手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

コロナと共にどう生きる 2

コロナと共にどう生きる 2

 

 具体的に、コロナ禍の中でマジシャンはどう生きていったらいいのか。と尋ねられたら、答えは一つなのです。人前に出てマジックを見せることです。出演できる場所があればラッキーですし、場所がなければ作る努力をすべきです。どんな場所でも構いませんから、情報を流して、マジックを見せていることを宣伝すべきです。

 youtubeなどで、映像を流したり、マジック指導をすることも結構ですが、演技を見せることで収入を得る立場としては、意味なく映像を流してしまうことは効果としてはマイナスです。映像は、生の芸能を見た時の喜びからすると、70%くらいの効果が下がります。マジックは実際目の前で行うから効果があるのであって。映像で見たならすべては他人事です。

 自分の演技をダイジェスト版にして、少しずつ映像にして見せるならいいのですが、すべてを出してしまうのは決して良い結果にはなりません。無断でコピーして演技を真似る人が出てきますし、道具を映像から寸法を割り出して、作ってしまう人が出ます。

 プロ(自称プロ)や、アマチュアさんの中で、平然と小道具や、手順を模倣して、平然と同じ演技をする人がたくさんいます。私の指導ビデオから、音楽だけをダビングして、私の手順を真似て、私の考えた小道具をコピーして演じるアマチュアさんがいます。

(なぜ私のビデオから音楽をダビングしたとわかったかと言うなら、私の演技にはところどころお客様からの拍手が入っているのです。その拍手の音が、アマチュアさんの演技と拍手のタイミングがずれるのです)。

 彼らは私の目の前で模倣を演じても、恥じることがありません。了解のないままコピーし、平然として使っています。

 つまり、映像を流しっぱなしにすれば、人は当然のようにコピーをします。物を盗む人に感謝の気持ちはありません。映像を無料で流すことは、盗人を育てることに他ならないのです。

 

 私も30年くらい前に演じたマジックをyoutubeに出されています。それはテレビに出演した際のものであるとか、レクチュアービデオで演じた時のものを抜き出して画像が流れています。それらはまったく無断、無許可で流されているのです。そうして流された映像が、例えば、私がこの先出演する仕事に結び付くかと言えば全く結びつきません。およそメリットなどないのです。

 今、仕事がないからと言って、自分の演技を録画して流したとして、そこから仕事が発生するかと言えば全くと言っていいほど発生しないでしょう。

 舞台の仕事が発生するのは、今演じた演技に感動したお客様が口コミで噂をして、次のショウに仲間を連れてきてくれたり、別のパーティーを紹介してくれた時に新たな仕事が発生するのです。大切なことは生の演技を見せることなので、そのインパクトが大きければ大きいほど、ショーケース(宣伝)につながり、次の仕事のチャンスになるのです。

 私は弟子などによく言うのですが、舞台に立った後、「いやぁ、今日はお客様が喜んでくださって、ものすごく受けた」。などと言って満足しているのは素人なのです。よく受けたかどうかは、自己評価にすぎません。マジシャンが、「みんなが喜んでくれた」。と思っていても、本当に喜んだのは客席の三分の一くらいの人たちで。残りの人たちはただ付き合って見ていただけかもしれないのです。

 本当に受けると言うのは、演技が終わったあとに、お客様が楽屋に寄ってきて、「来月の○○日は開いていますか。その日に私の会社のパーティーがあるんですが、そこに出演してくれますか」。といきなり仕事の話になるはずです。そんなお客様が一回のショウで二人も三人も集まってきて、それで初めてショウが受けたと言えるのです。それがプロの仕事なのです。

 お愛想程度に面白かったなどと誉め言葉を言ってくれたお客様がいたからと言って、そんなものでこの先マジシャンとして生きて行けるものではないのです。一本の仕事で次の仕事がつかめるから、プロは生きて行けるのです。

 

 話を戻して、どんな時でも舞台に立たなければいけません。舞台に立てないからと言ってほかのことをしていては、それは自分に嘘をついていることと同じなのです。私のように、子供のころから50年以上舞台に立ってきたものにとっては、舞台は人生そのものです。ここで舞台に立つことを諦めたなら、それは人生が終わったことになります。

 例え5人でも10人でも、そこにお客様がいるのなら、舞台に立ち続けなければなりません。昨晩、歌舞伎を見て来た人の話を聞いていたら、2000人以上入る歌舞伎座でお客様が50人とか、百人しかいなかったと言っていました。50人百人では松竹もさぞや苦しい経営をしていることでしょう。

 然し、それでもお客様が来てくれるなら感謝です。先週、ねづっちと話をしているときも、浅草東洋館のお客様の数を聞くと毎日20人30人だそうです。これで20本30本の漫才が出ていたなら、彼らはまったく収入にならならないでしょう。然し、それでも彼らは休まず興行を続けています。

 私も月に一回人形町玉ひでで公演をしています。昨年6月から始めて、間もなく一年になります。今ではさほどの宣伝をしなくても、毎月毎月お客様が来てくれるようになりました。有難いことと思っています。

 来月からは大樹が同じように月に一回玉ひでで公演をするそうです。いい話です。玉ひでで10人のマジシャンが日替わりで自主公演をすれば、月のうち10日は都内でマジックショウが見られることになります。

 何も玉ひでのこだわる必要はありません。それぞれ縁のある場所で公演を続ければ、あちこちでマジックショウが開催されます。見せる場所がない、お客様がいないと泣いてばかりいないで、先ず自らが舞台に立つ姿勢を見せなければ誰も助けてはくれないのです。

 一か所が成功したら、もう一か所、もう一か所と開催場所を増やしてゆくうちに、いつかマジシャンは、舞台に立つことで安泰に生きて行けるのです。それがプロの仕事なのです。

 泣いてばかりいないで、自分を理解してくれる人を一人でも探すことです。苦しいことはすべての人が苦しいのです。でもそこから抜け出せる人は、自分を信じて活動を続けている人だけです。

続く

 

 4月の玉ひでは17日です。ご興味ありましたら、東京イリュージョンまで。若手の新人も出演します。