手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

節税

節税

 オリエンタルラジオの中田さんが、シンガポールに移住して、シンガポールで暮らし、そこから日本に通い、日本の仕事をして行く、と言う話が週刊誌に載っていました。中田さんは初めはコントをしていましたが、今はYouTuberとして、大きな収入を得ているそうです。

 確かに、YouTubeを見ると、中田さんが日本の歴史などを平易に解説しているものがたくさんあります。あれを我々が一回見る毎にいくらかの収入が中田さんに入って行くのでしょう。それを世界を相手に公開すれば、年間で億の稼ぎも夢ではないのでしょう。ヒカキンさんなどとともに、今や若者の希望の星なのだと思います。

 私は今でもYouTubeが収入になるなんて言うことが信じられません。いや、仮に収入になったとしても、それが長く続くとは思えません。文筆業以上に危うい仕事ではないかと思ってしまいます。但し、それはあくまで私の考えです。無論、それで成功している人に対して何か意見がましいことを言うつもりはありません。

 私自身がマジシャンなのですから、危うさにおいては世界の職業のベスト5に入るくらい危うい仕事をしています。マジシャンのことを思えば、人にない才能で、世界を相手に、自身の才覚で稼いでいるのですから、それは素晴らしいことです。

 

 その中田さんが、シンガポールに移住すると言う話で、そこで生活し、YouTubeで得た収入もシンガポールに税金として支払ってゆくと言うのです。シンガポールは個人も企業も税金の安いことでは有名な国です。そもそも税金を安くして、企業を誘致し、才能ある人を数多く住まわせることで、資源や産業に乏しいシンガポールを豊かな国にして行こうと言う政策から、税を優遇しています。

 日本の小豆島位いしかない土地で、日本人より高額な所得を稼ぎ出している国ですから、よほど思い切った政策を取らない限り、都市国家であるシンガポールは生きては行けないのでしょう。

 シンガポールの税金が安いからと、世界中の企業家や、能力ある会社役員が、移住し、税金をシンガポールに収め、節税した収入で、新たな事業に投資したり、或いは、シンガポールで豊かに暮らしている話はよく聞きます。

 いくら税金が安くても、国情の不安定な国や、辺鄙な国、貧しい国では、情報も集めにくいでしょうし、ビジネスチャンスも作りにくいでしょう。文化的な生活もしにくいでしょうから、シンガポールに暮らすことはきっといいチョイスなのだと思います。

 中田さん自身が稼いだ収入を、税金の安い土地に住んで、節税をして、残った収入で優雅に暮らすのは、中田さんの帳簿上は素晴らしい選択なのでしょう。然し、そうなら、日本が国を維持するための経費は誰が払うのでしょう。

 日本の政府を維持するための、例えば、警察官の給料。消防士の給料、学校の教師の給料、自衛隊の給料、国を維持するためのあらゆる経費は誰が支払うべきなのでしょうか。日本で仕事をして、収入を得ているのなら、警察の協力を求めることもあるはずです。ひとたび災害が起これば自衛隊の協力も求めることもあるでしょう。先の水害の時に、老人を背負って川に肩まで浸かりながら必死な救助をしていた自衛隊員を見ていたら、私は涙が出て来ました。あの人たちの給料は誰が支払うのでしょうか。我々が支払わなくてどうしますか。

 日本で仕事をし、様々な日本人の世話になっておきながら、税金が高いからと言う理由で海外に移住してしまって、本当にいいのでしょうか。中田さんのように若い人に影響力を持つ人が、税金が安いことを理由に率先して海外移住をすれば、多くの若い人はマネをするでしょう。それがいい事でしょうか。

 

 実は、昭和の40年代から、企業の経営者の中で、税金を納めないで、儲かった利益を土地や不動産に投資することでとんでもない稼ぎを上げた人たちが大勢いました。外から見たなら、巨大な、誰でも知っているような一流企業です。この経営者は年間国に100万円しか事業税を支払いませんでした。ものすごく儲かっているのに、です。

 儲けの全ては、不動産に投資して、銀行から金を借りてビルを建て、企業や、個人に貸し出して、家賃収入を上げます。その収入も次の不動産に投資します。足らない分は銀行から、土地を担保に金を借ります。企業は儲かっているにもかかわらず、帳簿上は次の投資のために利益を使いきり、赤字経営になっています。本来支払わなければならない税金を支払わず、それでいて、企業の資産はどんどん増えて、東京の町中にこの企業の名を冠したビルや土地が目に付くようになります。

 この経営者は脱税をしているわけではありません。合法な金儲けをしているのです。この経営者はある時期、経営の神様のような扱いを受け、経済誌に顔が載りました。然し今、この経営者が語られることはありません。なぜか、平成になってバブルが弾けて、あっという間に不動産価値は三分の一に落ちてしまったのです。銀行は不動産の担保では金を貸さなくなります。焦げ付いた不動産を山のように抱え、企業は倒産してしまい、経営者は消えてしまったのです。

 平成になってからそんな企業が山のように出ました。でも誰も彼らに同情しませんでした。彼らの言う企業戦略とは何だったのか、節税とは何だったのか。帳簿の収支は間違っていないのに、なぜ人から嫌われたのか。結局自分の金儲けしか見ていなかったのではないでしょうか。国や、周囲の人におんぶにだっこで、我ままし放題で、少しも人の役に立っていなかったからなのではないですか。

 高くても税金は支払うべきです。自分の稼ぎが国の役に立っているなら、それは誇るべきことです。日本人として最低限しなければならないことを出し惜しみして、自分一人豊かに暮らしている姿が、かっこいいですか、若者の憧れになりますか。

 少しは町のため、国のため、地に足をつけて、周囲の人のためを考えるべきです。と、言いつつ、よく考えてみたならYouTubeは元々地に足をつけて活動していないのでしょうから、そんな人が海外移住されるのも致し方ないのでしょうか。そうなら私が何か言うことではありません。でもそんな生き方をする人を私は尊敬できません。

続く