手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

KSMC

KSMC

 本当は今日は、「流れをつかむ」と題して、なぜ私がマジックの方向をイリュージョンから、手妻に切り替えたのか、その理由を細かく書こうと考えていたのですが、それは明日にします。

 実は昨晩、KSMC(関東ステージマジックサークル)の発表会があり、そのショウがとても素晴らしかったのでその感想を書きます。

 KSMCはこれまでも何度か拝見しています。マジックの好きなマジッククラブのOBが、スポンサーなしで自力でマジックショウを開催しています。まずその気持ちが素晴らしいと思います。

 かねがね私は、大学のマジックサークルに所属する人たちが大学を卒業すると、マジックをする機会がなくなることを残念に思っていました。何とか、その後の人生でマジックが生かされたなら、ご当人のためにもなるでしょうし、マジック界にも優れた人材が残り、有益ではないか。と考えていました。

 そこで私は、マジック愛好家を側面支援すべく、マジックセッションと言う企画を立てて、技量のある学生さんや、OBに声をかけて、ご出演願おうと毎年東京と大阪でステージショウを開催しています。

 そのステージに招くゲストを選定したいのですが、このところ、大学のマジックサークルの発表会が軒並み不開催ですので、マジックショウを見る機会がありません。それどころかこの先を思うと、マジッククラブが存続できるかどうかもわかりません。

 何とか催しがあるなら、拝見したいと思っていたので、今回の公演は期待しました。場所は、赤羽会館。17時40分開始。以下その感想。

 

 コロナの影響で、学生のいつもの熱狂的な声援は禁止です。おとなしい開催になりました。席も一つ置きになっています。

 

 1本目の「ちゃぶる」さんは、今年の会長さんのようです。シンブルをカラーチェンジまで持って行き、両手のカラーチェンジの色変わりを不思議に演じました。途中、蝶ネクタイや、ネクタイが何度も出たり消えたりして、アクセントを付けました。私は、学生の演じるシンブルや、ウォンドはマニアックな攻め口が好きではないのですが、この手順はまとまりが良く、一般客が見ても楽しめる内容になっていたと思います。ちゃぶるさんの登場で、この晩のショウに期待が持てました。

 

 2本目の「石油王」さんは、着物に羽織を着て、その襟は明治時代の学生のようにシャツが見えていて、明治調の服装が期待を膨らませました。少なくとも、こうした格好で手妻をするプロマジシャンはいません。動物の進化の過程で、時々変種が出るように、異端な新種を見る思いで拝見。

 内容は、手妻ではなく、風車(かざぐるま)をテーマに、それが紙に変化し、カードになり、カードプロダクションに移行します。全く手妻の要素がないのが残念です。もう少し、和服に必然性が欲しいところです。和服姿が粋に見えたなら、随分多くの人を引き寄せられる内容になると思います。

 

 3本目は「こばちお」さんのリング。互いにマジックを知っている人にリングを見せるのはリングの種が一つであるがゆえにとても難しいと思いますが、何もない状況からリングが1本ずつ増えて行き、最終的にトリプルプラスキーの4本のひし形を、更にもうワンセットの4本を出現させ、それを重ねて8本にするのは独創的でした。学生の世界でなければ見られないアイディアです。

 顔が大変二枚目でしたが、リングをするのにここまで二枚目である必要はないと思います。無駄に二枚目でした。

 

 4本目は中園鈴奈さんと山岡はるかさんのレズビアンショウ。久々レズビアンのショウを見ました。浅草のロック座などで昔出ていたのを見ています。しかも赤羽会館で、いいですねぇ。その外れた道こそ芸術です。

 内容が奇抜なのに、花が出る手順が大人しすぎて、どんなマジックをしたのか思い出せません。素材にロープや蝋燭などを使えばよりイメージにマッチしたのではないかと思います。そうなればまた別の熱烈な観客を集めることも可能です。

 

 5本目は「小松真也」さん、前に私の会に出てもらっています。ウォンド、四ツ玉、ボールは8つになってカラーチェンジまで。手順もよくできていますし、マジックが好きであることが伝わってくる手順です。

 

 6本目は「鬼頭登」さんの仮面。私の会にゲストで出てもらっていますし、私の主催する猿ヶ京の合宿にも来ています。ただ、この内容は何度見てもよくわかりません。奇妙な内容です。これもやはり学生の世界でしか見ることのできないマジックです。これはこれでありでしょう。

 

 ここで休憩。間間に司会者が出てきますが、セリフを言うことで精いっぱいで、がちがちに上がっています。こういう人が出てくるところがまた学生っぽくっていいのでしょう。冴えない司会が逆に演者を引き立てています。

 

 7本目は「諭吉」さん。以前にどこかで見ています。世の中を肯定して見ていて、常にハッピーな芸です。CDアクトですが、ネタ物をふんだんに入れたり、踊りを取り入れたり、コントのような芝居があったり、いいとか悪いとかではなくて、この人がやれば何でも許されます。この晩の出演者の中で唯一、プロの芸人になったら何とか生きて行けるかもしれないと思わせる人でした。但し保障はできません。でも見た人を幸せにするマジシャンです。

 

 8本目、「松野正和」さん、諭吉さんとは対照に、コツコツと地味なマジックをまとめ上げています。シガレット、シンブル、ウォンド、どれもうまく演じています。こうしたまじめな人が日本を支えているのです。でも照明が暗くて、顔がよくわかりませんでした。もっと彼を日の当たる場所に出してあげたいと思いました。

 

 9本目、「おぶち」さん。中国服を着て、岡持ちを持って出てきて、箱積の曲芸。まず中国服を着ている中華屋さんを見ることがありません。昭和の時代ですらいませんでした。恰好も発想も異次元の世界です。奇抜な出であったにもかかわらず曲芸は下手でした。その下手の度合いがMaxでした。でも、彼の性格がいいのでしょう。皆さん彼を愛情をもって見ています。得な人です。

 

 10本目、「若林克弥」さん。この人はよく知っています。以前落語を話しながらマジックをしていました。落語も手品も大したことはありませんでした。この晩はマスクと光る羽根を演じていました。落語手品よりも、数段工夫されたマジックです。何よりまとまった手順でした。顔もメークをしたのか、いい男に見えました。マジックへの愛情はひしひしと伝わります。今後のご精進に期待します。

 

 11本目、「茶嶋良介」さん。芸人のような名前です。一度聴いたら忘れられません。種目はCD。余計なことをせずに、白と赤のCDアクトが続きます。私はこうしたシンプルな手順が好きです。やがて青や、黄色のCDに変わって行き、カラーCDを両手に出して終わり。うまいと思いました。周囲の人に、「うまいねぇ」、とほめると、「今の学生の世界ではCDは相当に研究されていますので、これくらいの人は何人かいますよ」。と言われてしまいました。

 然し、手順がすっきりしていますし、よくまとまっています。こうした人はきっとこの先伸びるでしょう。何とか、引っ張り上げたい人だと思いました。

 

 12本目は「ダンク」さん。ウォンドの手順。ウォンドこそ、一般客には何をしているのか伝わらない演技です。事前にウォンドが何であるのか、どこかで伝えておく必要があります。

 然し、演技は細かな工夫がなされていて、うまく盛り上がった手順になっていました。芝居は素人っぽかったのですが、これが学生の良さかも知れません。スゥイングジャズでクラシックなタキシードで、世界もまとまっていました。とてもいい出来です。

 

 13本目は「綾鷹」さんのカード。カードも学生の世界でどんどん進化して、もはや形がカードなだけで、ゲームすらできない素材に変化しています。然しそのシンプルさと、独特な演技が凝縮されて、独自の世界ができています。

 ただし、綾鷹さんのオリジナルなのか、学生の世界の集積なのか、部外者の私には判然としません。面白い世界ですし、とてもよくできたアクトです。プロでない人がここまでの手順をこしらえあげて、独自の不思議を見せるというのはものすごいことです。これはどこかで評価しなければいけません。

 

 と言うわけで、昨晩はとても良いショウを見ました。たまに人のショウを見ることはすごい刺激になります。赤羽も数年ぶりに行きました。帰りに何か食べて帰りたいと考えていたのですが、店が閉店間際で、仕方なく何も食べずに帰りました。いやな時代です。せめて10時までは飲食店が営業できるように工夫すべきです。空腹でしたが心の満たされた晩でした。

続く