手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

大掃除

大掃除

マーシャル緒方へ行く

 昨日(28日)は、踊りの稽古の後、床屋さん(マーシャル緒方)に行きました。中目黒にあります。もう40年同じところに通っています。このところ、コロナウイルスの影響で、外出しない人が多く、そのため、3か月も床屋さんに行かない人もあるそうです。当然床屋さんの売り上げも大幅ダウンだそうです。コロナはいろいろなところに影響があるようです。

 町を歩いていても、いつもの年末の慌ただしさがありません。正月飾りも最小限にされているように見えます。江戸時代末期にはやった、コレラの時も、江戸っ子はこんな風に、さびれた年末を経験していたのでしょうか。芸能に生きる我々は、多少なりとも人に希望を与えるような何かをしなければいけないと思います。

 芸能芸術の世界では、一人、「鬼滅の刃」が興行成績を歴代一位にして、気を吐いています。私の見た感想は以前にお伝えしましたのでここでは書きません。なんにせよ。人に勇気と希望を与えることは素晴らしいことです。低迷している邦画の世界の中で成功を収めたことを心よりお祝い申し上げます。

 

近代日本奇術文化史

 総ページ数660ページに及ぶ、百科事典並みのサイズの文化史が東京堂出版から11月に出ました。噂はきいていましたが、一昨日(27日)届きました。昨日午前中にさっそく読んでみました。

 タイトルは一列で、近代日本奇術文化史となっていますが、一見すると日本奇術、つまり手妻の文化史のように読めますが、そうではありません。ここは近代日本で一度句読点を打って、奇術文化史と言う内容です。つまり明治以降の日本の奇術家、歴史について、活動から、演技の内容など細かく調べて書かれています。

 著者は、河合勝氏、長野栄俊氏、森下洋平氏、の三人の共著のようです。明治以降の奇術史を細かく精査し、時系列など見直したうえで客観的に構成されています。

 恐らく、伝記や、小説のように書かれていた近代奇術師の実像が、初めて科学的に書かれたものだと思います。私は20年前に、「手妻のはなし」、を書き、そこで2000年に及ぶ手妻の歴史を書きました。その後「天一一代」、で、幕末期から明治時代を代表する奇術師として、松旭斎天一の一生を書きました。そして、明治大正昭和の奇術師、アダチ龍光、引田天功、伊藤一葉、島田晴夫、の4人を書いた「タネも仕掛けもありません」、を出しました。

 研究家でもなく、作家でもない私がなぜそんな本を出したのかと言うと、誰も書かなかったからです。大学の文学部の教授は、歌舞伎や、落語の文化史は書きますが、手妻やマジックの文化史を書こうとしないのです。

 以前東大文学部の教授にお会いしてお話を伺った時に、「マジックの文化史は、どうしても種仕掛けに関わってきて、外部の者には、その内容が理解できないため書きにくい」。と仰っていました。そうなのでしょう。

 例えば、5枚カードなどと言う言葉がさりげなく出て来るマジックの世界ですから、5枚カードが何を意味するのか、それの得意だったマジシャンが、どういう理由で得意なのか、誰から習ったのかと調べて行くと、膨大な日数を必要とします。たった一言でも大変な作業です。ましてや、その5枚カードがどこの国の誰が始めたものなのか、などと調べて行くことは、外部の人にとっては不可能に近いことなのでしょう。

 そうであるなら、ここはマジシャンである私の仕事ではないかと、40代半ば以降、私は文章にしてマジックを書伝える活動をしてきました。幸い、手妻のはなしは6000部出ました。日本中の多くの図書館にも置かれています。それなりに一般の読者にまで手妻の内容や歴史が理解されたものと思います。

 然しながら、私はプレイヤーであって、研究家ではないのです。研究は、私の専門分野ではありません。内容も、科学的とは言い難い部分もあります。面白さを優先して書いたのです。ここは優れた研究家が出たのなら、そちらにお任せすべきことでしょう。

 話を戻して、近代日本奇術文化史は内容の濃いエポックメーキングな作品と言えます。ご興味の方があればぜひ購入されることをお勧めします。と言いたいところですが、価格が2万円です。内容の細かさ、ここまでかかった労力を思えば、2万円は安いくらいだと思います。

 今時高級な食事をすれば一食でそれくらいします。旅館に泊まっても普通に2万円はかかります。然し、2万円です。食べ物や、遊びには平気で2万円出す人でも、本一冊に2万円となると躊躇します。恐らくこれを購入する人は奇術に相当熱心な人でも限られるでしょう、一般のお客様はもっと少ないかもしれません。

 もっともっと多くの人に薦めたいと思いますが、内容も価格も、一般的とは言えない書籍です。いわば孤高の書なのです。よくぞ東京堂出版がこれを出したと思います。企業としては決して勝算あってしていることとは思えません。その崇高な精神に敬意を表したいと思います。と、長々価格のことを申し上げましたが、どうぞその点をご理解の上、奇術界発展のためにご協力くださるよう、関係者でもない私からもよろしくお買い上げくださるようお願いします。

 

大掃除

 今日(29日)は大掃除です。前田と、学生さんが二人手伝いに来てくれます。4人でアトリエと2階の事務所を掃除します。毎年のことです。アトリエが15畳分あります。二階事務所が14畳分あります。道具がたくさんあります。半日掃除をするだけでも相当な体力を使います。それでもこれを済ませると、一年が終わったと言う実感がわきます。来年こそは良い年になるように、願っています。願うだけでなく実際に行動して行きます。コロナに敗けてはいけません。活路はどこかにあるのです。どうぞ来年もご期待ください。

続く