手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ジャパンカップ2021

ジャパンカップ2021

 

 「独自の世界を作る」は、話半分ですが、今日だけジャパンカップについてお話しします。

 3日前の3月23日、夜6時30分から、帝国ホテルの牡丹の間にて第20回、ジャパンカップが開催されました。まず、20回開催されたことが素晴らしいことと思います。マジックの世界で。なかなか20年一つことが続くのは珍しいことです。途中主催組織がJCMAからNMF(日本マジックファンデーション)に変わったとはいえ、責任者の田代茂氏はずっと変わらずにこの催しを続けています。先ず、このことを讃えなければいけません。

 その晩の参加者は40名くらいでしょうか。コロナ禍と言うこともあり、盛大な催しはできないものの、マジックショウ、表彰、ディナー、の形式はしっかり守られました。

 

 ショウは、1本目がPiaceさん。イリュージョンです。ヒンズーバスケットと、ジグザグボックスを演じました。アシスタントは田中千尋さん。

 2本目はバーディーさん。私らの年代でバーディーさんと言えば、バーディー小山さんのことになりますが、時代は変わったようです。神戸でマジックバーをなさっていて、超能力のような演技をされます。この晩は、はじめに、数字のあて物、そしてスプーン曲げをされました。

 不思議なのは、座っているお客様に画用紙を渡し、そこに二桁の数字を書いてくれと言います。書いている間バーディーさんはずっと後ろを向いたままです。画用紙は伏せられ、それをバーディーさんは、お客様の表情などから想像して数字を当てます。

 この数字当ても、そのあとのスプーン曲げも、お店で随分やりこなしているらしく、喋りも達者ですし、第一見ていて見飽きがしません。話には独特のリズム感があってエンターティナーとして仕上がっています。この晩、バーディーさんがを見られたことは収穫でした。

 

 表彰は、ルーキーオブザイヤーにPiaceさん。プレゼンターは、k-sukeさんでした。

 NMFフェローシップ賞は、赤星賢志さん。プレゼンターは倉持健一さん。

 著述放送文化賞には、大阪奇術愛好会が選ばれました。長年、The Svenngali と言う冊子を出してきたことへの評価だそうです。

 功労賞にはケン正木さん。プレゼンターはなぞがけのねづっちさん。

 思えばケンさんは随分昔からマジック界で活躍していましたが、あまり表立って賞をもらう機会は少なかったように思います。今は日本奇術協会の会長です。功労賞は当然の受賞でしょう。この晩ケンさんはとても嬉しそうでした。

いいことです。ねづっちさんも、そのあとアルコールをしこたま飲んでいました。

「こんなことで、帝国ホテルの飯が食えて、酒が飲めるなら毎年呼んでください」。と、スケジュールに来年の予約を入れていました。

 ベストクロースアップマジシャンは、 ヤマギシルイ(山岸塁)さん。長く金沢でマジックバーをされていて、昨年独立して、自分の店を持った途端のコロナ騒動です。経営も難しいと思いますが、よくジャパンカップはこうした地方のマジシャンにまで目を向けて、賞を出したと思います。これでヤマギシさんは随分励みになったことと思います。価値ある受賞でした。

 マジシャンオブザイヤー賞はメイガスさん。プレゼンターは私。

 初めに、私はコロナ禍のマジシャンの話を語ることに時間を割き過ぎて、恥ずかしながら、メイガスさんのことを語る時間がわずかでした。申し訳なく思っています。然し、メイガスさんはこの数年、紅白歌合戦に出たり、デアゴスティーニからマジックの指導グッズを出すなど、輝かしい活動をしています。

 特に、イリュージョンと言うジャンルは、この数年、きわめて活動が難しくなってきています。そうした中、孤軍奮闘している姿は立派ですし、また、メイガスさんはこの数年とてもいい顔になってきています。

 どうしたものかマジック界はインチキ臭い顔をしたマジシャンが多い中、メイガスさんは、人の頭(かしら)となって活動してゆけるような安定した顔をしています。普通の社会ならば、そうした顔をした人がトップになって活躍してゆくはずなのです。歌手でも、俳優でも、お笑いタレントでも、相撲取りでも、野球選手でも、トップはみんな安定したいい顔をしています。

 それに比べて、どうもマジシャンの多くは不安定な顔をした人が多いように思います。それがようやく安定した顔のマジシャンが現れたことは素晴らしいと思います。メイガスさんの頭が白髪になって、初代のハリーブラックストーンのような顔になって、人体浮揚などをしたら素晴らしいと思います。この受賞は当然の帰結だと思います。

 

 それから、仲間と雑談をして、9時にパーティーはお開き。参加者には、NHKのアナウンサーの古谷敏郎さんや、同じくNHKのプロデューサーの城光一さんなどが見えていて、とてもアカデミックな雰囲気が作られていました。こんな場所にほんの数時間でも浸っていられると、心が洗われる思いがします。

 私などは、前々日まで慈恵医大に入院していたわけですから。用事もなく、三食お粥を食べていた身としては、この晴れがましい場所に出られただけでも嬉しくて仕方ありません。

 田代さんは私が、退院明けで食事もできないのではないかと心配されて、一里飴を記念品に入れてくれました。お気遣いはうれしく感じましたが、食事はできます。但し辛いものとアルコールが食べられません。帝国ホテルの名物、麻婆豆腐はやはり辛みが強く食べられませんでした。

 帰りはねづっちを私の車に乗せて一緒に帰りました。(ともに高円寺に住んでいますから)。帰り道、一杯呑みたいところですが、それもできません。何のこともなく世間話をしただけですが、それが幸せなひと時でした。

ジャパンカップ2021終わり