手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

実践しつつ考える

 18日は、夕方から田代茂さんが見えて、田代さんの車で岩槻の料亭に招待されました。毎年年末になると田代さんは私を食事に招待してくださいます。大概は高円寺の寿司屋さんか天ぷら屋さんなのですが、今年は料亭です。

 田代さん、私、若手の祐介君と、カンボジアから来たワン君の4人です。場所は、岩槻の喜祥と言う店で、敷地が広く、竹林に囲まれています。玄関に着くまでに門が二つもあり、玄関に入ると、いくつかの部屋がある中で、腰高に拵えた中二階の部屋に案内されました。新しくてきれいな部屋です。女将さんは友禅の着物で、西陣の帯を締めていて、若くて清楚な人です。

 料理は大皿に冬山を模した拵えが出来ていて、煮豆、銀杏、炭焼き小屋などを配し、小屋の中に、橙(だいだい)に見立てたサーモンの握りずしが手毬のように丸く拵えてあります。目で楽しむ前菜です。

 茶碗蒸しの中に鱈(たら)の白子がのった碗が出て来ました。白子は冬の食べ物ですが、茶碗蒸しで出て来るとこれは酒のつまみとしても優れモノです。出汁を味わいながら一杯飲み、濃厚な白子を味わいながら一杯飲めます。ところで酒は、山形の楯野(たての)川と言う酒で大吟醸です。飲み口のいい酒で、いくらでも飲めてしまいます。

 刺身のメインはメゴチです。さっぱりとした魚で、私にとっては脂を気にせずに食べられます。生湯葉が付いてきたのも気が利いています。

 次に海老芋と海老の、真丈のあんかけが出ました。海老芋は私の大好物です。主に関西の料亭で出される素材で。里芋の尻尾がくるっとひねれているため、海老に似ているので海老芋と言います。普通の里芋より甘みのあるのが特徴で、これを箸で少しずつ崩して、酒と一緒に頂くと、あっさりとした和食の、贅沢な深い味わいが感じられます。

 然し、この地味な味が若い人にわかるのかなぁ、と思い、ワン君や、祐介君に、「美味しいと思う?」。と尋ねると、「美味しい」。と言いました。もし私が20歳くらいだったなら、この旨味は分からなかったと思います。海老芋よりはマクドナルドのフライドポテトのほうが旨いと言ったと思います。

 その後、野菜の天ぷらが出て、稲庭うどんが鶏出汁で出て、小豆のムースがデザートに出て、目出度くコースが終了しました。この間も楯野川を飲み続けました。この晩の招待のために、一週間以上酒をやめていましたので、体に異常は出ないとは思いますが、だいぶ飲んでしまいました。

 心に残る料理は、白子の入った茶碗蒸しと、海老芋の真丈です。いい食事をしました。西に辻井さんがいて、東に田代さんがいれば、私にとっては常に満足です。田代さんの厚情に深く感謝します。

 

 さて田代さんは、ケン・ウェーバーの「マキシマムエンターティンメント2.0」と言う本を和訳しました。総体で500ページに及ぶ大作です。中身は、マジックをどう演じるかのノウハウが書かれています。著者のケン・ウェーバーはメンタリストでクロースアップマジシャンで、自身の売り込みが巧く、ショウで財産を残した人だそうです。実践に裏打ちされた奇術論ですので参考になることも多いと思います。スクリプトマヌーバーから刊行です。私も一冊頂きましたので、これから読んでみます。

 

実践しつつ考える

玉ひで公演

 一昨日(19日)は毎月の玉ひででの公演でした。満席でした。その後の申し込みは全て翌月、翌々月に変えてもらいました。いい流れです。あまりに申し込みが増えるようならば一日二回ずつ公演しようと考えています。

 ザッキーさんはロープを自分なりにアレンジして面白い3本ロープの手順を作りました。慣れて来るとこれは得意ネタになるかもしれません。次に、20枚のカードを二つに分けて、二つのグラスに入れ、片方のカードをかき混ぜて配列を変えたにもかかわらず、左右全く同じ配列になるマジック。もう少し一つ一つの不思議を強調すれば、いいトリネタになるでしょう。

 前田はタキシードで四つ玉を演じました。その後でテーブルクロス引きをしました。このところの稽古の成果発表です。私が絡んで喋りで筋運びをします。予想以上に受けて当人も驚いていました。今まで経験したことのない反応でしたから、これは彼にとって新しいジャンルを発見したことになるでしょう。

 私は卵の袋と紙卵、和妻の紐切りを三種、札焼きに、若狭通いの水。間に前田の金輪、そして蝶です。若狭通いの水が巧く通いませんでした。反省です。

 然し、めったにしない手妻もここで度々出さないと、どんどんレパートリーが狭くなってしまいます。そのため無理してでも演じています。

 お客様に元フジテレビのアナウンサー牧原さんが見えました。また、クールジャパンで手妻を紹介してくれたベネズエラ人の若者、カイル君が仲間を9人もつれて見に来てくれました。みんな和服を着ていました。カイル君は袴に羽織を着ています。本心はこれに刀を差したいのでしょうが、なかなかその姿で歩くのは世間では許されません。仲間は日本人が殆どですが、みんな和の文化が大好きだそうです。手妻も面白がって見てくれました。

 

 ショウの後は、出演者とお話の時間です。ザッキーさんはこのところ悩むことが多いようです。3月の独演会をすることを決めたようですが、手順のこと、お客様の気持ちをつかむ方法。自身のキャラクター作り、等々、随分いろいろ質問を受けました。

 いいことです。悩まずに通り過ぎてしまえばやっていることは浅いレベルの低い演技のままです。悩むから芸が深まります。苦しむことでよりお客様の気持ちが分かって来るのです。一年前には気付かなかったことが今、いろいろわかってきたのです。いいことです。こうしてマジシャンが出来て来るのです。

続く