手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ひたすら読書

ひたすら読書

 

 一昨日(17日)は手術で、麻酔が効いて一日ボヤっとしていましたが、昨日は、取り去ったポリープの跡から下血しないかどうか、様子見をするだけで何も用事がありません。それに丸一日食事ができません。一昨日よく寝すぎたために、昨日は少しも眠くありません。そうなるとすることがなく、これ幸いと本を読むことにしました。

 まず、明け方から、「狂講 深井志道軒(ふかいしどうけん)」を読み始めました。これはなかなかの大著です。以前からこの本が読みたかったのですが、本が分厚く、しかも内容が濃いためになかなか読みこなすことができませんでした。一介の江戸時代の講釈師の話なのですが、読み進んでゆくうちに大変な才能の持ち主であることがわかります。

 志道軒を支持し、神のごとく崇める文化人が山ほどいたのです。太田南畝、平賀源内、二代目市川團十郎、みんな志道軒のとりこになってしまいます。

 その志道軒は、浅草の浅草寺の境内で葦簀(よしず)を張って道行く人に講釈を語って聞かせていたのです。言ってみれば大道芸人です。ところがその語りが面白く、手には擂粉木(すりこぎ)のような形をした男根を持ち、話の途中で、それをトントンとたたきながら調子をとり、時にいとおしく弄り回し、猥談がふんだんに入ります。

 講釈ですから三河武士の出世物語などを演じるのですが、それが度々羽目を外し、猥談になり、時には世相の批判を取り入れ、観客は大笑いをします。

 言ってみればどうしようもない漫談なのですが、どうしてどうして、語り口には品があり、知性を感じさせ、武士階級の人にも愛されたのです。40歳までは寺の坊さんをしていたようですが、女性といい関係になり、寺を追い出されます。それからは見様見真似で覚えた講釈を語ることで生計を立てて行き、86歳で亡くなるまで語り続けます。

 食うや食わずの大道芸人かと思うととんでもなく、金持ちの座敷に招かれたり、大名屋敷で講釈を語ったり、江戸で三本の指に数えられるほどの名人なのです。

 晩年に至るまで大人気で江戸の名物だったそうです。私は名前だけは知っていましたが、読めば読むほど面白く、今日も早く続きが読みたいと気がせいています。まだ三分の一ほどしか読んでいませんが、読み終えたら感想をお伝えします。

 

 「日米戦争を起こしたのは誰か」アメリカの大統領であった、フーバー氏の回顧録です。氏は1964年に亡くなりますが、その一年前にこれを書き上げ、出版社に原稿を送ったのですが、なぜか刊行されることはなかったのです。

 それがなぜかは文章を読めば明らかで、全編がルーズベルトの政策批判です。第二次世界大戦アメリカの輝かしき成果ですが、フーバーに言わせれば大失策だというのです。ナチスポーランド侵攻も、するに任せておけば、やがてドイツはソ連と対峙することになり、ドイツとソ連の戦いになります。

 ドイツとソ連が戦いをするなら、共産国と、全体主義の国が消耗戦をするだけのことで、イギリスもフランスも、アメリカも何ら被害を受けることはなかったのです。人の戦いに首を突っ込んだイギリスこそ大失策で、それをまたアメリカが支援するのは愚の骨頂です。そんな理由はなかったのです。

 それは日本も同様で、日本はアメリカと戦う意思はなかったのです。それがABCDラインを敷いて経済封鎖をし、ハルノートを出して、承諾不可能な条件を持ち出せばいかに日本でも戦争をする以外なくなるのです。なぜそんなことをしたのかと言うなら、ルーズベルト第二次世界大戦に参戦したかったからなのです。しかし結果は日米ともに大きな損失を生みました。

 フーバーはまったく太平洋戦争は意味のない戦いだったと言っています。これも分厚い本ですのでまだ四分の一ほどしか読めていませんが、この先が楽しみです。

 

 「逆説の日本史」西郷隆盛 薩英戦争、井沢元彦著、著者は独特な歴史観で日本の歴史を読み解いてゆきます。時として朝日新聞の批判が、本の半分近くを占めていたりして、きわめて過激です。恐らく書き出すと止まらない性格なのでしょう。これで著者はよく人生を失敗しないものだと思いますが、私も含め、熱い支持者がいるのでしょう。

 今回はこの薩英戦争から、その先4巻を買い求め、片端から読んでいます。この本は単行本で、文字が細かく、読むのに一苦労です。でも面白いのです。幕末期の日本が、混迷する中でいかに今の時代に至ったか、何から何までうまく行ったわけではなく、多くの失敗をしつつ世の中は進んでゆきます。その過程を精査してゆく姿が素晴らしいと思います。

 

 近代日本奇術文化史

 以前から読んでいる明治大正期の奇術の歴史書です。分厚いことに関してはこれが一番です。それゆえに簡単には読めません。少しずつ読んでいます。

 

 と言うわけで入院を生かして読書三昧です。こんな日があってもいいのでしょう。とても幸せな日々です。

続く