手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ミスターマジシャン待望論 2

 昨日(18日)は午後から3人の学生さんが習いに来ました。今彼らは手順を作り直しています。内容が良ければ、玉ひでか、来年2月のマジックマイスターに出してみたいと思います。まだ学生ですし、舞台回数も殆どありませんので、DVDなどを見る限り、まだまだの演技です。でも、熱心に私の所に通ってくると言うことは、相当に熱意のある証しですし、話を聞いているといろいろな人の演技をネットなどで見ています。この中から必ず将来のマジシャンが生まれます。気長に待つ以外ありません。

 

 30日のマジックセッションは、残り10席くらいです。観覧ご希望の方はお早めにお申し込みください。

 

 来月の玉ひでは、21日です。お食事付きで、座敷の距離でマジックと手妻を見る企画です。毎回お客様は満足して帰られます。ぜひ一度ご覧になってください。

 

 秋の集中合宿は、11月14日15日です。二日間で都合6時間の指導をします。指導料は二日で1万円。食事代は4食で3000円。交通費は、レンタカー代ガソリン代などで、一人3000円くらいです。自家用車でお越しの場合は交通費は自己負担です。新幹線でお越しの場合は、上越新幹線上毛高原駅下車です。時刻をお知らせくださればそこまでお迎えに上がります。みっちり2日間の指導ですので、手順物などを固めて習うには良い機会です。

 

ミスターマジシャン待望論 2

 結局。若いマジシャンが育つには、初めに、ちゃんと自分の演技で生活しているマジシャンが存在していない限り若い人は育ちません。当たり前の話です。生活して行けるとはいっても、部屋代を支払って、諸経費を引いたら何も残らないと言う生活では悲しすぎます。それなら勤め人の方がましです。勤め人は、会社から交通費も出ますし、ボーナスも出ます。それを貯金をすればわずかでも財産が残ります。

 マジシャンが、自分の創造を生かして1年仕事をして、何も残らないかったと言うのは、生きてきたことにはなりません。創造が創造と認められていないのです。認められる、イコール金ではありませんが、金のために仕事をするわけではなくても、人を育てたり、次の自分の夢を実現させるために必要な資金が貯まらなければ、何のために生きているのかがわからなくなります。

 先ず、ある程度生きて行くうえでゆとりのあるマジシャンがいなければ、若い人は目標を定められないはずです。このレベルから話をしなければならないと言うこと自体が、今のマジック界を如実に物語っています。

 

 実際、芸能で生きて行くことは並大抵のことではありません。特に今は、コロナウイルスのせいで、全ての芸能は危機的状況です。でも、ウイルスがなかったころですら、俳優でも、音楽家でも、落語家でも、ちゃんと生活して行けると言う人は数えるほどでした。ほとんどの人はサイドビジネスを持っている人か、奥さんに養ってもらっているか、親に養われているか、そうした人が大勢います。無事、自力で芸能で生きている人はほんの一握りなのです。

 然し、それでも、各分野には、確実に表芸だけで生きている人はいます。マジックの世界も、各カテゴリーに10人、20人は表芸で生きている人が欲しいのです。その中で、知識もあって、演技がしっかりしたマジシャンが出てこそ、それがミスターマジシャンです。

 

 私が望むマジシャンと言うのは、コンテストなどで入賞したマジシャンではありません。それはそれで努力を認めますが、コンテストは、プロで生きて行く登竜門に過ぎません。コンテストには、プロを目指さないアマチュアでも参加しています。そんな人たちの中で入賞を勝ち得たとしても、それでその先マジックで安定して生きて行けるものではありません。自分を試す意味でコンテストに出るのはいいとしても、そこでどうにかなったら、いつまでも勝利に浸っていないで、さっさと生きる道を素早く切り替えなければだめです。

 プロになるなら、プロとして生きることがどういうことなのかを真剣に考えなければいけません。コンテストはどんなに苦しいと言っても一回こっきりの勝負です。生きると言うことは、その先数十年続く苦労なのです。

 

 第一、コンテスト手順などと言う奇怪な手順をこしらえて、横から見られたら出来ない、舞台を暗くしないとできない、一度緞帳を降ろさなければできない、などと言った手順を作り上げても、それをどこで仕事にして行くのですか。それをコンテスト手順だなどと言って、「日本のショウビジネスは、タレントに冷淡で、しかも舞台環境が悪い」。等と言っているマジシャンを見ると悲しくなります。

 世界中どこに行ってもきっちりとした舞台設備のあるところのほうが稀です。どこの国でもマジシャンに都合の良い舞台などそうそうあるわけがないのです。

 そうは言っても、確かにいい舞台はあります。然し、そうした舞台は、自分が自分の看板で1000人1500人集められる芸のある人でなければお呼びが来ないのです。1000人を集められる力のない人が、いかに日本のショウビジネスの不甲斐なさを語っても、語るそばから北風が吹きます。

 自分がまずどこへ出しても通用する演技を持たなければだめなのです。一部の理解者のためのマジックをしていても誰も注目してくれないのです。

 自身の原点を見直してください。あなたは本来どんなマジックがしたかったのかそれをもう一度考えてみることです。一度自分の理想の演技を絵にかいてみることです。

 10分の手順なら、30秒に一回、その都度、どんな演技をしているかを絵に描いてみることです。10分なら20枚の絵になります。それを何度も何度も眺めてみることです。

 それが出来たら、道具を作り、手順を作ってみます。

 何度も推敲したうえで手順が出来たなら、それで仕事になるかどうかを先輩のプロマジシャンに相談してみることです。行けそうなら、次に、その演技を買ってくれる人を探すのです。道は簡単ではありません。でもやるしかありません。

続く