手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

鳥皮のたれ焼き

鳥皮のたれ焼き

 

 昨日(18日)に女房と娘のすみれが訪ねて来たようです。訪ねてきてもコロナの感染があるため、面会謝絶です。無論このことは事前に伝えてあったのですが、とりあえず来てみたようです。

 私のほうは、昨日からひたすら読書をしています。「志道軒」の変人ぶりは大笑いです。こうまで気持ちのままに生きられたらどんなに面白いでしょう。少なくとも自分を捨て、世の中を捨て去らなければこの境地に至らないでしょう。すべてを捨て去って到達した人生です。敬服します。

 「日米戦争を起こしたのはだれか」。の話も面白く、読みだすと止まりません。フーバーはルーズベルトの人種差別主義が問題の根本にあると断罪しています。戦争末期に日本は降伏を伝えてきていたにもかかわらず、アメリカはそれを認めようとはしませんでした。結果として原子爆弾の実験台に日本を利用しました。これによってアメリカの正義が吹っ飛んでしまいました。戦争とは軍人同士がするものであり、一般市民を10万人も殺戮して許される法はありません。いかなる理由があろうとも、アメリカが犯したことは間違いであるとフーバーは熱弁をしています。このことはフーバーが語ることではなく、日本の政治家が語るべきことです。

 

 今日は昼食が出ました。3日目にして初めての昼食です。カップ一杯のおかゆと、すましの豆腐の入った汁。ジョア、とゼリーです。

 食べても腹の膨れない、どうでもいいような食事でした。3分とかからずに食べてしまいました。唯一塩味のきいたお澄ましがうまいと思いました。塩気をいただくのは久しぶりです。何でもないものが妙にうまいと思います。

 昨晩から、食べ物のことがいろいろ頭に浮かんできます。あれも食べたい、これも食べたい。そう思うのですが、不思議にいい食事が思い浮かびません。

日頃何でもなく食べていたものが思い出されます。コロッケ、鳥皮の焼き鳥、塩鮭を乗せたお茶漬け、焼きたらこの入ったおにぎり、南部煎餅皿うどん、ウインナー焼きにマヨネーズをかけたもの、

 どれも安い食べ物ばかりです。それが一つ一つ私の心を誘惑します。

 コロッケの衣が口の裏側にざらざら当たるのを我慢しつつ、熱々のコロッケをほおばると、淡い甘みのあるポテトが舌の上でさっと崩れて、衣の油と甘いソースと合わさって口の中でコクが出ます。それを呑み込んだ時にはこれほどの幸せがあるかと思うほどのうまさを感じます。これがわずか100円もしない価格で食べられることはまさに神の恵みです。神は貧しき者を見捨ててはいません。すべての人に幸せを分け与えてくれます。話は妙に宗教がかってきましたが、今の私はその恵みに早くあやかりたいと願うばかりです。

 鳥皮をたれで焼いて、皮の端を少し余計に焦げるくらいに焼くと皮の縁が固くなり、鳥皮が香ばしく歯ごたえもよくなります。皮の裏側に残ったゼラチンの脂身が甘いたれと合わさって。皮の歯ごたえ、香りとマッチして絶妙なうまさです。あぁ、鳥皮ハイボールをやりたい。

 塩鮭を乗せたお茶漬けもいいですね。鮭に付いている塩にまで鮭の脂身が染みていて、塩にうまみがあります。それを飯に乗せて。お茶をかけると、塩が溶けて、出汁の上に脂身が浮いてきます。この脂身が絶品のうまさです。鮭の香りを吸い込んでいます。飯と塩気のきいた出汁を掻き込み、ときどき鮭をほぐして口に入れると、また強い塩気で一層飯が進みます。これほどの幸せがあるでしょうか。

 焼きたらこのおにぎりも捨てがたいです。あの塩辛いたらこはまさに麻薬です。飯に隠されたたらこを見つけて、ほんの少しずつ歯で小分けしながら塩味を楽しみます。たらこを噛んだ時の味わい深さと塩気が口中に広がり、飯との相性が抜群です。そこに飯の外に巻かれた海苔とが合わさると、どんな食事よりもうまさが光ります。

 あぁ、あぁ、こうしていろいろ思い出していると、何でもなく日々食事をしていたことが本当に幸せだったんだなぁ、と思います。私は、二、三日すれば普通の生活に戻れますので、恵まれていると思いますが、病気などで普通の食事のできない人はお気の毒だと思います。

 

 ところで連日病人のたわごとを読んでくれる人が300人くらいいらっしゃいます。読んだからと言って物に役に立つわけでもなく、どうと言うものではありません。それでも読んでくださるなら少しはいいことを書こうと思っていますが、気負いはすれどもあまり大したことは書けません。

 

 明日(21日)退院します。そして23日(火曜日)ジャパンカップの表彰式に出ます。毎年帝国ホテルで開催しています。田代さんの出費を思うと大変なご苦労と思います。私は一回目からご協力をさせていただいていますが、マジックの催しで20年以上続くと言うのは珍しいことです。願わくば氏の跡を継ぐ人が現れることを願っています。

続く