手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

マジシャンを育てるには 5

マジシャンを育てるには 5

 さて、いかにマジシャンを育てるかについてお話ししているさ中に、巷(ちまた)では、コロナウイルスの不可解な話が出て来るために、ついついコロナの対応に対する不満を書いてしまいます。おかげで人を育てる話がとぎれとぎれになって済みません。

 一昨日(8日)は、DVDでマジックを指導することの難しさをお話ししました。そもそも、今、レクチュアービデオと言うのは、本当に人を育てるために制作されているのかどうか。根本的なところに疑問を感じます。

 全てのビデオを見て言っているわけではないので、間違いがあれば申し訳ないのですが、いくつかのビデオを見る限り、多くは作者の考えた作品を披歴する場であったり、自身をアピールする場であったり、露骨に金儲けが目的であったり、

 人を育てることを前提とするビデオになかなかお目にかかることがないのですが、こんなことでいいのかと心配になります。

 時折り、メイガスさんの月間指導ビデオを拝見しますが、これなど現代では稀有なほどに親切に、段階を追って解説しています。

 一時、テレビ宣伝までしていましたが、どうしてどうして、決して安易な指導の姿勢ではありません。テレビ宣伝していた時よりも、後半になって、四つ玉や、カードまで懇切丁寧に指導している姿勢が特に素晴らしいと思います。実際に毎月の購読を全てマスターすれば相当なレベルのマジシャンに育つでしょう。

 

 そもそもレクチュアービデオと言うものは、ビデオを買ったアマチュアが、今度は演じる立場になって、素人さんを相手に見せるときに、マジシャンとして、何と何に気をつけて演じなくてはならないかと言うことを解説しなければいけないのですが、

 どうも、そんなこと全く考えずに、とにかく、自分が自分の作品を説明することに一杯一杯で、買ったアマチュアがどう演じるのか、と言う肝心なことを解説していないビデオがあります。つまり、人に教えるレベルになっていないビデオがあります。

 それでは売れないだろうと思います。マジックの世界は指導までもがマチュア化してしまって、指導家の風格が消えてしまっています。

 もっとも、ビデオの価格も3000円を切るような状況ですから、それでプロとして生きて行くのは難しいでしょう。昭和50年代に私がシルク20と言う作品を出したときには、そもそもビデオ価格が一本1万円で。5年間で、1000巻売れました。出す作品が次々1000巻売れましたから、当時なら、ビデオの収入だけでも大きなものでした。

 そのころは、指導ビデオを出していると言うだけでアマチュアから憧れの目で見られた時代でした。実際、それに見合うだけの収入が頂けたのです。仕事を収入だけで判断するのは正しくありません、然し、と言って、余りに報われない仕事には才能ある人は集まりません。価格が低い、なおかつ出せばすぐにコピーされるなどと言う世界では、才能は報われません。芸能の世界なら、きらびやかに輝いていないと魅力がありません。きらびやかに生きると言うのは金がかかるのです。今、指導ビデオを出すこと自体、トレンドではなくなっているのかも知れません。

 

 私自身がビデオを熱心に出していた時代、そのビデオを買ったアマチュアが、いいマジシャンとして育って行くことを想定して制作していたのですが、実際、多くのビデオの買い手は、プロの予備軍ではなく、アマチュアのマジッククラブの指導家でした。彼らの指導のためのおかずネタになっていました。つまり教える人のための指導ビデオで、「また教え」を繰り返すための元教材になってしまったのです。

 私はそれを悪いとは思いません。但し、少なくとも教える人は、ビデオで覚えたのなら、その後で、直接私から習ってほしいと思いました。人にものを教えるなら、少なくともビデオで解説している以上の幅広い知識がなければ、教える人と習う人が同じレベルに立ってしまいます。指導家は、もっともっと深く知っていなければいけません。

 然し、多くの指導家はビデオの指導で満足してしまい、もっともっとプロに接近をして、奥の奥まで知識を得ようと言う人がなかなか出て来ませんでした。私はビデオを出しつつも、「これは間違っているな」。と気づいたのです。そこから私は急激に指導ビデオを出すことへの意欲が薄れて行きました。安易な種仕掛けだけのやり取りに限界を感じたからです。

 私の人生は、大きく稼いでいる絶頂の時期に、ぱっとその仕事をやめてしまうことが多々あります。あまり稼ぎにこだわらないのです。然し後になって自身を振り返ってみると、「あぁ、あの時にやめて正解だったなぁ」。と思うことばかりです。「今も続けていたなら、輝きのない人生になっていたなぁ」。と思います。

 

 私は40代になって、「そもそもプロマジシャンと言うものは」、を出したのも、マジックを種仕掛けだけでしか語らないのは、芸能としてあまりに貧弱だと考えて、これまでビデオで語らなかった部分をまとめて本にして出したのです。

 また、本で「ロープマジック」。を出したのも、手順指導の必要を語り、あえて細かな注意点を詳しく解説して、書籍でありながら、DVDの演技ビデオを付けて出しました。このビデオによって、ロープをどれくらいのテンポで演じなければならないか、初めて分かった人がいたようです。いまだにこの2冊は、熱愛する読者がいて、口伝えで、アマゾンなどで中古本を買って読む人も多く、時折読者から、手紙や感想文などが届きます。

 しかし、私が熱心にDVDや書籍を出していたのもここまでで、これ以降は、DVDの販売価格が下がり、コピーが平気で出回るようになったのでやめました。

 

 今、私は、熱心な若い人の中からプロマジシャンを出して行こうと考えています。そのために、毎月演技のできる場を設け、そこで、私も、若手も出演し、必ず私が毎回若い人の演技を見るようにしています。見た後で、小うるさく意見を言うわけではありません。文句よりも、演技が終わった後で、雑談をする場を設けています。私自身も、若いころは、昔の名人や人気マジシャンの話を楽屋で聴くことが楽しみでした。そんな場を毎回作ることが私の今の仕事だと考えています。

 言ってみればプロを育てるための実践編に入ったわけです。これは手間暇のかかることではありますが、やりがいがあります。それに関してはまた明日詳しくお話ししましょう。但し、コロナでおかしな展開がなければの話ですが。

続く