手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

御贔屓様との接し方 3

御贔屓様との接し方 3

 

 今日(17日)は、昼から玉ひででの公演です。実は私が玉ひでさんの舞台で毎月公演するのは、ご贔屓さんとのご縁をつなぐためであり、同時に新しいご贔屓さんを作って行くことが目的なのです。

 現在のところ、40人入る客席に、20人を限定として公演しています。常識的に考えたならこれでは収入になりません。然し、問題ありません。別段収入を得るために公演しているわけではないのです。あえて毎月公演している理由は手妻をご覧になりたいお客様との縁を絶やさないためです。

 私は長く舞台活動を続けてきましたので、私には少なからず手妻を見たいと言うお客様がいます。また、たまにテレビなどに出演すると、必ず、「藤山さんはどこで公演しているのですか」。と言う問い合わせがあります。そうしたお客様の質問に、半年先や一年先のリサイタル公演のスケジュールの話をしても、人の興味はつながりません。

 「毎月人形町玉ひでさんで公演していますよ」。と言えば、お客様は行きやすいですし、日程も作りやすいでしょう。必ず、そこに行けば、私を見られると言う場所を持つことはご贔屓さんを作るためには大切なことなのです。

 また、出演依頼の電話が来る時に、いちいち電話で内容を話すよりも、「今月、玉ひでさんで公演がありますから、そちらでご覧になりませんか」。と、公演にご招待して、一度見ていただき、それから出演の打ち合わせをしたほうが、相手方も安心して出演依頼ができるわけです。

 あくまで玉ひではショウケースとして宣伝に利用しているわけです。ここの舞台で演じて収入を得ようと考えても、それは知れたものです。それよりも手妻を、市民会館や、ホテルのパーティーなどで買っていただいたなら、何十倍もの収入になるわけですから、結果として玉ひでの舞台は大きな効果を生むことにになります。

 

 合わせて、玉ひででは弟子の前田や、若いマジシャンの出演の場を設けています。前田は、まだ自分自身で出演の場を作るようなことはできません。然し、一人で稽古ばかりしていても上達はしません。お客様の反応を確かめつつ演技を作って行かなければ、プロの演技は完成しないのです。それは若いマジシャンも同様です。

 なぜ日本のマジック界のレベルがこうも低迷しているかと言うなら、日本でショウを演じる場所が少なくなってしまったからです。演じる場所がたくさんあれば、それに比例して上手いマジシャンも現れます。そうであるなら、私のように長くマジシャンとして生きてきたものは、若い人が出演できる舞台を積極的に作って行かなければいけません。少しでも舞台のチャンスを作って、熱意ある人には出演を呼び掛けています。

 玉ひでは靴を履いて演じることのできない座敷の舞台ですので、タキシードを着た人にはやりにくい場所です。然し、どんな場所でも、そこにお客様がいて、マジックを見たいと思ってくださるなら、その場は有り難い場所です。ここを勉強の場と考えて、自身の演技を作って行こうと考えているのなら、どんどん活用したらよいのです。

 幸い出演希望者は増えています。もっともっと増えて来たなら、日にちを変えて若手だけの一日を作ってもいいと考えています。そして、こうした場を、東京だけでなく、大阪でも、名古屋でも、福岡でも仙台でも、作って行こうと考えています。何とか年間20日くらいは、日本中を回ることで舞台のチャンスがあれば随分若いマジシャンには励みになると思います。それを数年のうちに作り上げたいと考えています。

 

 さて、こうした活動を私のお客様に見ていただき、弟子を育てる、若手の場を作る、ショウケースとして利用する、ご贔屓さんと語らいをする(これは今は、コロナでできない状況です)。と、私の活動全般を見ていただくことで、ご贔屓さんはより緊密にマジックを捉えて下り、一層のご支援がいただけるものと考えている次第です。

 魏贔屓産地うのは、砕いていうなら、外部の人に仲間になっていただくことなのです。そのためには実際にマジシャンが日頃どのような活動をしているのか、を包み隠さず見せることが大切で、すべてをひっくるめて、納得の上でご贔屓になっていただくことが大切だと考えています。

 

 また演じる若手同士も、何人も一緒になって舞台をすることが大切です。なかなかマジシャンが何本も一緒になる仕事場と言うのは少ないのです。仲間同士が演技が終わってお茶を飲みながら様々な話をすることは有意義です。私が若いころも、随分古い芸人さんやマジシャンから楽屋で色々な話を聞きました。それは今もいろいろに役に立っています。

 一人で部屋の中でマジックの稽古をしていては、結局同じことを繰り返すだけに終わってしまいます。新しい考え方。独自の発想などと言うものは人と交わっていない限り手に入らないのです。人との縁があるから普段知り得ない情報がたくさん手に入るのです。マジシャン同士の交流の薄くなった今日としては、なんとしても楽屋の語らいは復活させなければいけないと考えています。

 と、様々なことを考えつつ、玉ひでさんの舞台を続けています。来月からは、大樹が、単独で毎月、玉ひで公演をするそうです。いいことです。自分で公演をして、そこから手妻やマジックを発信していったらいいと思います。 

 同じ場所で活動すると言うことは、同じ演技ばかりできませんから、創作活動をしなければならなくなります。自然自然に作品も増えてきて、それが財産になって行きます。お客様を作り、仕事を作り、作品を作り、いいことづくめなわけです。そうならマジシャンはみんな自主公演をすべきなのです。そこを躊躇していては先がなくなってしまいます。少しでも意欲のあるマジシャンが出てくることを望んでいます。

 と言うわけで、これから玉ひでに向かいます。

続く

 

 明日はブログをお休みします。