手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

熱戦オリンピック

熱戦オリンピック

 

 毎日、テレビではオリンピック競技が放送されています。何年にも及ぶトレーニングの成果を凝縮した、いわば、苦難の末の結晶を我々は有難く拝見しているわけです。

 サッカー、野球、バスケットボールなどの、比較的よく目にする競技の他に、およそ、オリンピック以外で目にすることのない競技があります。重量挙げであるとか、機械体操とか、卓球とか、見た目はポピュラーなスポーツながら、日ごろ目にする機会はありません。これらのレア競技が見られることはオリンピックならではと言えます。

 

 柔道は大会初日からいきなり金メダルが出ました。高藤直寿さん。5年前のリオオリンピックの際の金メダル候補と言われていながら果たせず、銅メダル。それから5年の修業を経ての金ですから、このオリンピックにかける意気込みは並大抵ではなかったでしょう。涙を流して語る気持ちは私にもわかります。思わずもらい泣きをしてしまいました。

 25日に阿部一二三さん、妹の阿部詩さんが兄妹で金メダルの快挙は素晴らしいものでした。二人がマスクをして並んでいるととても良く似ています。柔道は日本のお家芸と言いながらも、兄妹の金メダルは初です。大健闘です。

  26日には、大野将平さんが金メダル。こちらは日頃から古武士の風格があって、勝っても負けても表情を変えません。まったく柔道家の鏡のような人です。

 その柔道も、大技が次々に飛び出して、現代の柔道にように、寝技や抑えばかりで点を取る柔道とは一線を画しています。わかりやすい伝統的なスタイルです。まったく日本柔道のお手本のような人です。

 優勝の際には、多くを語らず、淡々とインタビューに答えていましたが、井上康生さんを見たときにはすぐさま抱き着いて、顔をくしゃくしゃにして泣いていました。本当は泣きたかったのです。井上康生さんももらい泣きです。トップに立った人同士にしかわからない思いでしょう。辛い、苦しい思いをずっと隠しつつ、大先輩の前では思わず本音が出て、思いのすべてを見せてしまいました。これぞ武士と呼ぶにふさわしい男です。

 

 男子体操は、強豪のロシア、中国に挟まって、銀メダルを取りました。金は僅差で逃がしましたが、それでも大健闘です。

 日本の体操は、初日に内村航平さんが鉄棒から落ちて、暗雲が垂れ込めました。長らくオリンピックで活躍して、日本の体操をリードしてきた内村さんにとって、東京大会が、これほどの醜態を見せる場になるとは予想もしなかったでしょう。

 マジックも同様ですが、大きな失敗が出たときには、どんな立派なビジョンを描いていても、一瞬で夢も希望も、何も表現できなくなるのです。そんなときには一人で責任を受け止めなければなりません。良かれと思ってしていたことがうまく行かないときほどつらいことはありません。

 これがもし東京大会が予定の通り、昨年、2020年に開催されていたならどうだったでしょう。内村航平さんはきっと金メダルを獲得して、記録を伸ばし、帝王にふさわしい引退の道を作ったのではないでしょうか。いや、きっとそうなっていたでしょう。わずか一年のオリンピック開催の遅れが明暗を分け、厳しい結果を生みました。観客である我々に出来ることは、これまで楽しい夢を見せてくれた内村さんの健闘を讃え拍手を送ることです。お疲れさまでした。

 

 昨日(26日)。卓球の水谷隼さんと伊藤美誠さんのコンビが金メダルを取りました。長らく中国にその地位を奪われていた日本の卓球界が、今回初めて、金メダルを手に入れました。

 卓球は日本で考えられたスポーツです。そうなら、金メダルをたくさんとっているのかと思いきや、コンビで行う卓球は初めての金メダルだそうです。

 卓球は安定とは無縁のスポーツかと思われます。どんなに実力があっても、実績があっても、わずかな判断ミスからガタガタと崩れて行きます。今回の中国のコンビがその例でしょう。絶対の優勝候補があえなく破れます。厳しい世界です。

 

 スケートボードはオリンピックとしては比較的新しい種目でしょう。名人上手が少ないだけに、若い人にとっては王者になるチャンスの種目です。

 一昨日(25日)は、男子ストリート部門で堀米雄斗さんが金メダルを取りました。22歳です。22歳で若いと思っていたら、翌日には女子の部門で、13歳の西矢椛(もみじ)さんが金メダル。同時に中山楓奈さんが16歳で銅メダル。日本人のティ-ンが二人も表彰台に上がりました。これは驚きです。

 13歳でも世界王者になれると言うのが、多くの小、中学生に夢と希望を与えたことでしょう。いいですねぇ。そんな世界を見ていると無限に夢が膨らんできます。

 但し、西谷さんの成果を見て、一般道路でスケートボードをする子供が続出するのではないか、と心配になります。よほど注意してやらないと大怪我をしますし、周囲の人にも迷惑がかかります。簡単な道具でどこでもできますが、然し、かなりアクロバチックで危険な種目です。この先けが人が続出しないことを祈ります。

 

  開会式の視聴率が56,4%もあったそうです。最近テレビ離れが激しいと言いながら、この視聴率は快挙です。オリンピックが始まるまではどこのテレビ局も悪い噂を垂れ流して、オリンピックをやめろ、やめろの大合唱をしていたものが、ふたを開ければ手のひら返しでアスリート礼賛です。

 日ごろから努力をして、この日に挑んでいるアスリートの気持ちを思えば、どうしてオリンピックを悪く言えるのでしょう。オリンピック自体に問題は多々あったとしても、オリンピックをやめろと言う理由がありますか。連日苦しいトレーニングをしてきたアスリートの心をどれほど不安に陥れて来たのか、テレビ局は分かっていますか。あまりに短絡的で、狭量な発言です。いや、世の中にどんな人たちがいても結構ですが、人のリーダとなるような人たちが間違った方向を国民に煽ってはいけません。

 やると決めたらちゃんとやる。その姿勢をきっちり保ったのは菅首相です。菅さんはガースーだの、ぼんくらだのと言われていますが、その姿勢は立派です。

 今回のオリンピックに対して菅さんの姿勢は終始一貫していたと思います。テレビのワイドショウがオリンピックの映像を流すことは結構ですが、始めにオリンピック関係者やアスリートに謝罪してから映像を流してほしいと思います。

 コロナと言い、オリンピックと言い、テレビは無責任に悪口を言い、話を煽り過ぎます。今回のことでテレビ局は底の浅さを露呈しています。大企業でありながら、大野将平さんのような、風格も本道に生きる姿も曖昧です。寂しい限りです。

続く