手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

夢をかなえる

夢をかなえる

 

 子供が何かに興味を持って練習を始めたときに、両親は、出来ることなら何とか子供の夢をかなえてあげようと考えるでしょう。逆に言うなら、子供にとって夢を実現させる第一歩は両親の理解を得て、両親をスポンサーにできるか否か。ここが入り口になります。

 私の家のように、親父が芸人であれば、私がマジックを始めたときには親父は大喜びで、積極的に応援してくれました。私にとってのスタートはすんなり進んだわけです。

 然し、多くの家は子供が芸能をすることに対しては怪訝な目で見るのが現実でしょう。

 それは親からすれば、芸能の道は細く、仮に子供に才能があったとしても、子供が果たして芸能で生きて行けるかどうか。なまじ半端に支援したばかりに親はずっと子供のスポンサーになり続けなければいけないのではないかと、新たな不安が生まれるからだと思います。

 そうした親の不安は、家庭内に、ある程度支援できる豊かさがあればこそで、まだ恵まれた家庭であると言えます。全く親が生きて行くのに精いっぱいであったり、親が芸能に無理解であったりすれば初めから子供の夢は断たれてしまいます。

 夢の前には常に現実が立ちはだかり、その道で生きて行くためには日々、どう生きる、どうやって稼ぐ、という現実が突きつけられるのです。

 もちろん、親が無理解だからと言って簡単にあきらめる人はそうはいないでしょう。好きな道であれば、何が何でも続けて、やがて自身が働くようになれば、その収入で趣味の道を伸ばして、やがてプロになって行く人もあります。つまり、自らがスポンサーとなって芸能を続けるわけです。

 

 突然何でこんな話をしたのかと言うと。オリンピックを見ていて、13歳の西矢椛(もみじ)さんが金メダルを取ったと言うことは、当人の才能もさることながら、100%親の理解がなければ不可能なことだと思うからです。

 恐らくご両親は自身の人生のすべてを投げ打って子供の夢をかなえるために協力したのでしょう。いや今も支援し続けているのだと思います。

 それでも、子供がオリンピックで金メダルを取ったと言うならそれは快挙です。話題にもなり、新たに企業のスポンサーもつくでしょう。椛さんの将来に明るい可能性が生まれたことは間違いありません。然し、そうしたスター一人を生むために、入賞に至らない選手がたくさんいて、それを支える家族がまたたくさんいるのです。

 

 私の10代の頃に、フィギュアスケートのチャンピオンで佐野稔さんと言う人が活躍していました。今も解説者で活躍されていますが、私と同じ年だと思います。

 当時はまだフィギュアスケートと言うものが認知されていなくて、佐野稔さんが出たことで初めてスケートの面白さを知ったと言う人が大勢いた時代です。

 この人のご両親は、山梨で温泉ホテルを経営していて、相当に収入もあったようですが、フィギュアスケートと言うのは練習のために桁違いな投資が必要で、スケートリンクを丸々数時間一人で借り切らなければなりません。広いスケートリンクをたった一人で独占するのです。それもほぼ毎日です。

 結局、ご両親はホテルを手放し、財産のすべてを佐野稔さんに投資しました。佐野稔と言う一代の名人を生むために、両親は自身の人生を犠牲にしたのです。

 恐らく羽生弦さんの両親も同様なのではないかと思います。フィギュアスケートと言うのは今は大変に光り輝いているスポーツですが、両親に相当に資産がなければトップに立てない世界なのです。

 

 但し、子供に才能があるか否か、成功するかしないかと言うこととは別に、親の人生を考えたときに、子供の夢に投資をすると言うことは、同時に自分自身の人生を変えるきっかけでもあるわけです。勤め人としてこのまま生きて行っていいのだろうか、と言う、疑問が湧いたときの解決として、子供のチャレンジは、同時に親の人生の新たな扉を開くきっかけになるわけです。案外こうしたきっかけを面白いと考える親がこのところたくさん現れてきているように思います。

 

 サーフィンで銀メダルを獲得した、五十嵐カノアさんなどは、お父さんがハワイに移住し、子供をハワイで育てようと決断して、始めからサーファーを育てようとしています。まったく人生を親子ともどもどっぷりサーフィンに浸かっています。

 そうした中からカノアさんのような人が出て来るのは必然と言えます。このところ、日本人の中に自由奔放に人生を描いて、独自の生き方を見つけようとする人が出て来ていることは面白いと思います。

 今の時代は新しい価値観を社会に提供できる人が光り輝いていると思います。独創的な生き方をして見せる両親がいることで初めて突き抜けた才能の子供が育つわけです。

 現代の日本人はそうした親子の生き方を面白いと考えるような風潮が生まれて来ています。いい傾向だと思います。多くの人が、人と同じように生きることが必ずしも幸せなわけではないと言うことにようやく気付いてきたのです。

 そうなると、マジシャンにも出番があるのでしょうか。マジックで60年以上も生きてきた私なんぞが何かアドバイスをする時代が来たのかもしれません。

 まったく大空を素手で泳いで雲を追いかけるような人生を送ってきて、何とか今まで生きて来れたのですから、これこそ奇跡です。何とかこの生き方を人に教えてあげなければいけません。題して、「根拠もないのに楽して生きる」。これです。この生き方を人に説いて回るのが私の人生なのです。

続く