手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

時雨で玉ひで

時雨で玉ひで

 

 一昨日(17日)は玉ひでの公演でした。このところ人の集まりもよく。この日は満席でした。もっともっとたくさんお客様が集まるなら、一日二回開催にしたいと思います。更にもっと増えたならそれを二日開催にしたいと思います。そんな日が早く来たならいいなぁ、と思います。

 そのうち、玉ひでの玄関先よりも手妻のショウの行列がたくさん並んで、その行列目当てにダフ屋が出るくらいになったなら素晴らしいと思います。ダフ屋は出る、綿あめ屋は出る、たこ焼き屋は出る。門前市をなす勢いになったなら、私の芸は本物です。

 

 一昨日の若手は4本出演しました。前田将太、早稲田康平さん、せとなさん、戸崎拓也さんの4本です。全体のバランスを考えて、前田は私の演技の間に入れました。前半は早稲田、せとな、戸崎の3本でした。いつもは忙しくて、じっくり若手を見ることが出来ませんでしたが、この時は全員しっかり見ました。

 

 早稲田さんは、つかみでカードマニュピレーションを快調速で演じました。これがオープニングにとてもいい雰囲気を作りました。軽くファンカードを見せ、そのあとすぐに連続出しをしてさらりと見せています。

 そのあと喋りながらお客様に千円札を借りて、一万円にし、また元の千円に戻し、その千円にサインをしてもらい、たばこ状に丸めて火をつけます。そして手の中に入れて消してしまいます。そのあと紙袋からレモンを取り出し、レモンの中から印のある千円が出てきます。

 千円を使っての演技も手順になっていますし、全体が手馴れています。一度は一万円になった札を千円に戻したときの、お客様の失望感をもっと膨らませて面白く話をこしらえたなら一芸として完成するでしょう。喋りが充実すれば、より早稲田さんの手順としてお客様に認知されるでしょう。

 

 せとなさんは2年前に、彼が高校生の時に一度マジックマイスターに出演してもらっています。手順はほぼ同じものですが、前に見たときよりも落ち着きが出てきて、いい仕上がりになっています。

 グラスとウォンドを持ち、空中からシルクが出現して、ウォンドが何度も玉に変化します。その玉が出たり消えたり、グラスの中に入ったり、お終いは増えて8つ玉になります。よくまとまった手順です。総体に地味な演技ですが、これはこれでありでしょう。

 8つ玉の後は喋りながらのカード当て、現象も、喋りも、もう少し工夫の欲しいところです。まだ自分のスタイルと言うものが出来ていません。これから何度もこの舞台に出て、この手順をまとめていったらいいと思います。

 

 戸崎拓也さんはシルクの出現からシルクのカラーチェンジ、そこからロープシルクにつながり、メキシカンロープの手順を演じます。メキシカンロープ自体、今、演じる人が少なくなってしまって珍しいもになってしまいました。このマジックを持ってくるところが彼のマジック好きの証でしょう。

 メキシカンの、たくさんの輪になったロープから一本持って、ノットを作って、そのノットが外れて、小さな輪が出来ます。この辺りが彼の工夫です。いくつもの小さな輪が出来て、小さな輪がつながったりします。随分地味な手順ですが、これはこれで面白いと思います。

 この日は緊張していたのか、演技が走り気味で、何となくすかすかした演技に見えてしまいました。手順自体があっさりしたものなだけに、もう少し気持ちを入れて演じないと、お客様に演者の意思が伝わりません。持ち時間は決してつなぎの時間ではありません。自身の発表の場ですから、自分の主張を徹底的に籠めた演技を期待します。

 この日の三人の演技は、お客様には好評でした。脇で見ていても基本的な部分でもお客様から歓声が上がります。逆に考えれば、一般のお客様はほとんど生のマジックを見たことがないのです。マジックはまだまだ入場料を支払ってでも見に行く芸能として認知されていないのです。

 

 そのあと私が二つ引き出しと、紙片の曲。お椀と玉、若狭通いの水、の四作を演じました。そのあと、前田が三段返しと金輪の曲を演じました。三段返しと言うのは、米と水、そして紙うどんを一緒に演じたもので、米、水、うどんの三作で三段返しです。

 金輪の曲はいつも演じている。和のリンキングリング。三段返しと金輪を一緒に演じると15分あります。15分間お客様を飽きさせずに見せるのは簡単ではありません。前田には本舞台で15分を任せたのは初めてです。

 幸いお客様が真剣に見てくださいましたので、問題なくできましたが、私が聞いているとどうも喋りが固い。まだ自分が心を開いて喋っていません。もう少し話に遊びが出て来て、自分を素直に語るようになったなら、お客様はリラックスして、安心して長時間見ていられるようになるでしょう。

 今のところは教科書通りに演じることでまぁまぁ及第点です。

 

 そのあと再度私が出て、蝶のたはむれです。蝋燭明かりを使って、客席を一周して蝶を飛ばします。お客様にこの場の絵柄を焼き付けたいがために、直火の蝋燭を使って江戸時代のやり方で演じています。幸い好評です。

 

 さてこうして4月の公演も終わりました。終演後は出演者と楽屋で雑談をしました。極力若い人といろいろなことを話しておこうと思います。大して役に立つ話もできませんが、ここでの話はあとで役に立つこともあると思います。

 アメリカのこと、韓国のこと、FISMのこと、リサイタルの開き方、自主公演の仕方、などなど、4時に解散。車で帰宅をしました。

 この日は朝から小雨が降ったりやんだりしていました。だんだん暖かくはなくなってきましたが、ぱっと晴れないのがうっとおしくて冴えません。

 時雨そぼ降る中を外堀通りを走ると、並木も外堀も桜の花が散って、葉の茂った桜の木が並んでいます。そこに恵みの雨を受けて、緑が生き生きとした桜の姿を眺めていると、実に心地よく景色に見とれてしまいました。

 そしてふと、昔安いファンカードで「雨のパリ」と言うタイトルで、ぼんやりとした雨もよいのパリの大通り風景が描かれたカードがあったのを思い出しました。扇状にして広げると、全く予想しなかった色彩が出てきます。子供心に奇麗だと感心しました。今、窓の外から見る外堀通りはその絵柄とは違いますが、この風景も結構いいなぁ、ファンカードにしたら奇麗かなぁ、と、五十数年前の自分の思いがよみがえり、自分の心が十代の頃と何も変わっていないことに気付きました。

続く