手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

矛と盾

矛と盾

 

 矛盾(むじゅん)と言う言葉は矛(ほこ)と盾(たて)という二つの言葉からなっています。矛とは、太古の時代の真っ直ぐに伸びた、両刃の刀です。盾とは、手で持つ、身を守るための板です。板には、青銅の枠などを施して、少し強度を足してあるものもあります。

 昔、武器を商う商人が、大道で矛と盾を売っていて、「この矛はどんな盾でも貫く矛だ」、と言い。盾を売るときには、「この盾なら、どんな矛でも貫くことはできない」。と言って自慢をして売っていた。それを聞いたお客が、「じゃぁ、お前の矛でお前の盾を突いたらどうなるんだ」。と言うと商人は何も答えられなかった。という故事からきた言葉です。 

 すなわち、理屈に合わないことを矛盾と言います。世間に幾らでもありそうな話ですが、実は野球の世界では、選手の技量が向上したことで、技術が頂点に達し、明らかな矛盾を露呈してしまい。野球自体が危機に瀕しているのです。

 

 ピッチャーの球速は、ほんの一昔前までは、150㎞も出せば世間は大騒ぎをしたのですが、最近では160㎞出す選手がぞろぞろ現れるようになりました。160㎞がどんなスピードなのかと言えば、自動車ですら、100㎞を超せば運転するのに相当危険であることは分かります。ましてやバッターにとって160㎞で投げてくる球は銃に匹敵します。まったく武器による戦いと同じ条件で身をさらしているのです。

 実際、バッターはピッチャーの投げる球はほとんど見えないのです。マウンドからホームベースまでは27,4ⅿあります。仮に150㎞の球を投げると、キャッチャーに、0.7秒で球が到達します。球は27mの距離を0.7秒で走るのです。それを瞬時にボールかストライクか、カーブかフォークか判断を立てて打つことなど実際不可能なのです。

 バッターはピッチャーの動作を見ていて、「多分こう言う球を投げるだろう」、という推測でバットを振っているのです。推測でやっているわけですから当然一昔前よりも打率は悪くなり、なかなか点が取れなくなっています。ピッチャーにとっては大変な能力なのですが、バッターから見たなら、動体視力を超えた超スピードなのです。そうなると、なかなか点が取れずに試合の面白みが薄れてきます。

 ピッチャーの技量が高度化して、160㎞の球を投げる選手が出るようになって、球団はそんなピッチャーをとんでもない金額で招きますが、結果、互いのチームのバッターは点が取れなくなり、試合が冗長になってしまったのです。

 親父が仕事から帰ってきて、缶ビールを飲みながらテレビの野球を見ていて、だらだらと互いが点の取れない試合を眺めていてはストレスが溜まります。

 かくして、野球は徐々にファンを減らして行ったのです。

 

 各球団は、絶対にホームランの打てる選手を求め、同時に絶対ホームランを打たれないピッチャーを求めて、強い球団を作り、野球人気を挽回しようとします。

 初めの話に戻って、これは矛盾です。虫のいい話なのです。ところが、この矛盾に応える選手が現れたのです。

 

 それが大谷選手なのです。大谷選手はまさに矛盾の塊のような選手です。投げれば160㎞の球をぼんぼん投げ、打たせれば、ハーフシーズンで33号のホームランを打つ。人間業を超えています。まるで、他の大リーガーの選手が大人と子供の差に見えます。

 バッターとしての大谷を制するには、大谷が投げない限り抑えることが出来ず、大谷の球を打てる者は大谷だけと言う様相に至って、全米は大騒ぎとなったのです。

 そして昨日(14日、アメリカ時間13日)。オールスター戦で、なんと、大谷選手は、ピッチャーとバッターの両方で登場したのです。大リーグの歴史始まって以来の快挙です。大谷選手のためにルールを書き換えての登場です。

 今まで野球から離れていたスポーツファンも、何事かと大谷選手に注目し始め、ニューヨークタイムズまでもが一面に大谷選手を写真入りの大見出しで掲載しました。ニューヨークタイムズはスポーツ新聞ではありません。政治経済紙なのです。それが一面に大谷選手を取り上げたのですから、異例中の異例です。アメリカの野球界史上最大の選手が現れたことになります。

 

 大谷選手のすばらしさは、野球の技量だけではありません。彼が本来持っている品格です。スポーツ選手に時折みられるような闇の部分が彼にはないのです。すなわち、貧困、スキャンダル、薬物などなど、世間の人が眉を顰めるような如何わしい生活が見当たりません。見た目は少女漫画の二枚目役が務まりそうな好青年です。実際性格も素直で、嫌みがありません。こんな選手をどこの球団でも欲しがっていたのですが、実際、腕一本で稼ぐスポーツの世界はとかく闇の出身者が集まります。

 恐らく二年後の契約改定時期になると全球団からオファーが来るでしょう。大リーグ史上最高にして最大の契約金が提示されるかもしれません。今の彼なら十分可能です。

 

 然し、気を付けていただきたい。怪我と体調不良は常に付きまといます。無理をすれば必ず反動が来ます。長く大谷選手の活躍を見たいと願うファンとして、スター戦を終えたら、極力ピッチャーとしての出場は控えて、バッターに専念してもらいたいと願います。

 世間が大谷選手に求めている行為は、贔屓の引き倒しなのです。彼の才能を愛するなら、無理を強要しないことです。

 

 玉ひで公演

 17日の玉ひでがあと数席お席があります。ご興味ございましたら東京イリュージョンまでお知らせ下さい。私の手妻、早稲田康平さん、せとなさん、前田将太によるマジックがございます。