手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

マジシャンを育てるには 6

指導と言うものは

 さて、私のビデオ指導は30代で終了しました。それ以降も、ビデオは作りましたが、ショップなどには出さずに、私の所へ習いに来た人にだけ、直接ビデオをお分けするようにしています。あくまでも直接指導に重点を置いています。それは今も同じです。

 

 私の指導は、初めに作品の沿革を話します。私が誰から習ったか、その時代はいつか、原案の作者は誰か、いつ頃の物か、その辺を詳しく話します。そして模範演技をします。この時の私の演技が、生徒にとっては作品に遭遇する初体験になりますので、とても大事な瞬間になります。

 そのため、なるべく衣装もきっちり着た上で演じます。和の手順は和服を着て、洋の手順はタキシードなどを着て演じています。一人一人の生徒に誠実に、演技を見せ、舞台と同じように演じることがマジックを正しく伝える上でとても大切なことです。

 一通り演じてから種仕掛けを解説し、生徒に演技を教えつつ、実際やってもらいます。生徒は、たった今、演技を見ただけですので、記憶も不確かで、ところどころ間違った演技をします。私はそれをあまり細かく指摘しません。大切なことは初めに全体の流れをつかむことで、全体がわかってから、何度も稽古をして行く中でおかしなところを直して行きます。

 生徒の演技はかなり個々に癖があります。下を向いて観客を見ないで演技する人。観客への角度の配慮が出来ない人。パーム、パスが見える人。幾つかの問題が残ります。それをその場で幾つも指摘すると、生徒の頭の中がパニックになります。毎回一つか二つ指摘するようにします。一つが直るまでは次を教えないことが親切です。

 間違いなくできるようになってから、演技の強弱を教えます。部分部分で演技のスピードは変わります。そこがわからないと演技は単調なものになります。マジックの演技のどこが面白いのか、演技を見せながらその旨味を語って行きます。これもあまり口では説明しません。生徒のセンスを育てる意味で、生徒自身に気付かせるのです。教えることではなく、自然に気付くことが大切です。こうして、一つのマジックは一人の生徒に伝わって行くのです。

 

指導家の資質

 指導すると言うことは、指導者にパーソナリティが備わっていなければいけません。それなりに社会的にポジションの高い人が指導すると、自然に人が集まってきます。マジシャンであるならば、見せている演技がすべてです。演技が良ければ仕事が来ますし、収入にもなります。

 然し、指導家はそうではありません。人として一流だと感じさせる人が、マジックを指導すると、生徒は自然と寄ってきます。話し方も、安っぽい話し方をせずに、一言一言しっかり重みを持って話をすると、人は良く話を聞くようになります。大切なことは教える人の人格であり、姿勢です。構えがしっかりしていれば、生徒は自然自然に内容を理解して行きます。

 安易な指導は、安易なマジシャンを生みます。お手軽な指導は、生徒がマジックをお手軽に考えます。作品よりも、マジシャンがマジックをどうとらえているのか、と言うことを生徒は敏感に察知します。ちゃんと演じる、きっちり演じる。そこを心掛けなければ指導になりません。

 

実践編

 さて、いくつかの手順指導を済ませた後、今度は個人個人の演技作りに協力しなければなりません。生徒一人一人にあった手順を考えなければいけません。これがとても時間がかかります。指導家によほど引出しがないとできない仕事です。

 ですが、あまり過剰に演技に口出ししないことです。大切なことは教えるのではなく、演者の心の奥にある思いを引き出してやることなのです。これをしなさいと強制するのではなくて、演者が本来やりたかったことを引き出して、支援することなのです。

 多くの指導家が、熱心に指導しても、必ずしも尊敬されないのは、自分の意見を押し付けるからです。親切が結果として、生徒にストレスを植え付けているのです。先ず生徒がしたいことを見つけてやらなければいけません。

 生徒には初めから、答えがあるのです。然し、マジックの知識が足らないために、自分が何をしてよいのかがわからないのです。指導家がいくつか教える内に、必ず生徒は、「そのマジックは興味がない」。とか「もっと技のあるマジックをしたい」。等と希望を言い出します。つまり、生徒は初めから答えを持っているのです。それが具体的な形になっていないだけなのです。それを探し当ててやるのが指導です。

 時として、生徒が全く自身の技量を飛び越えたものを覚えたがる時もあります。それが明らかに間違った考えであっても、とにかく一度させてみることです。やって見て間違いを知った時に良きアドバイスをすれば受講者は理解します。それまで成長を待つことです。一度にうまく育つことなど有り得ないのです。

 手順が出来て来て、人に見せる段になると、見せる場が必要になります。然し、いきなりギャラを頂いて、一般の仕事場には出せません。医学の新薬と同じで、出来た薬をいきなり人に投与してショック死したりしては危険です。マジックも下手な芸はお客様をショック死させる可能性があります。そこで、私は、手始めに私から習っている生徒さんの発表会に出演させます。

 来年の2月27日(土)に開催される。マジックマイスターがそれで、そこで生徒さんの発表をします。ここは試演会の場です。私の弟子なども毎年出しています。

 そこで内容が良いようなら、毎月開催している、玉ひでの舞台に出します。或いは、福井の天一祭のゲストに加えます。更に東京と大阪で開催しているヤングマジシャンズセッションのゲストに出します。

 こうして、10回程度の舞台に出演させているうちに、少しずつ演技の手直しをして行きます。始めは何を指摘されても頑なに自分の演技を変えない人もいます。しかし毎回お客様に受けなくて、逆に一緒に出演している人が受けている姿を見ると、自身のまずさに気付きます。そこで、自分の考えが正解でないことを知り、徐々に修正を加えなければならないことがわかってきます。

 今の時代、マジシャン数組が一緒になって舞台をするのは珍しいのですが、とても貴重な体験です。仲間と交わる内に自分が何をしなければならないかが分かって来るのです。そんな場を作り上げることがいいマジシャンを育てて行くことにつながります。

 但し、こうした活動を繰り返していれば、自然にいいマジシャンが育つと言うものではありません。人はそう簡単には育ちません。世間はもっと厳しいのです。そこの話はまた明日お話ししましょう。

続く