手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

峯ゼミと峯村さん

峯ゼミと峯村さん

 

 一昨日(8日)午後から峯ゼミがありました。台風の余波で、天気は朝から雨、それでも昼には雨も小降りになり、時間に合わせて伺おうとしていると、少し面倒な電話がかかってきて、少々手間取りました。

 さて出ようとすると、いつも持ち歩いているバッグが見当たりません。家中探しても見当たりません。車の中かと思い、車も調べましたがありません。

 色々探すと、二階のソファの上に裏向きで置いてありました。表はトカゲ皮ですが、裏は真っ黒で、ビニール袋に見えます。最近よくある思い込みです。

 まぁ、見つかってよかったと思い、家を出ましたが、神田神保町について、駅を降りると、前回来た景色と違っています。場所が良くわかりません。前田に電話をして降り口を聞きます。まったく逆方向でした。ホームを再度通って長い道を抜けると、今度は見知った場所に出ました。何のかんのと30分の遅刻です。

 峯ゼミは11名の参加、前回同様、熱心に基礎レッスンをしています。今日はパス、パームの練習。フレンチドロップのボールの扱い。技法としては基礎中の基礎ですが、私が見る限り、これが奇麗にできる人がなかなかいません。

 峯村さんは、なぜフレンチドロップがうまく行かないかを事細かに解説して行きます。高々左手のボールを右手にフェイクパームするだけの動作に、ここまでこだわったレッスンは誰も受けたことはないでしょう。

 然し、とても役に立ちました。目からうろこです。誰も知らなかった細かな技が隠されていました。

 その次に見せてくれた、左手のひらを上にして、ボールを載せ、そのボールを右手に握るフェイクパームは、全く見たことのないもので、聞けば峯村さんのオリジナルだそうです。すばらしくいい手です。これを知っただけでもこの日に参加した価値はありました。

 そのあと、ボールが1個から4個になるまでの基本手順を演じ、詳しく解説をしてくれました。いいですねぇ。細かく細かく解説されると身に染みて理解が深まります。

 峯村さんのマジックは、スライハンドが科学されて、すべてに説明が出来ます。これはものすごいことです。今でも学生のマジッククラブなどでしばしばみられますが、ひたすら稽古を要求して、体が疲労するまで同じ動作を練習して技法を覚えるような行為、あれは間違いです。

 なぜ見える、なぜ不自然なのかを練習によって解決をするのでなく、まず頭で手順の成り立ちを考えて行動しなければ、何度稽古をしても不自然ですし、見えるものは見えます。

 かつて天海さんが良く言った言葉で、「手を使うよりも頭を使いなさい」。と言うのはこのことで、いくら練習をしたところで、本質がわかっていない限りうまく出来ないのです。

 峯村さんのマジックは事細かに答えが出ています。そこに至るまでどれほど時間がかかったかが、演技を解説されればよくわかります。これが習える日本の若手マジシャンは幸せです。

 実は日本のマジシャンの強みは、こうした先人の蓄積を持っていることです。韓国や、台湾、中国のマジック界には、スライハンドの蓄積が不足しています。目に見えているマジックが全てで、深い知識がありません。

 日本人が基礎をしっかり学べば、演技の厚みは増して行きます。どんなに奇抜なマジックを考えたとしても、パームが見える、パスが見えると言うのでは価値は半減します。

 基礎的なところで種が見えては優れた演技にはなり得ないのです。せっかく日本には優れた技法の蓄積があるのですから、まず基礎をマスターすべきです。基礎が出来ていれば演技に厚みが出て来ます。それを知って演じるのと、知らずに演じるのとでは格段の違いになります。

 峯村さんと言う、きわめてデリケートな感情を持った人が、コツコツと独自に考えて答えを出したものを習えると言うのはとんでもない価値あるマジックを手に入れたことになります。深く感謝します。

 

 日中、峯村さんのレッスンを見ていて、こうしたものに若い人が集まって本気になって学んでいる姿を見ると、いい流れになって来たなと思いました。日本はこの先大きなチャンスが生まれる期待が出来てきました。これが1年2年と続いて行くうちには、ここから次のスターが出ると思います。

 

 4時30分レッスン終了。私と峯村さん、それに前田の三人は神保町を後に日本橋に出ます。目指すは高島屋の裏にある穴子料理の玉ゐ(たまい)。瓦屋根の二階造りです。ここの穴子のかば焼きは私も女房も娘も大ファンです。

 狭い店ですので5時30分からの予約をしておきましたが、着いたのがちょうど5時30分でした。いい具合です。

 この店は品数はほとんどなく、大ぶりの穴子にたれをつけてかば焼きにします。穴子はうなぎと違い油気が少なく、味はたんぱくですが、それでも淡い脂が乗っていて大人の好む味です。穴子は大ぶりで身が厚く、これが二枚、重箱の中で重なるように飯の上に乗っています。薬味は、山椒や、山葵、ネギなど様々付いています。

 三分の二まで食べて、しばらく待っていると、鉄瓶に入った出汁がやってきます。飯と穴子を茶碗に入れ、出汁をかけてお茶漬けにします。これがうなぎの茶漬けほどしつこさがなく、出汁の味でうまみが増し、一層食欲がわいてきます。

 この日は緊急事態宣言のさ中ですので、店ではアルコールが飲めせん。穴子のかば焼きでちびちび酒を飲み、マジックの話が出来たなら最高に幸せなのですが、果たせず残念です。

 峯村さんもレッスンを終えて、酒が飲みたいところでしょうが、ここは我慢するほかはありません。

 前田も一緒に連れてきています。前田は少し前に文化庁の膨大な資料を書き上げ、補助金を勝ち取ってくれたため、ご褒美に同席させました。前田はたびたびいい思いをしています。

 これまでも仕事や接待の同伴して、随分うまいものを食べていますが、この日、前田のうまいものランキングが塗り替えられたようです。

 人の味覚は25歳くらいまでで決定してしまうようですから、私のところにいるうちに色々いいものを食べておいたほうがいいでしょう。

 

 毎月岐阜の柳ケ瀬で集まって辻井さんと峯村さんと私の三人によるマジックのミーティングを続けて来ましたが、このところ半年ばかりご無沙汰です。

 本来ならアユの季節なので、長良川の源流で取れたアユが食べたいのですが、コロナのために柳ケ瀬に行けずに残念です。大垣弁を喋る、大柄なロシア人女性はどうしているでしょう。特に会ったからどうと言うものではありません。ただくだらない話をするだけですが、会わないとやけに気になります。

 秋にはコロナも収束して、平常に戻るといいと祈っています。

続く