そうした点、アキットさんは常に原点を見つめています。それゆえに多くの観客を持っているのだと思います。

 

 二年前にの私の公演に出てもらいましたが、アキットさんのショウは、観客がアキットさんを胎内み包み込むようにして見ています。その世界が一種独特で、この世界観を作り上げたところにアキットさんの芸能があるのでしょう。

勉強になりました。

 

 藤山新太郎公演「摩訶不思議」

 人のショウの良しあしを言っている場合ではありません。もう今月の25日には私の公演があります。アキットさんの公演と比べると、何と私の公演はマジックマジックしていることか。もっと、ショウを俯瞰で見て、広く芸能の中からマジックを捉えなければいけません。昨日、峰の桜の音楽が半分ほど出来上がってきました。聞いていて、イメージがわいてきました。いいですねぇ。楽しみです。

 衣装も出来て来ました。私の衣装、爺さんの衣装も、若衆の衣装もいい出来です。犬の衣装もまずまずの出来です。二、三日のうちに、衣装と音楽を合わせて見ようと思います。

 新しいことはとても大変な仕事ですが、やりがいがあります。すべては私でなければできない仕事です。今のうちにできることをやっておこうと思います。

続く