手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

玉ひで感想

玉ひで感想

 一昨日(19日)の玉ひで公演

 一昨日、玉ひででマジックと手妻の公演を致しました。お客様は18名で満席です。(当日お越しにならなかったお客様が2名。間際のキャンセルは返金されません)。会場に空しく2名分の丼が残りましたが、終演後、司会の穂積美幸さんと、手伝いの谷水さんが食べました。裏方にまで幸運が巡って来ました。お客様に感謝です。

 このところ、12時30分からのマジックショウが定着して、早めにお越しになって、12時30分までには食事を済ませてしまうお客様が殆どです。

 

 一本目は前田将太。「紙片の曲」。卵の袋。紙の切り継ぎ、紙片を扇の上に乗せ、飛ばしていると、卵になる。私の流派では最も演じる回数の多い作品です。前田は大分手慣れてきました。政府の補助金で作った、紫の綸子の着物で演じました。贅沢です。弟子の着る衣装ではありません。外見は大幹部です。私もこれからは前田師匠とお呼びしようと思います。今後はより強い個性と内面の充実を期待します。

 

 戸崎卓也さん。前回の「コーンとボール」をより発展させています。冒頭にコーンからボールを出して、ボールをショットグラスに変えました。そのショットグラスは、中のウィスキーと共に消滅。それからコーンとボールの手順を続け、真ん中とお終いに再度ショットグラスとウィスキーが出現。都合3つのショットグラスが出現。単調で、盛り上がりに欠けるコーンとボールの手順に3つのアクセントがつき、センスのいい手順が出来たと思います。これは将来、戸崎さんのメインアクトになりそうです。

 そのあとにメキシカンロープ。当人の工夫が生かされています。これを取りネタとするならば、もう少しテンポアップさせたいところです。

 

 せとなさん。20歳のマジシャン。グラスとボールの手順が個性的。これまでと違って、喋りから入りました。喋っているうちに、自分の手順に移行して行きます。恐らく、秋のご自身の自主公演のためにストーリーを作っているのでしょう。流れは面白いと思います。然し、舞台の喋りはもっと剪定しなければいけません。ただ普通に喋っても、内容に才能を感じさせなければ舞台の喋りにはなりません。今後の課題でしょう。

 

 ザッキーさん。キャラクターと言い、喋りと言い、ようやく形が出来てきたように思います。内容は前回同様、「三本ロープ」と「ライジングカード」。ライジングカードは前回は釣り竿を持って来て、カードを吊り上げると言う、至って思い付きレベルの演技でしたが、今回は、きっちり観客をその気にさせて盛り上がりを作っています。

 この人に高いハードルのスライハンドを求めるのは意味がないかも知れません。こうして観客と友達になって、一緒に遊ぶマジシャンになるほうが、世間では成功すると思います。私のような、気難しい親父ではなく、こんな無邪気なマジシャンキャラなら、テレビで売れるかも知れません。これはこれでアリです。そうなら今のうちに専属契約をして、将来マージンが抜けるようにしておかなければいけません。

 

 休憩後は私の手妻。「双つ引き出し」。「通いの銭」。「札焼き」。「三段返しとあられ」。「蝶」。

 「引き出し」はいつも通り。

 「通いの銭」は日本のクロースアップマジックです。傾斜台を使って、10枚の穴あき銭による、コインアクロスです。欧米の作品より、両手を何度も改めて見せられるところがいいアイディアです。そして「紐抜けの銭」。現象は指輪とロ-プによく似ていますが、ハンドリングが個性的です。クロースアップの好きな人でも予測を超える技があります。

 然し、クロースアップを舞台で見せるとその現象はとても地味です。私が銭の手順を演じないのも、地味だからです。今回は銭の演技の終わりに、銭が小判に変わるフィニッシュを付けました。小判を6枚取り出すと、やはり全体の雰囲気が急に華やかになります。もっともっと喋りにギャグが増えたなら、これはいい手順になると思います。

 この銭の手順のために随分長いこと構想を練り、稽古をしました。かけた時間は、手順となって戻ってきました。玉ひでがなかったら、こうしたことはやらなかったでしょう。自主公演はとても重要なのです。

 

 「札焼き」。江戸の寛政時代に演じられていた手妻の作品です。今このやり方で演じる人はいません。実際に見るとかなり不思議です。不思議さにおいては欧米の作品よりこちらが上かと思います。私は好きで頻繁に演じています。但し、直火を使うため、ホテルや、劇場などではできないところが増えました。いい作品なだけに演じる場所が限られるのが残念です。

 

 「三段返し」とは、「米と水」と「紙うどん」を合わせて演じたときの名称です。米と水も、紙うどんもアマチュアマジックの定番です。然し、古典の様式を生かして演じるとこれはこれで風格があってなかなかの名作です。

 今回はそれに「米とあられ(ポンライス)」を加えて見ました。大きな風呂敷の真ん中に米を一握り撒き、風呂敷の四隅をお客様に持ってもらい、小さな笊(ざる)で煽っているとあられに変わります。中国の古典奇術です。これを三段返しと一緒に演じると、手順につながりが出来、実に8分の堂々とした手順になります。いずれも食べ物を扱った演技ですので、皆さん面白がって見て下さいます。

 一連の作品は基本的な種仕掛けばかりですが、少々ハンドリングも仕掛けも変えて見ました。大筋は変わりませんが、こうした芸は見せ方によっては宴会芸に見えてしまいます。ここに有難みを生み出せるかどうかは、演者の語り口と品格によると思います。見せる姿勢が問われます。

 そのあとは「蝶」をいつも通り演じて、お開き。

 終わった後は、出演者一同で親子丼の食事会。今回は玉ひでの社長さんも参加して、話が盛り上がりました。260年も続くお店ですので、とんでもないご贔屓がいて、澁澤栄一さんなども頻繁に玉ひでを利用したようです。

 いろいろな話が聞けて、4時に解散。充実した一日でした。

続く