手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

入院します

入院します

 

 入院と言ってもたいしたことではありません。内視鏡で大腸のポリープを取るだけです。前にも一度取っていますので、内視鏡は慣れました。

 それよりも驚いたのは、コロナ検査です。昨日入院を前にコロナ検査をするために慈恵医大病院へ行きました。そこで、鼻の奥の粘膜を取って、奥にコロナ菌が付着していないかどうか確かめるのですが、細長い綿棒を、いきなり鼻からまっすぐ脳に向かって突っ込むのです。

 古代からあるマジックで、鼻に五寸釘(約15センチ)を打ち込むという芸があります。鼻の穴は下を向いていますが、五寸釘は正面からまっすぐに脳の奥に向かって打ち込みます。常識的に見てそんなことはできないはずなのですが、実際は鼻の穴は奥に行くとまっすぐ後ろに伸びています。そこに向かって五寸くらいのものなら楽に入るのです。

 その知識は私は知っていましたが、実際に五寸釘を打ち込んだことはありません。理屈では五寸釘が入ることはわかっていましたが、実際綿棒を入れられると、いまだ経験したことのない鼻の奥が刺激されましたので、びっくりして、顔を除けてしまいました。

 女性の看護師さんが、「これを入れないとコロナ菌が調べられませんから」。と言って、再度入れるのですが、ある地点に来ると、あまりに刺激が強すぎて、また顔を除けてしまいました。結局長い綿棒が6センチくらいしか入りません。3度目は覚悟をして、奥まで入れましたが、気持ちの悪さを言えば極限状態です。これは何度やってもなれません。

 然し、考えようによっては面白いと思いました。これを芸と考え、覚えたなら、手妻の演技が一つ増えることになります。まさか私が五寸釘を鼻に入れるとは誰も思わないでしょうから、面白いと思います。

 以前に胃に内視鏡を入れたときでも、手慣れてするする呑み込めるなら、30センチの鉄棒だって飲めますし、慣れて来たなら少し刃を落としたナイフだって飲めるでしょう。呑みながら軽いギャグなど言えば、スリルありと笑いありの楽しいショウになるはずです。

 私は昔から針のみを得意にしていました。針を10数本呑み込んで、糸を呑み込んで、つなげて出すというマジックです。お客様の見ている目の前で呑んで行きますので、クロースアップの場などでは臨場感があってとても受けます。受けますが、これを演じてしまうと、前にやった手妻がすべてお客様の印象から消えてしまいます。それほどインパクトのある演技なのです。しかもこの一芸のみ他の手妻と毛色が違います。ここだけ異質に見えるのです。

 

 然し、ここで五寸釘を鼻に刺す芸と、一尺の鉄棒を呑み込む芸を覚えたなら、それだけで一つの手順が出来てしまいます。これはすごいことです。針呑みだけでも喋りながら演じると5分から6分かかります。そこへうだうだとくだらない話をしながら、五寸釘を打ち込む芸を見せ、更に鉄の棒を呑み込む芸をしたなら、20分のフルショウが完成します。

 これでもまだ物足りないと言うのであれば、3本剣です。3本刀を抜き身で立てて、その上に術者が寝るというマジックです。奈良時代からすでに日本にあったイリュージョンです。あれを当時のやり方を調べて再現すれば、立派な古典の危険術になります。

 私の年齢で、全く未知なるマジックに遭遇して、しかも自らが実演することのなるというのは稀有なことです。これは一つ試してみるチャンスでしょう。

 針呑みと言うクロースアップのマジックから、釘刺し、棒呑み、三本剣のイリュージョンまで。ものすごい幅広いレパートリーを見せることになります。

 

 ただし、危険術は見せ方如何で場末感が漂います。金に詰まった集団が、窮余の策で演じているように見せたのでは救いがありません。知的に演じる危険術と言うものはないでしょうか。知的にくぎを刺して見せて、おしゃれに見えるという芸を開発したなら、間違いなく次の時代のトレンドを作り上げることになるでしょう。

 「藤山さん、そんなことあり得ませんよ」。と人は言うでしょう。でも世の中はわかりません。絶対にありえないところに次の大きな流れがあるのです。

 もし数年後に町を歩くおしゃれな女性が鼻に五寸釘を刺して歩いていたら、「あぁ、藤山さんはあの時将来の流行を見ていたんだ」。と気付くでしょう。

そうです。おかしなこと、変なことは必ず次に時代の主流になるのです。私は今からそれをやっておこうと思います。

 

 と言うわけで、毎日ブログは書きます。密室の世界に暮らすことになりますので、時間はたくさんありますから。但し面会謝絶ですので、病院にお越しになっても会えません。予定では日曜の午後に退院します。

続く