手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

岐阜 徳専の卵かけごはん

  昨日(11日)は、名古屋の指導から帰って、片づけをしているうちにくたびれてしまい、すぐに寝てしまいました。私のブログを期待してくださっていた皆様には失礼いたしました。

 10日の朝は台風で新幹線が止まるのではないかと心配し、いつもは朝10時に家を出るのですが、この日は朝7時半に家を出ました。前田は7時半前に来ています。私が一人で指導に出かけるときは、荷物が重いため、いつも中野駅まで前田が運転をします。富士は、通常は1時から指導をしますが、台風のため、前日に10時から指導をしますと伝えました。そして8時半に東京駅着、新幹線を見ると、間引き運転もありません。

 「あぁ、これなら通常に出かけてもよかったかな」。と思いましたが、それは結果論です。台風が少し本州に寄って進んでいたなら今頃突風が吹いて、木が倒れたりして事故が連発していたでしょう。

 と言うわけで富士の指導は、10時から、午後3時半まで致しました。基礎指導プラス個人指導ですので、5時間くらいかかります。富士は皆さん熱心です。四つ玉をする人、リングをする人、お椀と玉をする人、みんな少しづつですが上達しています。

 さて、指導を終えてから新幹線に乗り名古屋へ、さらに在来線で岐阜へ向かいま

す。辻井さんには、いつもの時間を早めて、7時集合にしてもらいました。無論、峯村さんも一緒です。行く先は岐阜一番と噂の料理屋、徳専です。1年前にも伺いましたが、忘れられない店です。私はいきなり常温の三千盛りを頂きました。飲み口のいい酒で、うっかり気を抜くと幾らでも入ります。

 料理は、何品目かに北海道産のシシャモが焼かれて出て来ました。長さ10センチ、皿に一匹盛られてちょこんと出ました。見かけは何とも寂しいのですが、頭からかじりつくと適度に脂がのっていて、しかも軽い塩けが合わさって実にいい味です。始めはなんだこんなものと思いましたが、このサイズが、酒飲みにとっては、腹に邪魔にならず、酒を引き立てるつまみとしては最高です。

 シマアジとマグロの刺身が出ましたが、これも量がわずかです。然し、素材がいいせいか、これで十分に楽しめます。お終いの方に松茸が天ぷらではなく、フライで出て来ました。噛むと中は温かく、松茸の香りが漂います。これこれ、この香りです。この香りを楽しみながら、「今年ももう10月になったんだなぁ」。としみじみ思います。先週は、岡山まで行きながら松茸にお目にかかれませんでしたが、岐阜で再開できたことは喜びです。岡山の高上社長もいい人ですが、辻井さんはとてもいい人です。

 と、話はここで終わるはずなのですが、締めにおじゃこごはんが出て来ました。そうです、徳専噂の卵かけごはんの第二段。おじゃこご飯です。先ず茶碗に温かい飯が出て来ます。通常の半分の量の飯ですが、私としてはいつもの糖尿患者の晩飯の量です。然し、飯が少し違います。キラキラ輝いています。

 少し箸でつまんで食べてみました。甘みがほのかに感じます。いい米です。ここにおじゃこを二種類かけます。通常の塩で炊いたおじゃこと、山椒と一緒に醤油で炊いた茶色いおじゃこです。これが料理人の魔法です。塩で炊いたおじゃこの塩味、醤油で炊いたおじゃこの醤油味と山椒味、これが飯に混ざって異なる塩気が交互に出て来ては飯を引き立たせます。「うまい、飯のおかずは、飯を引き立たせるものでなければいけない」。こんな基本的なことを、私は忘れていました。

 たらこでも、塩鮭でも、飯を引き立たせるからうまいのです。と、感想を話すと、峯村さんが、「こないだ食べたからすみもそうですねぇ」、と未練たっぷりにからすみの話を持ち出しました。すると、辻井さんは、「それなら来月は八祥でからすみを食べますか」。と言うと、みるみる峯村さんが笑みを浮かべました。私が、「峯村さん、おじゃこ飯を食べながら、からすみの話をするのは浮気ですよ」。と言うと、その言葉に恥じらいも見せずに、「さっきから噂していた、卵かけごはんも食べてみたいですねぇ」。と、浮気の二股話です。言われて私も急に卵かけごはんが食べたくなりました。

 然し、飯を半分にして終わるところが会席膳の余韻なのでしょう。それを腹いっぱい食べるのはまるで大衆食堂の労働者のようで失礼かと思いましたが、食べたい欲求は収まりません。そこで、おじゃこ飯を食べながら、卵かけごはんを注文しました。傍から見たなら無粋で間抜けな男供です。

 そして飯が出て、生卵が出て来ました。「ご飯はこれですべて終わりですので」と、くぎを刺されました。馬鹿な客が三杯目を注文されたらどうしよう。と、牽制球を投げてきたのでしょう。そう言われると悔しいので、三杯目を頼んでレトルトカレーでもかけてやりたいと思いましたが、一流料理屋で馬鹿な争いをしても意味がありません。

 さて、この卵は、奥美濃地鶏と言う種類だそうで、最高級の卵だそうです。つるんと丸い黄身が白身の上で盛り上がっています。醤油をかけて、飯にかけ、混ぜて食べますと、確かに卵の黄身の味わいに、ほのかに脂身のようなこくを感じさせます。「あぁ、いい卵は脂みのこくを感じるものなんだ」。改めて納得です。飯との相性も抜群です。あまりにうまくて、前に出て来た料理を忘れてしまいます。こうして、三人は食事に満足して、柳ケ瀬のグレイスに向かいました。

 グレイスはロシア女性はいませんでした。チーママは淡い水色の単衣の着物で迎えてくれました。ママは濃い目の単衣です。帯には厚い刺繍でウサギが描かれています。お月見に合わせたそうです。いい趣味です。ここでまたばかばかしい話をして、11時。ホテルに行きました。さすがに私は早朝から起きていたので、少し疲れました。このまま部屋に入って休みました。

 翌朝は峯村さんと食事をして、名古屋駅まで一緒に行き、そこでお別れしました。指導会場に行き、半日指導をしました。指導を終えて、少し時間があるので、その周辺を歩いてみました。

 円頓寺と言う古いお寺があり、大きなアーケードがありました。昔栄えた地域なのでしょうか、何十年も名古屋に来ていながらこの町は初めて来ました。周囲に立派な倉造りの家が並んでいます。一度寂れた地域が、再度見直されて、若い人が集まってきているようです。名古屋にこうした古い美観地区があるとは知りませんでした。この町は名古屋の新たな核になるやもしれません。来月又散策してみます。

続く